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田舎のトイレ

作者: 藤木 大成

最近と言っても3年位前のことなんですけど、田舎のおばあちゃん(母の母)が亡くなったんですよ。

 僕の田舎は茨城県のある町なんですけど、、で、お通夜の時にね、親戚や近所の人たちが集まってわいわいやってました。

 そのときにちょうど僕の母が僕のことを田舎の親戚達に話しをしてましてね。こんなことを言ったんですよ。

 「この子はまだ小学生のときに毎年連れてったんだけど、トイレが外にあったでしょ、それが嫌いで行きたくないってごねてね。あるとき夜起きて一人でトイレに行って凄い勢いで泣き出したことがあってね、、、、、 

 えっ、うそだろ、僕は背中から冷や汗が出て、胃の中をかきむしられたような感じがしました。

 遠い、幼いときの記憶、、、夢だと思い込んでいた記憶、、、それは幼心の恐怖心から、自分で夢だと決め付けていた記憶でした。

 でも母の一言からそれが夢ではなくて事実だったと確信するはめになったのです。

                           

聞いて下さい。


確か僕が小学校の4年か5年生の時だったんでもう30年以上前のことです。

 僕の田舎は茨城県のR市というところにあります。県道沿いの大きな旧家で、その頃はまだわらぶき屋根の本当に田舎の家といった感じでした。

 毎年夏休みには父に留守番させ、母と僕と弟で田舎に行くのが楽しみでした。

 その年の夏休みもちょうどお盆の時期に帰省しました。田舎の家には僕らをはじめ、親戚が集まり、楽しく過ごしていました。

 東京で生まれ育った僕らには、見るもの全てが珍しく、自然と思い切り触れ合って遊ぶ楽しさは、田舎に来たときくらいしか味わえなかったので、毎日目一杯遊びまくっていました。 

 ただ、田舎の家にはひとつだけいやな所がありました。それはトイレです。田舎の家のトイレは、なぜか庭の隅にありました。多分汲み取り式だったので、臭いのせいで外にあるのだと思いますが、それがめんどうで、また面倒なだけならいいのですが、夜は庭が暗いのでどうしても行く気にはなれませんでした。

 まあそれを除けば、帰りたくないほど楽しくてしょうがなかったんですけどね。

 1週間くらい遊んでいよいよ明日は東京に帰るという日の夜のことでした。


最後の夜スイカをたくさん食べた僕は、夜遅く目を覚ましました。案の定トイレに行きたくなってしまいました。

 母をおこそうとしましたが夕べお酒を飲みすぎたせいか、まったく起きる気配がありません。

 我慢して寝てしまおうかと思ったんですが、思えば思うほど寝むれなくなり、我慢ができなくなってしまいました。

 僕はしぶしぶ起き上がると、薄暗い部屋を出て廊下を歩き、玄関を開け、庭に出ました。トイレはそこから20メートルほど歩かなければなりません。庭には名前のわからない樹木がたくさん生えており、その間の石畳を歩いていきます。虫のなき声、牛ガエルのなき声、風にゆすられる草木のざわざわという音が、なんかひどく不気味な気がして、僕は恐る恐るゆっくり向こうにぼんやり見えるトイレの明かりを目指して、歩いていきました。

 突然、風がやんで、今まで聞こえていた音がすべてやみました。

 どこからともなく、「ざっ、ざっ、ざっ」と何人もの人が歩いているような足音が聞こえました。

 なんだろう、でも僕はとりあえず安心しました。きっと前の県道を人が歩いていると思いました。

 その正体がなにかもしらずに、、、、

 トイレに着いて用を足していると、あの行進のような足音がだんだん近づいてきました。 そのとき僕は子供ながらに何か変だなと思いました。今思えばこんな夜中に行進をしている人たちがいるわけがないのですから、、、、

 僕は怖くなり早く家に戻ろうと思いました。

 行進はもっとっもと近くなり確かに僕の田舎の家前で止まりました。

 僕は恐ろしさのあまり、身動きひとつできなくなってしまいました。まるで金縛りにあったように。

 すると今度は押し殺すような男の声が聞こえました。

 「誰かいるぞ」

 そしてひとつの足音が、僕のすぐそばまで迫ってきました。僕は体が震えて汗があごからぽたぽたたれてきました。動けない僕のすぐ後ろに誰かがいました。

 見ることはできないけれど、気配や息遣いでわかりました。

 瞬間僕は背後から、肩をつかまれぐいっと引き寄せられました。

 その男は軍服を着ていて、額からは血を流し、血と汗で顔がわからないほどでした。

 男は凄まじい形相で僕を睨んでいました。

 僕は殺されると思いました。

 すると男の後ろのほうから、「やめとけ、まだ子供だ」という声がしました。

その後掴まれていた肩はすっと軽くなり、男は煙のように消えてしまいました。

 僕はその場に立ち竦み気が付いて見ると火の付いたように泣いていました。

  後で、すべてを話そうとも思いましたが、信じてもらえないだろうという思いと、話すのも恐ろしく、少しでも早く忘れたいこともあり、誰にも話さずにいました。

 そのうち5年、10年と経ち大人になるにつれ、僕の記憶の中でも遠い日の出来事として、事実なのか夢なのかさえわからなくなっていました。

 それが、母の一言によってはっきりと思い出してしまったのです。

 あの軍人が誰なのか、いまだにわかりません。 あまり思い出したくもないし、、でも肩をつかまれたときの感触と、あの血みどろの顔は忘れることができません。

                                      おわり


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― 新着の感想 ―
[一言] 藤木 大成さん、初投稿ですね! これ、実話ですか? そう思わせるようなリアルさがありますよね。 ただ、ちょっとだけすっきりしない部分があります。 冒頭の母の話のくだりは、“僕”があの夜のこと…
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