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(3)お前らの本当に欲しいものは何だ

どうも、尾崎ゆーじです。


短編とはいえ、毎日更新(嘘です)できていることに驚いています。


一定のクオリティを保って書けるようがむばります。


一応、あと一話ストックがあるので安心。


つーかこの話、主人公が(1)より下衆です。

 俺は車を停めると、大きく深呼吸をした。手汗でハンドルがぬるぬるしていた。


 これから重要な話をしなければならない……最悪の場合命に係わるため、どうしても緊張してしまう。


 時刻は夜の十時を過ぎていた。俺が到着した時、そのプレハブ小屋の周囲は真っ暗だった。


 すぐにライトを消し、エンジンを止めた。


 明かりや音はなるべく立てない事。それが、この小屋に近づく時のルール。


 胸に手を当て、もう一度大きく息をする。ありがたいことに、恐怖心が和らいだ。


 車を降りる。俺の車の他にも、一台の車が停まっている。


 ショージの車だ。暗くて今は見えないが、ダサいシルバーの古い軽ワゴンで、車体側面に変な炎の模様が描いてあり、地味に目立つ。


 俺は小屋のドアを七回連続でノックした。俺たちの間で取り決めた合図だ。合い鍵を持たされていないので、こうするしかなかった。


 ドアが開いた。リョーヘイが開けてくれたようだ。その不安げな目が、ドアの合間から俺を見つめていた。


 奥にはショージが居た。カーペットの一つに胡坐あぐらをかいて、煙草をふかしていた。


 その隣に、きちんと手入れされたコンバットナイフや、裁ちばさみが置かれている。この辺りは険しいやぶになっている場所もあるので、そういったものの処理に使う。今回は、それ以外の用途でも使用したのだろうが……。


 中に入り、靴を脱ぐ。フローリング調の床や、つぎはぎのように置かれたカーペットはどれも土や砂埃で汚れている。蠅や蚊の死骸もちらほら見受けられるが、一応、土足厳禁だ。俺は五年以上使い古したスニーカーを隅に並べて置くなり、二人に向かって尋ねた。


「まだ……何もしてないのか?」


 俺は座りたくなかったので、壁に寄りかかり、ショージを見下ろした。その際、転がっていたビールの空き缶をつま先で蹴ってしまい、軽い音が室内に響いた。


 比較的大きな小屋である。少なくとも十畳はある。二つある窓はどちらもベニヤで塞がれていて、外側から中の様子を窺うことはできないようになっている。


 近くに電源が無いため、三台の電池式のLEDランタンを灯している。男三人でその灯りを囲むと、子供の頃に行ったキャンプを思い出す。


「安心しろって。何のためにお前を呼んだと思ってんだよ」


 ショージはにやにや笑いながら、ステンレスの灰皿に煙草を押しつけた。昔から付けているスカルのリングが、人差し指で怪しく影を作っていた。


「相手も三人なんだ。こっちも三人の方が面白いだろ?」


 今度はリョーヘイが煙草を吸い始める。指先が強張っている様子で、自慢のオイルライターの扱いがいつもよりぎこちなかった。どうやらリョーヘイも、この状況に緊張しているらしい。普段から神経質そうに見える男だが、眉間に皺を寄せ、一重の両目をさらに細めていたため、今はなおさらそう見える。


「……なあ、やめた方がいいぜ」


 俺がそう言うと、リョーヘイが慌てた様子で煙を仰いだ。


「ご、ごめん、さすがに煙いよな」


 換気設備に乏しい室内でぷかぷかやるのは、確かにやめてほしい事ではあるが……。


「そうじゃない。お前たちが──いや、俺たちが今、やろうとしてることだよ」


 俺は落ち着いた声に聞こえるよう意識した。二人の目を交互に見つめ、真剣に、諭すように言う。


「おい、どういう意味だ?」


 ショージが身を乗り出す。


「わかってる。とにかく……落ち着いて、説明させてくれ」


 予想通りの反応に、俺は手の平を相手に向け、抑えるようにジェスチャーをした。


 どうしてもナイフの方に目がいってしまう。さらにその近くには、ガムテープや結束バンドの束、ビニール紐などが雑に置かれていた。


 俺は心の底から、間違いが起きないことを祈った。


「……お前たち、『裏野ドリームランド』に行ったんだよな? それで、そいつらを見つけたんだよな?」


「それがどうした?」


 ショージが苛ついた声で言う。


「『真実の迷宮』とかいう、ミラーハウスには入ったか?」


 俺の問いに答える代わりに──ショージは手を叩いて大笑いした。その笑いはわりと長く続いたが、ショージは「はぁ……」と下を向き、ようやく落ち着いたのかと思うと、今度は真顔で、数秒の沈黙を作った。こういう間を作るのが、こいつの嫌なところだ。


