Y9 ラッヘvs雪音達
今回長め。
「<ブラスト・デトネーション>」
開始開幕から世那の持つ杖から放たれたのは一筋の炎の線。その線はラッヘを真っ直ぐに辿り着き・・・根元から大量の爆弾に火が付いたかの如く爆発を次々と起こした。火の線をこのままでは不味いと直感で避けたラッヘだったが、爆発に巻き込まれ数メートル吹き飛ばされた。
「なんですかそれ!初めて見ましたよ!?」
「初めて見せたからね・・・。<ブラスト・デトネーション>」
「また!?」
慌てて立ち上がるがまたもや赤い、炎の線がラッヘの頭を射貫いている。体を逸らし、バックステップで爆発から逃れようとするが、後ろから何者かに蹴られ、思わず体が前に倒れてしまう。何とか転ばなかったが<ブラスト・デトネーション>で再び吹っ飛ばされる。
「っく・・・私としたことが!」
「首もらい!」
ガキン!
「させません!!」
「知ってた!」
ラッヘがふらついているところ哲翁が柱を蹴って二本の短剣で首を斬ろうと飛び掛かるがあっさり盾で防がれた。しかし彼にとってそれは計算済み。狙いは次の次の次。
「ファイヤーッ!!」
「フッ!!」
謎の掛け声と共に燃えている剣を振り下ろす、劉人。哲翁の短剣を盾で受け続けているためラッヘは剣で劉人の剣を受け止めるしかない。ラッヘの足は止まった。
「「世那ちゃん!!」」
「<アブソリュート・ゼロ>!」
「チッ!」
ラッヘは今しがた出した魔法、<アブソリュート・ゼロ>の危険性はよく知っている。自分が苦労した相手も楽に殺す魔法だ。まともに喰らうわけにはいかない。
だから、バックステップで二人の拘束から逃れ―
―左手の盾を前にして<アブソリュート・ゼロ>をラッヘは防ぐ。そしてすぐさま凍り付いた盾を捨て、近くの柱を横に蹴って世那の視界に入らないように距離をとる。一度態勢を整えるためだ。
しかしこの作戦を考えた彼女はそれすら計算に入れていた。・・・・尤も、ここまでうまくいくというのは計算外だったが。
「シッ!!」
「クソッ!」
雪音の柱の死角からの攻撃はラッヘにとって避けられるものではなかった。・・・・はずだった。しかし彼は雪音の攻撃を紙一重で避け、彼女の左手から突き出された氷の槍を剣で叩きわる。新しく槍を生み出すには少なくとも7秒かかるという事実をラッヘは把握している。つまり、今世那を除いて最も厄介な存在、このチームのリーダー的役割を果たしている雪音を排除する、絶好のチャンス―
(今しかない!)
―にはならなかった。
「ハッ!」
「何!?」
雪音が後ろから取り出し、ラッヘの剣と打ち合ったのは、氷でできた刀。すぐさま二人は距離を取り、構える。
雪音は皆の準備が終わるまでの時間稼ぎを、ラッヘは雪音をこの場で墜とすために。
「フッ!」
「ハッ!」
ここからは二人の剣と刀の打ち合いが始まった。一方が右を狙えば、一方も右を狙う。互いに互いが牽制し合うために時間がかかる。
(順調すぎる・・・!)
雪音は何か妙に不安を感じている。何故なら、事前に立てた作戦が順調に進行し、じりじりとラッヘを追い込めているからだ。まさか自分たちの方が追い込められているのでは?と疑ってしまうのも無理はない。
(このままだと不味い!早く何とかしなければ!)
一方ラッヘは雪音達の作戦によって追い込まれていた。後ろには世那を背負った劉人の影がチラホラ、哲翁は姿がさっきから見えない。恐らくどこからか首をさっきみたいに狙っているはず。ならば―
「―ここで終わらせる!」
「いきなり強くなった!?」
今までは均衡して鍔迫り合いが、いきなり雪音が押し負けた。
(<身体制限解除 Lv1>、発動!これで押し切る!)
<身体制限解除 Lv1>、脳が常日頃無意識に掛けているリミッターを、<システム>によって10%強制解除させるスキル。このスキルは脳が使わせないように封じているものを無理やり解除するわけだから、脳や体への負荷が大きい。そしてその負荷は使う発動レベルと発動時間が増せば増すほど大きくなる。やるなら―
―短期決戦だ。
◇
なんてパワーなの!?さっきまでと桁違いじゃない!これじゃあ早々に負ける!そもそも身体構造からして男女の差は大きい。そんなのに勝つには・・・
「ハッ!」
腰のベルトに隠していた短剣を左手で一本抜き、ラッヘの顔面目掛けて左に倒れながら投げる。もちろんラッヘは避けるけど・・・よし!
「ハッ!シッ!」
「フッ!」
ガリガリガリガリガリッ!!
左手に氷の槍を作り出し、下から薙ぎ払い、手首を捻ってラッヘ目掛けて突き刺す。が、剣で軌道を逸らせれ、受け止められた。その時出た音はまるでかき氷を作った時のような音。・・・そういえばこの氷って食べれるのかな?いやそれよりも私、この氷の武器を使ってから一度も凍傷になったことないけど大丈夫かしら?
