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異世界転移物語  作者: くろすく
5/10

俺と私と僕と魔法







「なあ、ルアン、で良かったっけ?」


俺は目の前を歩いている王子に話しかける。

キルツっていう結構背の高い男を一人引きずってるけど、その重さを感じさせない様子は、なんかの魔法でも使ってんのかな?


「ええ、ぜひルアンと呼んでください。それで、なにか?」


嫌味を感じさせない笑顔に、俺はこの国を信用するくらいはしてやっていいんじゃないかって思えてきている。

つーか、優が決めるんだから俺の意見は基本的にどうでもいいんだけど、多分俺らはこの国が好きになるんだろうな。

今のところはいい奴としか会話してないっていうのはあるけど。…ああ、そういえば、昨日の謁見の間じゃあなんか怪しいなって奴が少しはいたっけ。それくらいは仕方ねえもんかな。


「俺も、さっきから呼んでるけど、キョウヤでいいぜ。なあ、ルアンはさ、優のこと、気付いてんの?」


俺は少し警戒をする。もしもあの女の子を利用して優を取り込むつもりなら…俺はこの国を信用しようとは思わない。

俺の、いや、俺たちの親友を騙そうと、傷つけようとするようなら、俺はなんとしてでもこの国をぶっ壊してやる。


そんな俺の気持ちを知ってか、一瞬真面目な顔になるけれど、首を振って否定して笑うルアン。

その顔には、利用しようというものではなく、ただ喜びが浮かんでいた。


「自分が見ていたのはユウではなく、フィリスですよ」


ここら辺でいいですかね、と呟いてキルツを投げ捨てるルアン。


周りのみんなからは程々に離れていて、けれど見失いはしない距離。


俺が首をひねっていると、圭吾が、


「ああ、あの女がお前の従妹だからか。恭弥、俺らが優を見て気付いたように、ルアンはフィリスを見て気付いたんだ」


「あー…それって、なにか?異世界来て二日目である種のテンプレ展開ってやつか?」


優は多分あのフィリスって子のことが気になってて、フィリスって子は優のことが気になってんの?