「……なぁに言ってんのかなぁ、ケンジ君。オレたちは遊園地に遊びに行ったんじゃないんだぜぇ? ましてや、もう潰れちまってんだ。馬鹿を言うんじゃねえよ」


「そういうつもりで言ったんじゃない」


「じゃあ、どういうつもりだ?」


 ショージはゆっくりとコンバットナイフを取り、両手でもてあそんだ。


 俺はそれを見て、緊張感が増した。 ……だがそれが逆に、俺の言葉に力を与えてくれたようだ。


 理屈じゃよくわからないそういう事を、わりと信じる方だったりする。


「お前たちに電話もらってから、結構時間が経っただろ? 馬鹿ばかしいと思うかもしれないが、俺、その間にかなり考えてたんだよ。これをお前たちに言うかどうかも、迷ってた……」


「あぁ?」


 ショージが訝しげに、俺の顔を覗き込む。


 声が震えた。


「俺、実は最近、あそこに行ったんだ。で……そこのミラーハウスの中にある、『真実の間』って場所に入っちまったんだ」


 俺は恐怖心を悟られないように、予めイメージしていた内容を、そのまま淡々と話した。


 ──数日前、中学二年生の弟にせがまれ、俺は車を走らせて『裏野ドリームランド』に行った。すでに廃園している遊園地ではあるが、なぜかなかなか取り壊されない不気味な場所だ。


 最近、その遊園地が中高生の間で話題になってきているらしい。『真実の迷宮』というミラーハウスがあり、一定の手順を踏んで進むと、『真実の間』と呼ばれる部屋に辿り着き、そこでは『本当の自分』が映し出されるのだ。


 本当の自分が映るとはどういう意味かというと、自分の心の奥に隠してある本音や、自分の潜在意識下にある欲求などが、鏡を通して映るという意味だ。人によって見え方は異なるようだが、俺の場合、鏡に映った自分が、その本音を強く語りかけ、視覚的にも訴えてくる感じだった。


 その本当の自分──心の奥の本音に気づいてしまうと、後戻りができなくなる。もう、居ても立っても居られなくなり、それを行動に移さなければという焦燥感にすら駆られるのだ。


 気づかなかったふりをして過ごしても、いずれ限界がくる。


「は? そんなわけのわかんねえ話を、事実みてえに話してんじゃねえよ」


 そこまで話を聞いていたショージが、耐えられなくなったのか、ナイフを床に突き立てた。ドッと重い音がして、小屋がびりびりと震えた。


「……事実みたい、じゃない。事実なんだよ」


 心臓の音が大きくなり、鼓動が早くなる。


「俺は、『真実の間』に入った。そして実際に……」


「うるせええ!」


 ショージがナイフを床から抜き、立ち上がった。その声に俺もびびったが、リョーヘイの方がさらにびびったと思う。


「ごちゃごちゃ言ってんじゃねえ! こっちは獲物を目の前に、待ちくたびれてんだ!」


 ショージはずかずかと歩き、室内の隅にどんと置かれている、大きな銀色の冷蔵庫へと向かった。


 業務用の冷蔵庫だ。二台もある。廃棄されていたものを、黙って拝借してきたのだ。


 もちろん壊れているので冷蔵庫としては使えない。とにかく大きくて、平均的なサイズの大人でも、一台につき二人くらいは余裕で入る。こういうのを見つけてくるのはリョーヘイが得意だった。


 ショージは取っ手を掴み、荒々しく扉を開いた。


 片方を開けると、セーラー服を着た女の子が一人、中に入っていた。手足を結束バンドで縛られ、エビのように縮こまった姿で横になっていた。黒い布で目隠しをされ、口にビニール紐を噛ませられている。


 セーラー服は多少汚れているもののパリッとしていて、どこか真新しい感じがした。制服を買ったばかりの新入生だろうか? 今は四月なので、季節柄、その可能性は高い。体つきから察するに、高校一年生か。