「まさかの二刀流ですかっ!しかも剣と槍とはっ!」
「これはね![氷川家流槍刀術・狂槍刀ノ型・攻]っていうのよっ!」
開発したのは私。槍と刀というスタイルで完成させた私オリジナルの武術。名前に[氷川家流]が付いているのはこれをベースにしたからと、私と隼人は<加技権利>を貰っているから。<加技権利>というのは新しく技を開発し、確立させ、師範にそれを認めて貰えばその技[氷川家流]に加えていいというもの。・・・まあ細かいルールはたくさんあるけど。あとこの名前を付けたのは隼人と葵。・・・別に名前なんてどうでもいいけどね?なんで「狂」って字を入れたのかしら?
っと、そんなことより!
「仕方がありませんが!」
ガキン!
ラッヘがバックステップで距離を取ったのち、再び横に構えて振り抜きの一閃。速度がさっきよりも速い!咄嗟に氷の刀で縦で受ける。しかし、それだけでラッヘは止まらず、私はどんどん押し負けている。さっきからズルズルと後ろに押され、背中には柱が近づいている。刀にはヒビが入って、このままじゃ折れる。ならば―
「―押し返す!これしかないでしょ!」
ピキッ!ピキピキピキピキ・・・
「ハアアアアアアアアアア!」
ピキピキピキピキ・・・バキッ!
無理な負荷をかけていたせいで刀は折れ、ラッヘの剣の刃が迫っている。けどね、慌ててはいけない。その為の左手。その為の槍。
左手の槍を振り上げる。氷の槍の柄は、ラッヘの右脇下に流れるように吸い込まれる。そして―
「ぐあっ!?」
―ラッヘの剣筋が乱れた。
◇
(よし、今!)
ラッヘの足がふらついたところで、雪音はバックステップで柱に足をつけ、同時に膝を深く折り、腰を捻り、溜めを作る。ラッヘが前を見た時には氷の穂が、目前に迫っていた。咄嗟に剣の腹で受け流すが、雪音はすぐに着地&ターン、遠心力で加速して雪音の槍撃は再びラッヘを襲う。一撃では終わらない。何度も、何度でも、準備が終わるまでの時間を稼ぐ。攻撃などさせない、攻め続ける!そんな意思を表すかのような、激しい攻撃がラッヘに降りかかった。
一方会場は、つい先ほどまでラッヘが優勢だったはずなのに突然流れは雪音に傾いたことにより異様な盛り上がりを見せた。特に王。この男が最も興奮していた。勿論この男は、雪音達が何をしようとしているのかのおおよその見当が付いていた。そしてそれは失敗するだろう、と思っている。だが、それを抜きにしても王はこの試合を楽しんでいた。まさかこんなに長く続くとは、こんなに面白いものを見せてくれるとは。
そして試合は大きく動いた。上空から近づいてくる影に、五人を除いて、誰もが上を見上げた。
五人のうち一人は見上げる余裕なんてなかった。目の前の猛攻を捌くするだけで精一杯、周りを気にする余裕などなかった。―そう、ラッヘだ。頭右肩胸左太腿左腕鳩尾首・・・・何処を狙ってくるのかは分かるが、雪音の猛攻により段々と、じりじりと、神経と体力が消耗していき体が言うことを聞かなくなり、攻撃が当たるようになってきた。ラッヘは今、攻撃が当たることによってさらに体は言うことを聞かなくなり、攻撃が当たりやすくなる・・・という泥沼に嵌まっていた。
(不味い、この状況を打開しなければ負ける!?)
ラッヘはこの泥沼から抜け出すために、より負荷のかかる<身体制限解除 Lv3>を使った。この場を乗り切るために。
恐らく、ここが勝敗を分ける要因になるだろう。このタイミングで<身体制限解除>を使ったことにより雪音の猛攻を押し返すことができた。いやむしろ押し返した。しかし雪音も負けじと押し返す。この二人、ラッヘの剣撃と雪音の槍撃は熾烈を極めた。
しかし、雪音はすでにその役割を終えている。ラッヘの喉を狙った一撃は突如横から割り込んできた吉田の短剣によって逸らされた。
「雪音さん!」
「了解!」
雪音は吉田と短いやり取りをして確認、全力で離脱した。もう、自分の役目は終わりだと。
一方ラッヘは戦慄していた。3日間この4人と戦闘訓練をしていたが、今日の戦いには3日間のうちに行った作戦が一つも含まれていないのだ。確かに、一人ひとりならば自分に届くだけの能力がある。雪音との激戦がいい例だ。しかし、連携やチーム戦になった途端に話は変わる。事前の連携、どれくらいお互いを信頼しているか、咄嗟の判断ができるか、それもお互いを利用したことが。この3日間、四人の連携はとても酷かった。二人ならば誰と組んでも問題なかった。だが三人になった途端にお互いがお互いの持ち味を殺し合うような戦況だった。
じゃあ、一体誰がこの連携を組んだ?・・・いや、そもそもこれは連携戦闘か?
