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(2)真実の間は青 ~真実の間、おまけ~

どうも、尾崎ゆーじです。


いろいろホラー短編を書いてるのですが、

自分がミラーハウス縛りにしたばかりに、しかも真実の間という設定を作ったばかりに、

なんだかホラー以外のテイストが醸し出され始め、あと二作を検討しつつ、

とりあえず(1)に次ぐおまけ編を書きました。

(1)が短すぎたのでしょう。おまけと言いつつ、(2)はがっつり書いてます泣


青春だよ。


 学校の友達と一緒に、僕は潰れた遊園地に来ていた。


 名前は『裏野ドリームランド』。


 ここには『真実の迷宮』というミラーハウスがある。僕たちの学年で、ひそかに噂になっている場所だ。


 僕も別のクラスの奴から噂を聞いて、一人だと心細いから、友達を連れて行くことにした。吉原という同じテニス部の男子で、仲が良い。部活ではダブルスを組んでいる。


 僕に彼女ができてからは、以前のようには遊ばなくなったけど、それでも未だにこうして一緒に出かけたりする。


 僕らの目的は、『真実の迷宮』の中にあると噂されている『真実の間』だ。


 一定の手順に従ってミラーハウスの中を歩いて行くと、扉が見えてくるらしい。そこに入ると、本当の自分が見れる『真実の間』という部屋に出るそうだ。本当の自分とは、要するに心の奥の本音とか、そういうことらしい。


 実際にその『真実の間』に入ったという人間はかなり少ない。


 その数少ないサンプルである、同じ学年の野球部の男子に話を訊いてみたところ、本当の自分が見えたことによって、悩み事の解決法が見つかり、副産物として部活での成績も良くなったと言う。


 僕も実は、最近告白されて付き合ったばかりの、今の彼女の事で悩みがあった。本当の僕は、それにどんな答えを出してくれるのだろう?


***


 現地に到着し、ミラーハウス『真実の迷宮』に入った。


 中は薄暗かった。


 当たり前だ。ここはすでに廃園となった遊園地で、電気も通っていないのだから。


 僕たちはスマホのLEDライトで前方を照らしながら、メモしていた手順に従って、鏡張りの路を進んだ。


 正直に言うと、怖くて、帰りたかった。


 上下左右どこを見ても合わせ鏡になっているなんて、とても縁起が悪い。合わせ鏡は悪魔の通り道であるという話も聞いたことがある。今にも鏡の中から誰かの手が伸びてきて、引きずり込まれるのではないか……そんな妄想をしてしまう。


 かろうじて吉原が一緒だったことで、前に進むことができた。怖いなんて言ったら笑われると思って、平気なふりをしながらどんどん歩いた。


 向かう途中で、吉原が言った。


「俺の悩み、解決できるのかな……」


 真剣な顔で言ったくせに、どんな悩みなのかと尋ねても、教えてくれなかった。 ……だったら、はじめから言うなよ。


「なあ、もし本当の俺が、テニスの全国大会で優勝したいって言ったら、それってどうなるんだろうな? 本当の俺ってことは、そうならなきゃおかしいんじゃないか? だって、それが本当なんだから。もしもできなかったら、それって嘘の自分だよな? 矛盾じゃねえ?」


 代わりにこんなことを相談してきた。今のところ、僕たちの実力では県大会の優勝でさえ難しいのに……。


 さすがに何と言ってよいかわからないので、僕は適当に答えた。


「さぁ……対戦相手全員に、嫌がらせしたり、毒を盛ったりすれば実現できるんじゃないか?」


「馬鹿野郎。そんな事をしたら、永久追放どころか警察沙汰じゃないか」


「そもそも、全国大会で優勝したいっていう自分が映らない可能性だってあるし、考えても仕方がないよ」


「そう考えたら『真実の間』って、占いババの水晶みたいだな」


 そんな感じで笑い合っている時だった。


「……すげえ、マジだ」


 僕たちの向かう先に、青い扉が見えた。


「でも扉があるってだけで、あれが『真実の間』とは限らないぞ。ただの出口だったりして」


「それはあり得るな」


 いかにも馬鹿っぽいオチを想像して、僕は笑った。


 おかげで変に身構えることなく、僕たちはその青い扉を開けることができた。取っ手は錆びているし、映画館の防音扉よりも重かったけれど、体を使って押し開けた。


「あ、あれ?」


 その先の風景は、思っていたのと違った。


 上下左右が鏡張りの一本道だった。百メートルほど先に、小さな光が見えている。


「……やっぱり、出口に続く扉だったのかな?」


 吉原が言った。


 ほっとしたような、残念なような……。苦笑いしながら、僕たちはその光の方に向かって真っ直ぐ歩いた。


 ──変だ。


 歩いている途中で、僕はそう感じ始めた。


 説明し難いが……段々と自分が歩いている感覚が薄れていく。でも確かに歩いている──まるで歩行という行為が自動的に行われているような、そんな感じだった。言い方を変えれば、何かに操られているとも言える。