うわ、これってあれじゃん、今後が少し読める気はすっけど……優だからなあ。


「テンプレ展開って言葉はよくわかんねえけど、俺はフィリス嬢のあの顔は初めて見たなあ。パーティーでもあんな顔しないし」


投げ捨てられたまま寝っ転がっているキルツが言う。

てかお前、嬢とか付けんのな。割と軽そうなやつだと思ってたのに。


「フィリスは確かに自分の従妹で、王族の一人ではありますが……父は、彼女を利用したりはしないでしょう。何より、父の妹…叔母上が許しはしませんね」


「あー、確かになあ…あの人だったらそうだわ。娘も息子も溺愛してるもんな」


「むしろ、今まであの手この手を使っても誰にも反応しなかったフィリスがやっと、と喜ぶでしょうね。自分も含めて、彼女のことはしんぱいしていましたから」


そう言って遠い目をしているルアンとキルツを見ていると、王族って案外普通なんだなって思えてくる。

そりゃあ時には何かを切り捨てるような決断をしなきゃいけねえ時だってあるだろうけどさ。


「それで、魔法はいつ教えてくれるんだ」


って、圭吾、お前は本当に空気を読まないやつだな。

わかってるくせに読まないお前は本当にすごいやつだよ。

俺はわかってねえから読めねえんだけどさ。


「それもそうでしたね。それではまず、魔力を感じる、ということで……頑張ってください」


そういえば、という様子で手を叩くと、ヒントもなしで無茶な要求をしてくる。


「は?」

「む?」


「ですから、頑張ってください」


そう言って笑うルアンは本当にいい顔をして笑っていた。キルツは身を起こして座っている。


「そもそも、魔力をどう感じるかは人それぞれ。ですから、どうにかして感じてください。参考までに自分が感じた時の話をしますと……地下牢に押し込まれました」


「地下牢?」


「ええ、地下牢に押し込まれて食事抜き、水はたまに。極限の状態で、生きるか死ぬかの状態で生きたければ地下牢を壊すしかない、と」


まあこれは第一王子だけしかやらない方法なんですけどね、そう言って笑うルアンに黒いものが見えたのは気のせいじゃないと思う。


「まあ、伝統というやつですよ。自分はもう気にしてはいません。さ、どうぞやってみてください」



……駄目だったら、押し込まれんのかな。



◆◇◆◇



みんなから離れて中庭にやって来たシルヴィさんと私。どうしよう、ほとんど初対面の人と二人きり、それもこんな綺麗な人となんて…ムリ、心臓がもたないよ。


「あの、よろしかったらリンコとお呼びしてもよろしいですか?」


前を歩いているシルヴィさんがこちらを振り返って笑顔を見せてくれる。

って、どうしよう、早く何か言わないと!


「へっ、はっ、あ、はい!」


どうしよう、顔が熱い。これ絶対顔真っ赤になってるよ…。


「ふふっ、ありがとうございます。私のことも、シルヴィとお呼びくださいね?」


「はい、ありがとうございます!」


笑われちゃったよ…変な子だって思われちゃったかな…。


シルヴィさんは中庭にあるベンチに腰掛け、隣をぽんぽん、と叩いた。

そ、それはそこに座れってことなの?!

美人と二人きりで隣に?!


「し、失礼します…」


恐縮です。と頭を下げておそるおそる座って小さくなる私。ただでさえ小さいのに、もっと縮んじゃったらどうしよう。


「そんな畏まる必要ありませんのよ?位で言えば、異世界の客人である貴女方の方が私よりもずっと高いんですから」


「そ、そうみたいですけど…なんか、別世界の人みたいっていうか…。あ、実際にそうなんですけど、なんていうか、住む世界が違うっていうか……」


私がそう言ってどんどん小さくなっていると、シルヴィさんは少し困った顔で笑う。


「じゃあ、私と友人になりましょう?それでしたら、そんな小さい悩み事をする必要なんてないですから」


「友人……って、友達ってことですよね?!

私なんかが、良いんでしょうか…」


「良いの!ふふっ、それじゃあ、敬語も抜きね?私、友達って呼べる人ってほとんどいないの」


「そんなに綺麗なのに?」


口を滑らせ、私が思わず思っていることを言ってしまうと、シルヴィさんは顔を少し赤くする。


「ありがとう。でもね、私を見る人のほとんどは私が皇女だから近寄ってくるの。そう思うと、周りの人はみんな嫌だったわ」


「皇女だから……」


「そう。でもね、キルツは、違ったのよ」


そう言うシルヴィさんはとても優しい顔で、遠くを見つめていた。


「あの人は私が皇女だって知らないときでも、知った後でも、変わらずに接してくれたわ。だからその…私が、無理やりに許嫁にって、ね?まあ、あの人は優しいから受け入れてくれたんだろうけど…」


「確かに、どうして皇女様が他国の公爵家の許嫁に…って思ってましたけど、そういうことだったんですか…」


私が呟くと、シルヴィさんは、可愛らしく笑って口に指を立てる。


「この話は、キルツには内緒よ?それと、敬語が抜けてないわ、リンコ」


「あ、はい…じゃなくて、うん」


よろしい、とばかりに頷くシルヴィ。


「それじゃ、魔法の練習、しましょうか?」

「そうだね、私も、みんなの足を引っ張らないようにしないと!」


拳を握りしめ、やる気を見せる私を、シルヴィは笑顔で見ていた。



◇◆◇◆



僕らはみんなが行ってしまっても、ここに留まって動かないでいた。

いや、正確には、動けないでいた。

僕の隣に座っているフィリスさん。彼女は下を向いたまま動かないし、何も知らない僕はどうしようもない。

でも、このままじゃ本当にどうしようもなくなってしまうので、


「あの、魔法の練習…ですよね?どうしたらいいんでしょう?」


意を決して話しかけると、彼女がピクリと反応して、こちらを見上げてくる。

そして、そっと手を差し出してくる。


えっと、どうしろって?