「どうだよ? これを見ても、同じ台詞を吐けんのか!?」


 ショージはもう片方の冷蔵庫も開けた。今度は同じセーラー服を着た女の子が、二人入っていた。両者とも同様に縛られ、寄り添うようにして座っていた。


 三人とも、冷蔵庫が開いたことで驚いたのだろう、体がぶるぶると震えていた。


 スカートから見える生足が、その若さを訴えている。


 ──例の『真実の間』の噂が広まるにつれ、近頃、若い学生が怖いもの見たさに『裏野ドリームランド』を訪れるようになった。その情報を得たショージたちは、出入り口付近で彼女らの自転車を見つけ、園内から出てくるのを待ち構えていたそうだ。


 彼女らの顔には、殴られたような跡がある。こういうところが、特に嫌だ。


「ショージ、残念だが……もうどうしようもないんだ。本当の自分には抗えない」


 俺は引くことができなかった。


「あ? つまり、どういうことだ?」


 ショージが睨みながら近寄ってきた。


 俺は身構えた。


「俺は本当の自分を見た。 ……で、感じたんだ、もうこんな事をしてる場合じゃないってな。いつかお縄にかかって……何十年も無駄にして……そんな人生でいいのかってな」


 そう告げた途端、俺の顔の真横──小屋の壁に、ナイフが突き立った。ショージが逆手でナイフを持ち、一瞬で間合いを詰めたのだ。俺はその動きに全く反応できなかった。そもそもショージは格闘術に長けていて、がたいもいい。俺みないな痩男が闘って、勝てるような相手ではない。


「……マジで言ってんのか?」


 その両目は血走っていた。


「ああ。本当の俺は、こう言ってた。俺が本当に欲しいものは違うだろってな。ろくに抵抗できない子供を捕まえて、一時の満足を得て──そんなチンケな人生で良いのかって」


 俺はショージの手首を軽く握った。できれば振り払いたかったが、その腕はびくともしない。


「……チンケだと?」


「チンケだ。わざわざどうして子供を選ぶ必要があるか、今まで考えたことがあるか? どうしてわざわざ警察の世話になるような真似までして女とヤんなきゃいけないのか、疑問に思ったことはないか?」


「ど、どういうことだよ?」


 ショージの目が泳いだ。


 俺は続けた。


「それは、自分たちに自信がないからだ。だから弱い立場の、何にも知らない子供を無理やり襲わなきゃいけないんだ」


「自信が無ぇだと?」


「そうだ。女優みたいなべっぴんで、エロい体で、しかも金もたんまり持ってるような、めちゃくちゃ良い女を相手にしないのはどうしてだ? 真正面から口説き落として惚れさせれば、何発でもヤレて、しかも金も使わせてもらえるかもしれない。それなのにわざわざ法を犯してまで、こんな青臭ぇ貧乳まぐろを集めてくるのは何でだ?」


「あ……う……」


 俺の気迫が、ショージを圧倒していた。しかも俺の言っている事は正論。ショージのように、腕にものを言わせて何も考えずに生きているような奴には、反論は難しいだろう。


 自然と言葉に熱がこもってくる。本当の俺が、力を与えてくれる。


「俺は『真実の間』で、本当の俺を見てきた──いや、本当の俺と、その俺と一緒にいるお前たちを見てきた。その俺たちは、そんなやばい女を簡単に口説いて、何人も引き連れてた。それが本当の俺たちだった!」


「お、お前、何言ってんだ……? 本当の俺たちって言っても、ただの夢みてぇなもんだろ……? そんなの、叶うわけがない」


「それは違う。さっきも言っただろ? 本当の自分に気づいた奴は、その真実に抗えない。本当の自分を生きるために、もの凄い根性を出すんだ。必要なら何日も休まないでドカタやったり、口説きのテクも身に着ける。今の俺は、それができると確信してる」


「まじかよ……」


 ショージはナイフから手を放し、呆然とした顔で言った。


「お、おれも、それがいいと思う!」


 今まで黙っていたリョーヘイが口を挟んだ。


「おれ、JKもJCも好きだけど、もう警察にびくびくするのやだよ! こんな汚ねえプレハブで、シケモク吸うのもやだよ!」


「お前はどうだ? ショージ」


 ショージは脱力し、どしんと腰をおろした。


「わかった……お前に従ってみよう。だがよ……」


 弱々しい声でそう言いつつ、ショージは未練がましく冷蔵庫の方を見た。捕まえた女の子たちがいる。


「悪いが……それはできないぞ。俺が本気だっていうことを証明するために、この子たちは、無事に家まで送る」


 俺がそう言うと、


「おいおい、それはやばいだろ! こいつらがチクらねぇわけがねぇ!」


「そうだよ。もう捜索願いが出てるかもしれないのに、のこのこ車で行ったら、足が付くに決まってる!」


 ショージとリョーヘイが、焦った様子で反対した。


「ああ、だから俺の車を使う。ショージのは目立つし、お前らに危険な橋は渡らせない」


「お前……」


「だから先に行け。それで……俺たちの『初めての場所』に、『初めての時間』で落ち合おう。俺が時間に間に合わない時は……捕まったと思ってくれ」


 初めての場所とは、俺たちの地元にある山のことだ。そこに俺のワゴン車を停めて、三人で、捕まえた一人の女を回したことがある。時刻は午前三時だった。たまたまそういう時間に事を終えて、三時のおやつだとか言って笑っていた。