 するとさらに、『歩いている僕』という人間を、僕自身が様々な角度から、客観的に観察しているような感覚があった。まるで上下左右の鏡に映る全ての僕に、僕の意識がリンクしたかのようだった。


「よ、吉原!? これ、どうなってる!?」


 僕はさすがに戸惑って、吉原に声をかけた。


 返答は無かった。


 吉原はすぐ後ろを歩いていたはずだけど、その気配はあやふやになり、足音も聞こえなくなっていく。


 だけど僕は立ち止まることも、振り返ることもできず、歩いている僕という存在を認識することしかできなかった。その他の全ては、この目に見えているようで見えておらず、想像の世界という感じがした。


 どうすることもできずにいると、段々と、僕という存在の奥に入っていく感覚があった。


 その奥深くに広がっているのは、僕の全てがごちゃ混ぜになったような、節操のない、だけど僕が根本から欲している世界だった。抽象的すぎて表現できないが、上下左右そして前後、遠くの遠くまで、僕という存在が生きる理由、あるいは生きたいと思う理由が、何もかもの都合を無視して連なっているような、そんな感じ。


 全体像を捉えようとするとわけがわからなくなってくるので、僕は手近なものに意識を向けることにした。


 例えば、僕の現在の悩みである、今の彼女のこととか。


 見渡すと、いろんな欲望に基づいた世界が無数に広がり、ごちゃごちゃと繋がっていた。今の彼女の他に、僕がいろんな女の子と同時に付き合っている世界とか、テニスの全国大会どころか世界大会まで行って、ウィンブルドンで優勝を果たしながらも、俳優としてハリウッド映画に出演し、トムクルーズと共演、一緒にレッドカーペットを歩いていて……というような世界もあれば、有名店のハンバーグを三百グラム一気に食べたいというような庶民的な世界まで──全ての世界が同時進行で意識に湧き上がり、そういう海に潜っているような感覚だった。


 僕はその海が、本当の自分なのだと悟った。どうしてわかるのかと訊かれたら困るけれど、わかるものはわかる。


 だって自分のことだから。


「これだ……!」


 僕はその中から一つ、明らかに違う存在感を放つ世界を見つけ、それを強く抱き締めた。


 無数に広がる本当の僕の中から、さらに特別な、今ここで選びたいものを選んだ。 


 ──そんな感じがした。


***


 気づけば僕は屋外にいた。


 空が少し赤くなっている。夕方のようだ。


 ぼうっとしながらも辺りを見回すと、すぐ隣に吉原がいた。僕と同じように、呆けた感じで立っていた。


「僕たち、いつの間に外に出たんだろう?」


「わからない」


 尋ねると、今度は返答があった。


 後ろを振り返ってみると、『真実の迷宮 出口につき立ち入り禁止』と書かれた扉があった。僕の見た風景が『本当の自分』だとしたら──いや、そうとしか考えられない──噂通り、『真実の間』からすぐに出口へ繋がっていたようだ。


「なあ、吉原……見た?」


「うん」


 何を見たのかは、言わなくてもわかるだろう。僕たちはそれぞれ、本当の自分を見たのだ。


***


 その翌日から、すぐに僕は行動を起こした。


 例の彼女に会って、僕は別れたいと伝えた。可愛い後輩で、告白され、そのまま相手に流されるように付き合うことにしたけれど、実は、僕には他に好きな人がいた。本当に好きな人。でも好きだと思っていながら、僕は自分の心に気づかないふりをしていたのだ。


 本当の自分を知った時のエネルギーは凄かった。今まで煮え切らずにいたものを、僕の中の何かが、行動に移させてくれる。


 僕はその数日後に、その人に告白した。 ……結果、彼女は前向きに考えると言ってくれたけれど、まだ交際するには至らなかった。


 僕が前の彼女と別れてから、ほとんど日にちが経っていないことが理由だった。彼女と元カノもまた、先輩と後輩の仲だから、さすがに気を遣ったらしい。


 仕方がないので待つことにしたけれど、何だかんだで僕はその子と会って、デートをした。登下校もした。こうやって見ると、付き合っているとか、いないとか、そんなのは関係無いような気もした。


