僕と王様と説明回
今回、説明回です
広い廊下にコツコツと僕らが歩く足音だけが響く。壁には何だか高価そうな絵が飾ってあったり、台には高価そうな壷やらなにやらが飾ってある。大きな窓からは暖かな陽射しが射し込んできていて、いかにも王族の住む城って感じがする。
王城っていうくらいだから高価そうなものばかりなのはまあ納得できるけどさ。
「圭吾、恭弥、ちょっと面白そうだからってそこらへんのもの、ひょいひょい触らないようにね」
僕が注意をすると二人は心外だ、とでも言いたげな表情をして頷く。
一応言っておかないとこの二人はなにをしでかすかわからない。
僕の言葉にびくりとなったのは、僕の袖をまたつまんでいる女の子の方だった。
すっと視線をそちらにやると、窓を触ろうとする直前で。
僕は特になにも言わずに黙って前を向いた。
いや、好きに触ればいいさ。僕の知ったことじゃないしね。そもそも君の名前も知らないし、正直離してほしい。
僕がだんだんとイライラしてくるのがわかっているのか、圭吾と恭弥は頑張れとでも言いたげな目をしている。お前ら器用だな。
そのまま数分歩くと、一際大きな階段と、その先に見えるこれまた大きな扉が。
まさかとは思うけどこれですか?これがかの有名な謁見の間ってやつですか。
「こちらを上がっていただくと、扉が開きます。中で王がお待ちです」
ありがとう王子様。お金かけすぎですねこの城。天井高いし扉でかいしいらないだろ。
いや、他国への牽制っていう意味では有りなのか。自分の国はこんだけ栄えてんだよって感じに?うわー、超めんどい。
僕たちは黙って階段を登った。数えたら二十三段だった。案外疲れるもんだ。
扉の前に立つと、王子様が息を吸い込む。
「異世界の客人たちを連れて参りました!」
近くにいた僕らが思わず耳を塞いでしまいそうなほど大きな声。君、そんな声どこから出してるの?全然そんな大きな声出せそうな感じしないよ?
声に反応したのか、ゆっくりと扉が開いていく。中には二十人ほどの騎士とおそらく大臣クラスの貴族に、公爵クラスの貴族、そして王と王族がいた。貴族に関してはそんな感じがするってだけなんだけど。
注目を浴びる中、王子様は堂々と前を歩き、僕たちの先導をする。それはそうだ、王子様…しかも第一王子というのだからこんな場面には慣れているのだろう。
王子様は王の前で一礼をして、王の側に立った。その顔には先ほど見せた人間味のある表情は浮かんでおらず、威厳のある…まさに王族って感じがした。
圭吾と恭弥の二人は左右に目を走らせて多分戦力の確認でもしてるんだろう。無駄かもしれないけど、いざという時のために。
こいつらはいつもは使えないんだけど本当にこういう時は役に立つっていうか……頼りになる。
女の子の方はぎゅっと僕の袖を握り震えている。そろそろ離してくれないと皺になりそうで嫌だな。
「そなたらが、異世界の客人か」
ずっしりと重みのある言葉。
僕は目の前の王を見た。まだそこまで年老いていない…見た目は四十代だ。
だけど、ただのおじさんと呼ぶにはあまりに威厳がありすぎる。
これが一国の長か。日本の総理大臣よりも厳格で、呑まれてしまいそうな雰囲気を感じる。実際、女の子は呑まれているんだろうな。
「はい」
おそらくこの中では僕が代表…ということになるんだろう。圭吾と恭弥を見たところ黙って頷かれたし、女の子は問題外。
「…まずは、急に呼び出してしまったことに対する謝罪を」
謝罪、か。僕としては地球に未練なんかないというかどうでもいいんだけど。それは多分圭吾も恭弥も同じで。謝罪をされるとしたら女の子だけだろうか。
僕は黙って頭を一礼する。
そして、王を見る。
そんなことはどうでもいい、さっさと本題に入れ、と言わんばかりに。
王は僕の言いたいことを理解したのか、頷いて続いて述べる。
「余の名はリンテンス・ルースブルク。この国の王をしている。そちらの名を聞かせてはもらえないだろうか」
「僕の名前は、笹原優と言います。こちらは石峰圭吾と三神恭弥」
と、そこまで言ったところで女の子の名前を聞いていないことを思い出した。
「君の名前は?」
「……い、一ノ瀬凛子」