世那が雪音の元へと追い込み、吉田と鈴木が追撃を仕掛ける。そして雪音がラッヘを追い込む。
吉田と鈴木の絶えることのない攻撃をいなしていると、さっきから姿が見えない世那の存在を思い出した。
(彼女はドコだ・・・!?)
吉田の蹴りを手で受け止め、鈴木に吉田ごとぶつけて二人を動けなくさせ、世那を探し出す。・・・未だ上から来る影に気が付かぬまま・・・
世那はすぐに見つかった。周辺には雪音も待機していない。恐らくまだどこかで休んでいる、そうラッヘは判断した。いつもなら疑うだろう。本当にいないのか、と。このときラッヘは2回発動し、今も使っている<身体制限解除>による負担、負けるかもしれないという焦りによって思考能力が低下していた。
だから目の前でキラリと光るワイヤートラップに、あっさり引っ掛かっかり、動けなくなった。
「ぬわっ!」
周辺に生えている柱を利用して設置されたワイヤートラップ。それはただの拘束用のトラップではない。固定に使っていたおもりが解かれ、ラッヘに迫る。そのおもりの正体は・・・・束にした段ボール。鈴木のスキルによるものだ。束にした段ボールが後ろから迫ってくる。これだけでも十分質量兵器として成り立つが、忘れてはいけない。これは鈴木が出したものだと。
「<ファイア!>」
「なっ、燃えた!?ぐあっ!?」
鈴木のスキル、<ユニークスキル:段ボールクリエイター>は段ボールを自由自在に作りだすスキルだ。雪音の<アイスクリエイター>の段ボール版ということだ。しかし<段ボールクリエイター>にはある特殊な効果がある。それは作った者は作った段ボールを遠隔着火することができるのだ。勿論<段ボールクリエイター>ができるのはそれだけではないが、こんな能力でもこういう時には遺憾なく発揮する。燃える段ボールの束に殴られたラッヘはその衝撃のせいなの、かなかなか立ち上がらない。・・・否、立ち上がれない。
「体が・・・動かない!?」
「無防備な女の子を襲うとは、ね・・・!」
パキパキパキパキパキ・・・・
ラッヘの体が動かないのは雪音によって現在進行形で下から氷漬けにされているのもあるが、それ以前に外部からの強い衝撃によってきっかけで脳の機能が一部休んでいるからだ。<身体制限解除>の使用によりラッヘの脳と体は既に悲鳴をあげている。その状態で段ボールの束で叩かれるという強い衝撃により体の反応が鈍くなり、そのまま動かなくなった。分かりやすく言うなれば、疲れているときに転ぶと体が受け身を取れないのと同じことがラッヘの全身に起きているのだ。
さらに段ボールの発火温度は260℃から430℃、人間の内皮まで瞬間的な火傷を負う温度は120℃から150℃といわれている。そしてエネルギー保存の法則により引火した時の熱は熱源の温度と変わらない。ここまで言えば分かるだろう。
ラッヘは背中側は燃やされ、腹側からは氷漬けにされ、体は疲労によりピクリとも動かない。詰みだ。
そんなラッヘは、今、上空の存在に気が付いた。
「影・・・!?」
辛うじて動く首から上の頭を動かし周りを見ると、見物客が慌ててアリーナの出口に詰め寄っていた。まさかと思い、あの4人を探すと杖をゆっくりと、ゆっくりと振り下げる世那と、世那を守るかの如く固まる3人の姿があった。
同時に、ゴオオオオオオオオ・・・・という唸り声のような音が彼の耳に入った。
◇
「・・・・<メテオ>」
最初は驚いたわ。だって世那ちゃんの立てた作戦が怖いくらい順調に進んだもの。普通ならそんなの通じるわけないし、私や吉田君、鈴木君の立てた作戦なんてあっさりラッヘに破られたもの。・・・でも、世那ちゃんの立てた作戦には驚いたわ・・・
だって二チームに分けてラッヘを動けなくさせ、最も火力がありそうな技でとどめを刺す・・・
そんな危険作戦を実行させるなんて、ねえ?
あれ・・・・?あの隕石、思ったより大きくないかしら?いや待って、あんなの落ちたら余波で私たちの方がやられちゃうわよ!?
「<サンクチュアリ>!<ライト・シールド>!<氷魔法:アイスウォール>!」
「「うおおおおお!!」」
「男子!盛り上がっていないで壁作って!早く!でないと私たちまでやられちゃうわよ!?」
「「は、はい!」」
・・・・数秒後、私の心配は杞憂で終わった。アリーナの見えない天井にでも引っ掛かったのか、その隕石はアリーナには落ちてこなかったのだ。同時にアリーナのアラートが鳴ったことで試合終了。私たちの勝利に終わった。
因みに隕石は世那ちゃんが杖を振り下げるのをやめた途端消えたわ・・・きれいさっぱり・・・・
どゆこと?
「あれ絶対私を殺す気だったでしょう!?」
「だってラッヘ相手にあれくらいしなければ勝てるわけないじゃない!!」
あの後、ラッヘに「本当に死ぬかと思った」等の文句を沢山言われたのは言うまでもない・・・・