 そんなある夜、吉原から電話があった。あの遊園地に行った日から、一週間が経っていた。


『もしもし……俺、お前に言っておかなきゃと思って、でもなんか学校じゃ言い辛くて……」


 吉原はそう言った。


「それって、本当の自分のこと?」


『うん』


 学校や部活では顔を合わせていたが、遊園地で見たものについては、二人とも一切口にしなかった。話題にするのを避けていた感じだった。


『俺さ……ミチコに告白したんだ。付き合って欲しいって』


「えっ、いつ?」


 僕は驚いた。ミチコとは、例の僕の元カノである。テニス部の後輩で、それは吉原にとっても同じだ。


『昨日。だけど断られた。まだお前のことが好きだからって』


「……そっか」


『これで俺の、本当の自分の願いは果たせなかったよ。でも、別の本当の自分に行き着いた』


 吉原は言い辛そうに話した。


「別の、本当の自分?」


 僕は尋ねた。


『……俺さ、お前に嫉妬してたんだ。モテるし、成績も良いし、テニスは俺より上手い』


「そんなこと……」


『そんなことあるだろ。俺はお前みたいにミチコから告白されないし、テストの成績も、大会の成績も、お前より下だ。知ってるだろ』


「……」


『俺、ミチコのことが好きだと思ってた。でもお前に悪いと思って、何もしてこなかった。だけど本当の俺は、とにかくお前という壁に挑戦したがった。だからたとえ全部負けるとしても、実際にやることにした。今までは相手がお前だからって、最初から諦めてた』


「僕が、壁?」


 吉原はいつになく一方的な話しぶりだった。


『次の日曜日、久しぶりにテニスで試合しようぜ。もちろんガチンコで、しかも五セットマッチ』


「え、そんな……監督が何て言うか」


 僕たちの部では、あまりゲーム練習を行わない。まして五セットなんて、コートを一つジャックするようなものだ。プロ選手じゃあるまいし、そんなこと……。


『だから日曜にやるんだろ。部活が始まる前からプレーしてれば、何とかなる。前の日にでも後輩や監督に伝えておけば、大丈夫だろ。誰にも邪魔はさせない』


「吉原……」


『それが終わったら、次は期末テストで勝負する。そうやって全部勝負して、後のことはそれから考える。一週間苦しんだけど、俺はもう、本当の俺を抑えられない。ただそれだけの事なんだ』


「吉原はそれでいいかもしれないけど、僕は……」


 僕は別に、吉原といがみ合うようなことはしたくないんだけど。


『お前はそのままでいいんだよ。で、俺はそんなお前に勝つ。それだけだ』


 つまり僕は適当にやり過ごし、吉原に華を持たせることもできるわけだ。僕は本気じゃない分、負けたって悔しくもなんともない。


 ……いや、本当にそうか? 


 それでいいのか?


「……わかった。僕も負けないように本気でいくよ」


 吉原は本気で僕に対抗心を燃やしている。友達だと思っていたけれど、その心の奥では、僕と自分をいつも比べていたのだろう。


 僕はそんな相手の心に無頓着で、なんとなく流されるように生きていた気がする。ミチコのことに関しても、僕が本当の自分の気持ちに早く気づいていたなら、そもそも付き合わなかったし、別れ話で泣かせるようなこともなかった。


 僕も本気で負けたくないと思い始めていた。吉原に、そしてかつての僕に。


 だから吉原を、全力で迎え撃ってやる。


 それから先、今まで通りの友達でいられるかどうかは、吉原の言う通り、その後の話だ。


 友達だと思ってるから……本気で向かって来るなら、本気で返したい。


 試合は、次の日曜日の朝六時に決まった。


「あっ、そうだ」


 僕は電話を切る前に、ふと伝えようと思った。


『なんだ?』


「僕、ミチコと別れた後──薫に告白したんだ。それで今、保留中」


 どうしてそんな事を教えたくなったのか、自分でもよくわからない。たぶん吉原の本気につられて、僕も自分の本気を見せつけたかったのだろう。


『じゃあ、お前を試合でぼろぼろに負かして、保留を取り下げさせてやる。で、俺が薫をもらってやる』


「言ってろ。どこの世界の覇者だよ」


 僕たちは笑い合い、通話を終えた。


 居てもたってもいられない気分だった。


 ──明日、朝練に行こう。でも吉原とは行けないから……。


 僕はスマホで電話をかけた。


「あ、薫。明日、火曜日だし朝練に行くよね? 良かったら僕と一緒に──」


 薫の承諾を得ることはできた。僕はやる気に満ちていて、部屋で筋トレを始め、その後で夜のランニングに出かけた。


 『真実の間』が本当の自分を教えてくれたおかげで、僕たちの人生は、たぎるような熱を帯び始めた。生きている実感をひしひしと感じた。


 

 ……だけど『真実の間』は、僕に次の日曜日を与えてはくれなかった。それどころか水曜も、木曜も、金曜も……。



(以上) 

いかがでしたでしょうか。

怖くなかったのではないでしょうか。


こんな感じで、じわじわ系になるのかわかりませんが、

時間を見て書いていきます。

時間が足りないよー。


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