 あまり、良い思い出とは言い難い。


***


 ショージとリョーヘイはその後もしばらく躊躇っていたが、俺の決意が固いことを理解したのだろう、「絶対に捕まるんじゃねえぞ」と言って、先にプレハブを出た。


 ショージの車のエンジン音が遠ざかるのを確認し、俺はほっと胸を撫で下ろした。


 そして冷蔵庫の中にいる女の子たちに目を向ける。


 ──ようやく、これで独り占めできる。


 ……なんて、昔の俺なら考えたかもしれないが、今の俺はそうじゃない。さっき話した通り、警察に捕まる覚悟でこんなガキ共を相手にする気はない。


「聞いてただろ? 家に帰してやるから、とりあえず車に乗れ」


 俺は女の子たちの足の結束バンドだけを切り、一人ずつ車に乗せた。もちろん腕の拘束なども解いて欲しいように見えたが、まだ足だけだ。


 プレハブを出て、無言で車を走らせる。向かう先は、『裏野ドリームランド』だ。


 ……俺はあそこで、本当の俺を見た。それは確かだ。


 だが実は、ショージやリョーヘイと一緒にいる姿なんて全然見ていないし、嘘っぱちだ。あれはすべて俺だけの話であって、むしろあいつらとは縁を切りたくて、こんな芝居を打った。


 もうあいつらと会う気は無い。『初めての場所』にも行く気は無い。


 誰も俺を知らない土地に行って、新しい生活を始めるのだ。


***


 夜の遊園地は、この上なく不気味だった。某有名テーマパークであれば華々しくライトアップされるのだろうが、ここはすでに廃園。


 入口の手前に車を停車させる。


 ゲートには厳重に鎖がかかっており、立入禁止の看板が並んでいる。すでに何人も立ち入っていると思うと、なんだか不憫だ。


 遠くの方に、観覧車の黒い影。確かあの周辺に『真実の迷宮』の建物があった。


 ──なぜ俺が、彼女らを連れてここに来たのか。


 理由は簡単。俺が警察に捕まりたくないからだ。


 ショージたちには『彼女らを家に送る』と言ったが、あれも嘘だ。リョーヘイが言った通り、警察に俺の情報が漏れるのは避けたい。


 ──見つけた。


 彼女らがここまで来るのに使用したであろう自転車が三台、黒い草むらの中に隠れるように置かれていた。おそらくショージたちが隠したのだろう。彼女らはここに自転車で来て、そのままさらわれたのだ。


 俺は車を降りてナンバープレートをマグネットで隠し、バンダナを口周りに巻いた。さすがに車体の色や形は変えようがないから、ダッシュボードの中に入れっぱなしだった懐かしの初心者マークを二枚、後ろに貼っておいた。いくらかでも、彼女らの意識がそちらに向けばいいと思った。


 作業が終わると、俺は後部座席の方に乗り込み、ドアを閉めた。


 雑魚寝するように転がっていた三人が、俺の様子を窺うように、息を詰めている。


 ちなみに俺の車は、後ろのシートを常にフラットの状態にしている。その方が使いやすかった。


 そこで何人も犯してきた。決して誇れる事ではないが、これでチャラにしてもらえたらと、身勝手な事を願う。


「悪いな。さっき話していたのと事情が変わっちまった」


 俺は彼女らの手と口の拘束を解き、目隠しだけは取らないようにと脅した。頬にハサミの刃を当てれば、効果は充分。彼女らは暴れることなく、おとなしく俺の指示を待つ。


 あとは車から降ろし、それから自分たちで目隠しをはずさせればいいだけだ。その間に、俺は車を出して逃げる。これで、警察に俺の素性がバレることは無いだろう。


 彼女らの視力が戻り、状況を理解した頃には、俺の車はもう無い。万が一、車を見られてしまったとしても、ナンバープレートは隠しているし、もう俺はこの地を離れる。捜索は困難だろう。


