僕と魔法と能力
ごめんなさい、今回、短くなってしまいました。
次はもっと頑張ります。
今、僕の前には恭弥と圭吾とキルツが正座をして、俯いている。
先ほどの爆発音が合図というわけじゃないけれど、お昼だし、とりあえずみんな集まって事情聴取の時間だ。
「それで?」
僕が聞くと、恭弥とキルツは慌てて言い訳を始める。そんな二人をシルヴィさんは冷たい目で、ルアンは苦笑して見ている。一ノ瀬さんとフィリスさんは二人で普通におしゃべりしているようだ。
彼らの話を総合すると。
『全部圭吾が悪い』
とのことだ。
それを聞いて、正座のまま目を閉じている圭吾を見ると、目をゆっくりと開けて説明を始める。
「そもそも、魔力をどう感じればいいかわからなかった俺は、魔力とはなにか、ということを考えた。俺は魔力を生きる源と仮定し、そのエネルギーを肉体によって様々な事象に変換しているのではないか、と仮説をたてた。そう思った俺は、それをキルツに伝え、キルツの魔力を使用して魔法が使えるのでは、と提案して、キルツもそれを了承した。」
なるほど、圭吾らしいといえばらしい。
けど、それがどうして爆発になるんだ。
「しかし、どうやらそれが問題だったらしい」
「というと?」
圭吾は指を立て、説明を続ける。
「地球の化学において、固体のナトリウムはそのまま水に入れると、水と激しく反応し、膨大な熱を発して爆発、ないし発熱する。
ビニール袋に入れた水素に火を近づけると、大きな音を立てて爆発し水が生まれる。
中性子をぶつけて核反応を起こすことで、膨大なエネルギーを得ることができる。
それと似たようなことが起こった。
つまり、キルツという俺ではない者の魔力が俺の身体に入り、俺がそれを使って魔法を行使した結果、膨大なエネルギーが生まれ、それが一番簡単に発散される爆発という現象になったわけだ」
「……恭弥は?」
「爆発の際、死ぬと思ったんだろうな、よくわからないが、俺たちは気がついたら全員遠くに移動していた」
何が起こったのかわからないといった様子の圭吾。
僕と圭吾は恭弥を見ると、な?俺は関係ないだろ?という様子の恭弥が正座をやめて胡座をかいていた。
「恭弥、何したの?」
「いや、いつも通り圭吾がなんかやるんだろうなーって思って見てたらいきなりいかにもこれから爆発しますよって感じになっから、やべえ逃げなきゃって思って……転移した、かな。多分だけど。俺もよく覚えてねーや。でも、魔力は感じられるようになったし、結果オーライじゃね?」
ため息をついてルアンの方を見る。
ルアンは苦笑して口を開く。
「あのような発想は自分たちの国では禁じられたものなのですが…今回は自分も説明していませんでしたし、怪我もなかったので……後でなんとかします。それに一応転移魔法といえば超高難度の魔法となっていまして、なんと言いますか、そんな簡単に使われてしまいますと……」
「……ほんと、色々お願いします」
と、ルアンに頭を下げたところで思い当たることが一つ。
あれ、さっき僕ってフィリスさんの魔力使ったりしてなかったか?!
バッ、と顔を上げてフィリスさんを見つめるけれど、特に変わったところはないし、僕の身体にも特に何の影響もない。
これは、どういうことなんだろう。
僕が見つめていることに気づいたフィリスさんがこちらを向いて首を傾げている。
一ノ瀬さんはなんだかにやついているけど。
僕だけが、大丈夫なのか?それとも、フィリスさんが特別なのか?