そっと女の子の耳に口を寄せると、か細い声が聞こえる。
心なしか顔が赤い。言っておくけどギャルゲ展開なんていらないからね。僕にとってはそれはいらないものでしかない。少なくとも今は、だけどさ。
「こちらの少女は、一ノ瀬凛子と言います」
僕が全員の名前を答えると、王はもう一度頷いて口を開いた。
「では、一通りの説明をしようと思う。その後、何か聞きたいことがあれば、聞いてほしい」
「はい」
「うむ……。まず、そなた達を召喚した目的だが…国を守ってほしい、というのがある」
「国…ですか?」
「ああ、異世界人は総じてこちらの世界の者よりも能力が高い。それを利用して戦争をしようという者も中に入るが……この国にはいない。余がそなたらに求めるのは、有事の際の国の守護。そして、戦争はこれには含まないと約束しよう」
「…なるほど」
「さしあたっては、生きるためにも力がいる。よって、こちらの学院に通って生活をするのはどうだろうか」
「…質問してもよろしいですか?」
「ああ、こちらに答えられることには答えよう」
僕は一旦深呼吸をして、周りを見た。全員が僕に注目している。中には何か企んでそうな雰囲気を醸し出している人もいるけれど…それは今はいいだろう。
「僕たちを呼び出した条件、というのは何でしょうか。僕たちは元の世界では何の力もないただの高校生…こちらで言えば、学院に通う未熟者です。……そんな僕たちが召喚されえう条件とはなんでしょうか」
「それは、そなた達が死の危機に瀕していたから…であろう」
「死の危機…ですか?」
んっ、と恭弥が小さな声をあげるけれど無視をして尋ねる。
「こちらに召喚される条件としては、一定の才能を持つ者、それと、死の危機に瀕している者…自殺、他殺は問わない」
「そうですか…」
僕らの場合は何だろう。ただ馬鹿なことをしていただけな気がするけど……。
「優、俺、それあってると思うぞ。理由は後で話す」
「…了解」
恭弥が何かわかるっぽいのでひとまずそれは流そう。女の子は女の子で後で聞いたらいいだろう。
「それでは次に聞きたいのは、有事の際、それも戦争ではない、というのはどういった時なのでしょうか」
「……この世界には、人だけでなく魔の者も存在している。それが獣の形をしているのか、異形の形をしているのか……人の形をしているのかはそれぞれであるが」
「…なるほど。それでは次の質問ですが……」
この後、僕は思いつく限りの質問を続けた。
◆◇◆◇
王との謁見が終わった後、僕たちは部屋を与えられ、そこで過ごすように言われたので、とりあえず男子と女子に分かれて過ごすことにした。
といっても、男子三人に対して女子は一人で彼女は一人ぼっちなんだけど。
「あー疲れた。なげーよ優、俺肩バッキバキだっつーの」
「仕方ないでしょ。聞いておかないと後で困るのは僕らだよ?後になってなんかあっても文句も言えないよ」
「確かにそうだな……。いきなりこんな知り合いが誰もいないところに放り込まれたんだ。警戒してもしたりないだろう。最悪、この場にいる者以外は全員敵だと思っても問題はないだろう。今のところは相手を信用するに足るものはないわけだしな。それを考えると、優、最後のは良かったと思うぞ」
「あー、確かにな。俺らにも考える時間はいるし色々話し合うこともあるしなー」
「あはは、流石に一週間はもらえなかったけど、二日もらえただけ良かったかな?」
端的に言えば僕は先ほどの謁見の時に時間が欲しいということを告げたのだ。
最初は一週間、それから五日…最終的には二日に縮められてしまったけれど、まあ二日もあれば今後の方針を決めるのには充分かな。
最初にやり過ぎかなってくらいの要求を出してそこから交渉を始める……昔なにかの漫画で読んだ知識が少しは役に立ったかな。
ベッドに横たわる恭弥と椅子に座って部屋の様子を眺めている圭吾はそれぞれリラックスしつつも警戒を解けないでいるようだ。
「まあそこまで気にしても仕方ないと思うし、とりあえずは貰った二日で今後の方針を決めようか。まずは、現状の確認からだね」
僕が話し始めると、圭吾は椅子に座ったまま腕と足を組んでこちらを向き、恭弥は身を起こした。