「降りろ。これでお前たちは帰れる」


 そう言って、一人の女の子の腕を掴んだ時だった。


「……ありがとうございます。助けてくれて」


 礼を言われた。小顔で髪が短めの女の子。散々泣いたのだろう、声が少ししゃがれていた。腕の感触は、案外しっかりした感じだ。


「どうでもいい。そんな言われはない」


 事実、これからお前らを夜の遊園地に放置して、一人で逃亡するわけだし。


「お礼、したいです……」


 彼女はそう言ったかと思うと、物欲しげに口を開き、もう片方の手で俺の足元をまさぐった。


「おいおい……」


 その手が徐々に、俺の膝、腿へと、少しずつ、様子を窺うように這い上がってくる。


「声、かっこいいですよね」


 彼女が言うと、他の二人も静かに口を開いた。どちらもかすれていて、裏声のような喋り方だった。


「それ、わたしも思ってました」


「さっきの熱弁、震えました」


「あ、いや、そうかな……?」


 俺が戸惑っている間に、手はついに、俺の股間に触れた。優しい触り方に、鳥肌が浮いてきた。


 彼女が何をしようとしているのか、想像はつく。


 ここで行為に及んだら、さっきの熱弁にいきなり冷や水を注ぐような気がするのだが……。


 しかしよくよく考えてみたら、かつて女子高生を無理やり犯すことこそあったが、同意の上で積極的に──というのは、悲しいことに、これまでの人生において経験が無かった。


 ──高みに登ったというか、本当の俺に近づいたってことかな。


 俺は彼女らの目が見えないのをいいことに、満面の笑みを浮かべた。


 その時だった。


 いきなり足をすくわれ、俺は車内で倒れた。助手席のシートに頭をぶつけ、一瞬、意識がもうろうとした。


「えっ?」


 掴んでいた女の子の腕はすでに外されていた。代わりに俺は仰向けに倒れ、両腕を押さえられていた。胸の上にどんと座られて、思わず咳込んだ。


「お、おいっ、こら!」


 もの凄い力だった。いくら俺が痩男でも、女子高生相手に腕力で歯が立たないなんておかしい。


「あー、やっと目隠し取れた! お、アキラ、その体勢エロいね」


「でしょお?」


 その間に二人が目隠しを外したのだろう、そんな会話をしつつ、俺の足を押さえた。視力は思っていたよりも早く回復したようだ。


 俺はジーパンを下ろされ、両脚の自由がきかなくなった。


 女の子たちの表情は、よく見えなかった。


 俺の目の前には、アキラと呼ばれた女の子のスカートの裾があり、それが視界の大半を占めていた。


 頭上から、アキラの声がした。


「お兄さんもわかってるでしょ? あたしたち、本当の自分に気づいちゃった同士の仲間なんです。でもどうしても『本当の自分』を信じられなくて、試しに三人で一緒にコスプレ用のセーラー服着て、もう一度『真実の間』に行ってみようかって事になって……そしたら捕まっちゃって」


 一体、何の話だ? コスプレ?


 それより、声がさっきと全然違って、かなり低く聞こえるんだが……。


「あたしたち、男性を襲いたいって願望もあって……それって難しいかなって思ってたけど、勉強になりました。お兄さんたちみたいにやれば、簡単にできちゃうんですね」


 台詞だけを聞けばそそられなくもないが、何かおかしい。絶対におかしい。


 そう思い、渾身の力を振り絞って拘束から逃れようと暴れてみせたが、動くのはせいぜい首だけだった。


 するとその時、俺の鼻先に何か硬いものがぶつかった。アキラのスカートの布越しだ。


「ひゃん! 後で入れてあげるから、もう少し待っててね。あたしのやつおっきいから、きっと気持ちいいよ」


 そのスカートの中央部分が、見慣れた感じのテント状に山を作っていた。


「────!」


 俺は悲鳴を上げた。


 足元では、残りの二人が、俺のトランクスに手をかけているようだった。 

 

「やっぱり……本当の自分には、抗えませんよねぇ」


 アキラは、まるで女を犯す時の男と同じように、下卑た声音でそう言った。



(以上)



いかがでしたでしょうか。


因果応報ですが、お悔みを。


※こんな感じで、所々にセクシーな描写を入れている、ホラーに見せかけたややこしいコメディ小説、『トイレの華子さんは八代目』も書いてます。


そちらが最近のメインです。

更新は遅いので、ブクマやお気に入りをぜひともよろしくお願いします。

次から小分けに出そうかなあ。

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