そこまで思い至ったところで不快感と鈍い頭の痛みに襲われる。我慢しようと思えばできるけど、長時間このままだと滅入るあの感じだ。
「…っ…」
「優?どうした?」
「…なんか、超怠い」
恭弥が真っ先に寄ってくるけど、正直返事をするのも億劫だ。頭が重いし体も重くなってきたような気がする。インフルエンザになったみたいな倦怠感がひどい。
「ユウ様?」
フィリスさんが続いて寄ってきて治癒魔法をかけてくれるけど、あまり効果はないみたいだ。
シルヴィさんはどうしたんだと言って右往左往して、それをキルツが宥めているけれど、キルツもこちらを心配そうに見ている。
気持ちが悪い。車酔いの最上級みたいだ。
なんだこれ、地獄かな。いつまで続くんだ。
僕の顔色が相当悪いのか、近くにいる恭弥とフィリスさんはどうしようかと思考を巡らせているようだ。
「ユウ、なにか思い当たることはありませんか?キョウヤもケイゴも特に変わったところはありませんよね?」
そうルアンに聞かれた二人は少し考える素振りをした後、揃って首を横に振った。
恭弥と圭吾になくて、僕にあったこと…?
魔法を使った…のは恭弥も一緒だ。じゃあ他人の魔力で魔法を使ったとか?いや、それも圭吾がやってたな。じゃあ僕だけのことって……魔法を作ったとか?そんなわけないか。
「魔法を…作ったりしたけど……他には特に……」
「それはそれでとても聞き流せるようなことではないですが、もっと他になにかありませんか?」
「…魔力を感じる時に、フィリスさんに魔力を流してもらったくらい、かな?」
僕が少し考えて言うと、フィリスはこくこくと頷いた。
「フィリス、貴女そんなことをしたんですか?」
ルアンが信じられないというような顔でフィリスさんに詰め寄る。
圭吾がその様子を無表情に見ているけれど、多分何か考えてるんだろうな。手にあごを当ててるし、一定のリズムで足で地面を叩いているし。
「他人の魔力っていうのは、毒と同じなんでよ?一般には知られていませんが、相手の魔力の波長に合わせないと…」
と、フィリスさんに詰め寄るルアンの肩に圭吾が手を置く。
「なるほど。まあ、言いたいことはわかるが、優は大丈夫だろう。なんだかんだ、なんとかするやつだ。問題は、何故それをフィリスが知らなかったのか、ということだろう」
なんだと圭吾。確かにだんだんと痛みは引いてきているけど、まだ結構痛いんだぞ。
「…魔力を他人に流すという行為自体は特に問題はない、とされています。毒も上手く使えば薬になる、ということで、魔力が枯渇してしまった人の命を繋げる為に魔力を流すということはありますし、相手の回復を促す為にそうすることもありますが…。
魔力の波長というのはそれぞれ違うものなんです。だから、可能な限り相手に合わせないと、その魔力は毒になってしまう。
まして今回、ユウはフィリスの魔力を少なからず取り込んで自分のものとして魔法を使ったわけですから、毒を一気飲みしたようなものなんです」
そこまでルアンが説明すると、圭吾がふむと頷いて、しゃがみこんでこっちを向いて青い顔をしているフィリスさんを引き剥がす。
そして僕の側に寄って小さな声で話しかけてくる。
「なあ優、もういいか?それで、どうだ?いけそうか?
「……正直吐くかと思ったよ。でもまあ、僕のこれは多分魔力のせいじゃないね」
ようやく吐き気とその他諸々が治った。
それと、理由もわかった。そもそも、毒なんだったら僕があんな風に心地よく感じるはずがないと思うんだよね。
だから、今回のこれは魔力じゃないもっと他の……例えば、異世界人特有の能力の発現、とかね。
「…というと?」
「詳しいことは後で王様と話すときにでも。とりあえず言えるのは…」
ちらりとフィリスさんを見る。僕は彼女にもう大丈夫だと笑いかけ、圭吾の方に戻る。
「魔力に触れることで僕の能力が目覚めたってことかな。それとフィリスさんの魔力は僕にとっては別に毒でもなんでもないよ」
「ほう。それはそれでとても気になるが……まあ、後でわかるなら良いだろう。それなら、さっさと王様のところに行くことにしようじゃないか。もう昼も過ぎていることだしな」
「そうだね、でも……ちょっと寝るからあとはよろしく。夕方くらいに起こしてくれていいから」
僕は頷いて、そしてめんどくさいのでとりあえず全部を二人に押し付けることにした。