Y8 渇望
あれから3日経った。この3日間、マジで死ぬかと思ったわ。というかね?ラッヘが強すぎるのなんの・・・あの後ラッヘと模擬戦をしたのだけど、最初から勝てる気がしなかったから私たち4人がかりで襲ったのよ。そして負けたわ。それも見事な完敗。途中から世那ちゃんが本気出して<アブソリュート・ゼロ>を使ったけど、楯で防がれた。・・・うん、アレ防げるんだね!
で、結果どうしたかというと・・・
途中から数えるのをやめるほど殺りあったわ。そしてラッヘを研究したのよ。数をこなし、経験しに基づく研究をして対策を練り、地下に潜って討伐をして基礎を高める。ちゃんと朝ご飯をバランスよく食べ、沢山の蜘蛛や狼を殺して、昼ご飯を食べて、一時間休憩して、ラッヘと模擬戦をして、夕飯食べて、水浴びして、寝る!もうこれだけで精一杯!他?何もできないわよ!!・・・・まあこの方法のおかげで世那ちゃんも疲れ果てて変なことしなくなったけどね。
あ、そうそう、私たちがラッヘと模擬戦をしていた場所は騎士団の練習場・・・というよりは決闘場の一つ。その名も<第七アリーナ>。狭い空間の中に林立した柱が特徴のアリーナで、奇襲がしやすい反面、移動はしにくいのよ。それともう一つ、決闘場の仕様の中に、場内の者の生命を守る<絶対防護>という機能がある。これは中の人を守るという機能だけど、判断するのはアリーナにセットされている魔道具で、「これは死ぬ」というときにだけ発動する仕様。これのおかげで比較的安全にできたけど、「これくらい平気」と判断されたり、カバーできる領域から離れたり、それすら無視できるほどの過剰攻撃、さらには判断して実行するよりも早い攻撃には仕事しないシステムなのよ・・・。つまり当てにならないシステムなのよ・・・。で、さらにさらに言えば”騎士団の練習場”、”アリーナ”という単語で気づいたかもしれないけど、私たちがいるときって、観客が必ずいるのよ・・・。なんでいるの・・・
おっと、話が逸れてしまったわ。今日はテネシンへの派遣するチームを決めるのだけれど、既に一人決まったわ。・・・まああれは置いといて、対戦相手だけど、対戦相手は各チームに派遣されている騎士―
―私たちの場合はラッヘだった。
いやあ・・・・ラッキーだね!私たちが散々研究して、連敗した相手だ畜生!!そして私たちが最後のグループなのよ!しかも王様もいるってさ!何!?嫌がらせ!?神様がいるなら恨んでやるわこんのロクデナシー!!!
◇
―ブルッ
◇
「雪音さん、そんなに髪の毛掻くと痛めますよ?」
「・・・ごめん鈴木君、見なかったことにして?ね?」
「ハイ、ジブンハナニモミテオリマセン!」
「よろしい」
・・・・・いやちょっと待ってなんで鈴木君ここにいるの!?ここ女子トイレだよ!?
「雪音さん、今なんでここにいるか?って思っていますよね?」
「う、うん・・・」
「ここ、男子トイレですよ?」
「はあ!!?」
「どっちかというとこっちのほうがなぜここにいるか聞きたいのですが?」
「う、嘘でしょー!!?」
神様いるなら絶対に呪ってやるわこんチクショー!!!
◇
「ヘプシュッ!」
「風邪か?」
「私病気になったこと無いですけど・・・」
「良かったな、異世界来で初体験とか」
「待ってくださいその言い方やめてください」
「・・・・お前何想像したんだ?」
◇
「ラッヘー!うっかり楯使うなよー!」
「そうだぞー!ルール違反になるぞー!」
「嬢ちゃんたち負けんなー!」
・・・そういえばね?この模擬戦の場所とルールと勝機なんだけどね?場所は<第七アリーナ>なんだよね。で、ある意味この短期間でどれだけ育ったのかを見るわけだから色々な人が来ていて、さらにここの管理をしている騎士団の人たちもいる・・・
何、この盛り上がり様?嫌がらせ?これ負けられないじゃない。どうしろというの・・・世那ちゃんは壊れたレコードのように「隼人隼人はやとはやとはやとハヤトハヤトハヤトハヤト・・・・」って呟いているし・・・
◇
―ゾワッ
◇
鈴木君はニコニコしながらフリーズしてるし・・・吉田君は逆にテンション上がっているし・・・何なのこのデコボコパーティー・・・
あっと、ルールと勝機だけど、勝敗はアリーナの魔道具による判定。私たちには制限はなし。騎士たちは利き手のみ、隠し武器禁止、ただし楯は使っていいけど防御にのみ使用可能。
―私たちの勝機はここ、「騎士たちは利き手のみ」。ラッヘの基本戦闘スタイルは楯と剣による攻防隙のない1対多の戦闘。つまり、複数との敵と戦うことになれている。このとき最も厄介なのは楯。防ぐ、受け流す以外にも平気で直接打撃武器として使ったり、プレスしようとして来たり、遠距離武器として使ったり、楯の縁で殴ったりするの。けど今回はその楯でそれができない。だから、ここを狙う。狙うしかない。
「それでは、始めましょう。準備はいいですか?」
最後の確認と言わんばかりに尋ねるラッヘ。・・・返答?そんなの、決まっているじゃない?