握る…握る?!握ったらいいのか?!


どうしたら良いのかわからず動けないでいると、彼女の目が少しずつ潤んでくる。

頬も心なしか赤くなってきているし…もしかして風邪かな?


手を取らないで僕は彼女の額に手を当て、自分のと比べてみる。

待てよ、どんどん高くなるぞ?大丈夫か?!


「大丈夫ですか?!すごい熱いですけど!」

「……はい、熱いです」


そう言って彼女は自分の手を首に当てる。


「冷えて」


と呟く。


その瞬間、彼女の手から冷気が出てきてだんだんと赤みが引いていく。


これが魔法か…。もっと詠唱っぽいのがあると思ってたんだけど…。


「魔法って、詠唱とかはいらないんですか?」


「これくらいなら、必要ない、んです」


なるほど、必要に応じてってことか。

じゃあ僕も言うだけでできたりするのかな。


「氷」


……。何も起きない。

うわなんだこれ、恥ずかしいぞ。

めっちゃ普通にできるかなって勘違いしちゃったパターンじゃん。


広げた手のひらには氷が出てくるようなことはなく、ただ、雨でも降るのかな?って感じの体勢になってしまっている。


そのままの体勢でため息をつく僕の手のひらにフィリスさんの柔らかくて小さな手が乗っかる。


「な、にを…?」


なんだろう、何かが流れ込んでくる。繋がっている手を起点に暖かい何かが流れ込んで、身体を回って、また出ていくような感覚。


「これは?」


「これが、私の魔力、です…」


蚊の鳴くような声で言う彼女。

そっか、これが魔力か。僕がゆっくり、優しく彼女の手を包むと流れ込んでくる魔力の量が急に増えたり減ったりする。


彼女の顔はまた赤くなって、息も荒くなっているような気がする。


「大丈夫?」


「…え、と…は、はい」


「それなら良いんだけど…。ちょっと試したいことがあるんだけど、いいかな?」


「? はい」


僕は彼女の手を離すと、代わりに彼女に手をかざす。


できない気はしないから大丈夫だろうけど…一応、イメージって大事だからね。


「ヒール」


呟くと、僕の手から薄緑色の柔らかな光が出て、彼女を照らした。

やっぱ回復魔法って言ったらこれかなって感じでいったんだけど…。

彼女の顔の赤みは引いていなくて、失敗だったかなって思う。


「うーん、風邪には効果ないのかな…一応、僕の世界でも有名な回復呪文な気がするんだけど…」


「そ、それは…私、風邪引いてないです」


「でも真っ赤だし…」


「風邪じゃないんです!」


思わず、といった様子で口を抑える彼女。

でもそうか、風邪じゃないんなら効かなかったのも頷ける。


でもまあ、あんまり実感はなかったけど、僕も魔法使えたんだよね。


異世界って、すごいんだな。



そう思ってしみじみとしていると、


ドォン!!


爆発音が訓練場に響く。


「やべっ、圭吾!!お前のせいだかんな!」

「なぜだ?俺はただ実験をしようとしただけだが」


…本当にじっとしてない奴らだな。


僕はため息をついて立ち上がり、フィリスさんの手を取って立ち上がらせる。


「うーん……リフレクター、半球、展開」


僕が言うと、涼やかな音と共に僕とフィリスさんを囲むように半球のシールドが生まれる。


「これは?」


「念のため、かな。そろそろお昼だしね、行こうか」


そう言って僕はフィリスさんに背を向けて歩き出す。

まったくあいつらは今度は何をしようとしたんだか…。


「……魔法を、作った…?それも、あの一瞬で…?」


そんな彼女の呟きは、耳に届いてはいたけど。




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