「現状、僕らは戦う手段を持っていない。これは早急になんとかする必要がある。王様の言っていた話からするに、ここは地球よりは命が軽い世界だ。誰かの保護だとかそんなものは期待するだけ無駄。自分たちの身は、自分たちで守る。これが常識だろう。まあこれに関しては……」
「いつも通りだな」
「ああ、いつも通りだわ」
恭弥と圭吾は特に何も気にしている様子はない。それは僕らのそれぞれの事情が関係しているのだけれど、今はいいだろう。
僕は一つ頷いて、続きを話し始める。
「問題は、どうやって戦う手段を得るか。国に従うもよし、なんとかして逃げ出すもよし。まあ僕としては今のところは従う方が良いと思うけど」
「確かにな。何をするにしても情報が少なすぎる。情報を得るという面でも、俺としては学院に通うのは悪くない案だと思うが…」
「うーん、俺はお前らに従うわー」
ひらひらと手を振って欠伸をする恭弥。
僕と圭吾は呆れることしかできない。いつも通りといえばいつも通りなんだけど。
「恭弥……あ、そういえば、さっきのことだけど」
「んあ?」
「僕たちが召喚される条件の話。確か…死の危機に瀕してる…だっけ?なんか心当たりがあるんだよね?」
「あー、それな。実はお前らの後ろで銀行強盗が起こってるっぽかったし、銃みたいなん持ってたし、それじゃね?って」
僕と圭吾は笑いながら衝撃の告白をする恭弥を信じられないようなものを見る目で見る。
いやおかしいだろ。なんでもっと早くなにか言わないんだ。
「……まあいいや。今更それについてはどうしようもないしね」
「…そうだな。その話はもう忘れよう。それより、今後の話だ。俺としては先ほど言った通り、だな」
「うーん……まあ、それ以外はどうしようもないしね…そうしようか。
じゃ、王様から聞いた話をパパッとまとめて話すよ。お前ら聞いてなかっただろうし」
「助かるわー」
「ああ、頼む」
「この世界には戦争がある。それも人間と人間、だけでなく人間と亜人みたいに。亜人っていうのはエルフだとかドワーフだとか、そういう人たちの総称だね。
この世界には大陸が三つある。まずは僕たちがいる、サーミル大陸。それと、強い魔物がうようよいる魔大陸。最後に、何もかもが不明の暗黒大陸。これに関しては要調査かな。
とりあえず僕たちのいるサーミル大陸だけど、国がいくつかある。その中でも主要な国は四つ。
僕たちがいる魔法が盛んなルースブルク王国。次に魔法具とか技術が進歩してるサギタリカ王国。それと亜人たちがいるヴァーミル連合国。最後に、強大な軍事力を誇るカタラスク帝国」
「帝国かー…漫画やアニメじゃ悪者だったりする事が多いイメージがあるんだけど…」
「そうとも限らないだろう。逆に大国だからこその責任を持っている場合だってあるはずだ」
「まあそこはちょっと置いといてね。
世界のことは後々わかるだろうからこれくらいにして、次は僕ら異世界人について、だね。
僕らは現地の…こっちの世界の人よりも能力が高くなっている…らしい。けれど、その幅はそれぞれで、とんでもなく強くなっている場合もあるし、そうじゃない場合もある。
それと、異世界人にだけある特徴として、固有能力を持ってるってことが挙げられる」
「流石異世界、なんでもあり感がバリバリすんな」
「なんでも、は言い過ぎだが確かにな優遇されてる感じはするな」
「僕らもそのうち固有能力が現れると思うけど、これに関しては基本的に秘密か嘘を言っておいた方が良いかも」
もしも何かあった時対策されて使い物にならなかったりしたら笑えないしね。
「まあ、とりあえずはこんなところかな。明日からは一般常識を学んだり、魔法の練習もしたりするらしいから、そろそろ寝ようか」
「魔法……だと?」
「ああ…そういや忘れてたけどここって異世界なんだよな……魔法…魔法か…くー!!夢が膨らむなあ圭吾!!」
…いや、気持ちはわからなくもないけど早く寝ないと明日グロッキーになると思うよ?
あからさまに不埒な考えを抱いてニヤニヤしている恭弥と、無表情ながら目は爛々としている圭吾を見て、僕はため息をついてベッドに横になった。