「「「・・・上等!!」」」
「・・・えい、えい、おー・・・」
「・・・それでは、スリーカウントで始めます。いいですね?」
ラッヘの問いに、頷く。
「それではいきます」
開始と共に<アブソリュート・ゼロ>を撃てるように構える世那ちゃん。
「3・・・」
吉田君が2振りのナイフを懐から抜き、前に構える。
「2・・・」
鈴木君が燃えている段ボール剣と楯を構え、すぐに飛び掛かれるように体を前に傾ける。
「1・・・」
私も開始と共に穿つために両手に氷の槍を創り、構え、左足に力を込める。
「0!」
その声と共に、私たちは、世那ちゃんの射線上から離れた
◇
アリーナの特別席。この席がおかれているこの部屋は特別な結界が幾重にも張られているため、仮に<ユニークスキル>の攻撃が飛んできても耐えることができる。この部屋には、王と王に入室が許可された臣下のみが入ることができる。
この部屋にある特別席に座る一人の男と、その左後ろに立つ男、そして右側に首を垂れる男いる。
「・・・王、一つ、尋ねたいことが」
「なんだ、申してみよ。モーター卿」
「ハッ・・・今回の派遣させる勇者たちの選別ですが―」
「貴様、王の決めたことに異議を申し―」
「宰相、やめんか。異議は自由に申し立ててよい、と昔決めただろう?」
「―申し訳ございません。今後は―」
「あー、そういうのいいから。・・・ゴホンッ、暫し離れよ、宰相」
「・・・ハッ」
<宰相>と呼ばれた男は<王>と呼ばれた男の側を名残惜しそうに離れた。この宰相と呼ばれた男、昔―宰相になるよりもずっと前―に王と呼ばれた男に命を救われた。それ以降、王と呼ばれた男に、傍から見ても分かるほどにぞっこん惚れこんでいる。だが、王と呼ばれた男にとって、この宰相は能力は優秀だがそれ以外は邪魔でしょうがない。なにせ、この面白みのない娯楽に、本命の出番が来たからだ。そこに面白いことを言ってくれそうな・・・いや、言ってくれる臣下がいる。それを邪魔されたのだ。
王は、娯楽に飢えている。
故にそれを邪魔するということは、王の障害でしかない。
この王にとって、戦争ももはや「ちょっと長い映画」程度にしか感じていない。
・・・尤もこの世界には映画は無いが。
だが今はそんなことはいい。早く臣下の言葉を聞きたい。恐らく、予想通りのことを言ってくれるだろう。けどそれでも良い。それを聞かれることを待っていたのだから。
「・・・済まない、モーター卿」
「い、いえ王!謝らないでください!」
「そうか。・・・それで、先ほどなんと言おうとしたのか?是非とも聞かせてくれ。わしは、そういうのがとても好きだ」
「―この選別、本当に行う必要があるのでしょうか?」
「ほう?なぜそう思う?」
「・・・今回派遣させる騎士団なら、たとえ何が起きても確実にナイトメアを討伐できるはずです。例え、その前にボア・キングがいたとしても」
「そうだな、できるな。騎士団だけでも問題ない」
「ならば何故・・・」
「貴公は、わしが何を考えていると思う?自由に言ってくれ。無礼討ちになどせぬ」
王が、モーター卿に考えさせる。こればかりは実際にそうなのかは聞かねば分からない。
王は、臣下が何を考えているかを知りたい。
臣下の中には、なかなかぶっ飛んだ考えを持つ者もいる。
それはとても面白い。
だがなかなかいない。
だから、今のようなときに、機会があるときに、チャンスがあるときに、聞く。
モーター卿は鋭い。
宰相より物事を広く見る。このモーター卿の視野のおかげでこの王都は財政破綻をしていないと言っても過言ではない。
王にとってそれはとても、面白い人物なのだ、モーター卿とは。
だから、だからこそ、待つ。
モーター卿が、何を考えるか、何を思うか、何を言うのか。
「王は・・・」
さあ・・・!
王は期待する。次は何か!何を言うか!さあ、是非遠慮などせずに言え!言ってくれ!私を楽しませろ!楽しませる何かを言ってくれ!
過剰な期待をモーター卿に押し付ける王。その期待は、裏切られたときはとても大きな傷を残し、腐っていくが、応えられるととても美味な、何よりも美味な果実になる。
「何か、何かをこの選別・・・いや、試合に望んでいますか?」
「!」
よくぞ!よくぞ言ってくれた!それが聞きたかった!
「ああ・・・そうだ。実はな、この試合の中には、騎士相手に自らの意思で戦った者達がいるのだ」
「なんと!そのような者が・・・!」
「わしは、その者達がどのように戦うのかがとても知りたい、そして見たい!彼らは自ら決めたのだ、騎士と、あのNo.4と、戦うことを!」
「No.4ですか!?」
「そうだ。わしも最初聞いた時は驚いた!まさかあ奴と戦いたがる者がいるなど!しかも3日!3日も続けたのだ!彼らは好奇心で始めたのではない、覚悟を持って始めたのだ!」
「おおお!」
「ならせめて、わしらが勝手に決めるよりも、彼らに機会を与えるべきだ!彼らの努力がどれ程のものなのかを!」
「なんと!それは知りませんでした!・・・して、その者達は?」
「うむ、これからだ。これから彼らの試合が始まる!」
王は、彼らに期待する。
どれくらい、満足させてくれるのかと。
せめて予想通りになってくれ、別に予想を超えてもいい。いや、超えてくれ。
だから予想を下回らないでくれ。
楽しませてくれ。
王は彼らに渇望しながら、もうすぐ試合が始まるアリーナを見つめるのであった。
次回はバトル回かな。
・・・キングクリムゾンしていいかな?え?ダメ?デスヨネー




