蠅道
前回の、「蠅」に続く思わずぷっと笑えるもの。何故、作者はどうでもいいハエを主体にした話を二回も書いたのか分からない。今は秋。ハエの姿を見ることもなくなった寂しさだろうか。ハエが恋しいのかもしれない…。
弁当屋に仕返ししてから2週間が過ぎた。その後の弁当には、ハエ一匹も入っていない。弁当代12人分は無事にそれぞれに支払われたものの、JTだけはもやもやした気分でいる。考える事は、
(またハエが入ってないものか…)
作業に身が入らない。更生施設の面々は真面目に、ネジの部品数のチェック作業をしている。JTは適当に数えてた。
昼になり、いつもの小屋に休憩しにやってきた。ふと裏の畑のおじいに会いにいこうと、弁当をお茶で流し込みラッキーストライクを吸うと、フェンスを越えて畑に向かった。おじいがいた。
「やあ、またハエ取りにきたのか」
「いや…おじいに会いにきた。前もチラッと思ったけど、おじいのハエの捕まえ方があんまりにも見事だったから。俺もその道でいこうと考えてたんだ」
「アホか?」
「…まあ。大分イカれてるんだ」
「そうか。ちょっとこい」
おじいは手招きすると、広い工場に入って行く。そこに弁当がズラリと並んでいるではないか。
「わしはだなあ、お前んとこの専務が気に入らんでな、弁当にたまにハエを入れて楽しんどる」
「おじいもイカれてるなあ」
「相当なもんだ。お前がハエを入れたと思ったよ。1つの弁当箱から沢山飛び出すか、期待してたんだがな」
弁当はもう、既に出来上がっている。もう昼は過ぎた。
「おじい…このままだと腐るぞ。今は夏だ」
「これか? 大丈夫だ。この後冷凍させて、大きなレンジでチンすれば明日はこの弁当食えるぞ」
「まぢか?」
「おう。お前達には悪いんだが、弁当は全てわしが作っとる。わしなりのやり方があるんだが、ハエ入り弁当の時は、賞味期限切れのものがある時。さすがに悪いと思って、ハエを入れて食わせないように工夫をしている。その時は、小ハエにしておくが、たまに蚊も入れたこともある。食わない方がいいだろう? わしも腹を壊されたら困るから、苦肉の策だ」
おじいは、放置していた弁当を大きな冷凍庫に入れている。
「おじい、ここで働かせてもらえないか? 弁当屋で、ハエ入りのタイミング見計らっての商売なんて、危なっかしくて仕方ねえ」
「お、小僧うちで働くか? よし働いてもらおうか。給料は安いが、昼には弁当が食えるぞ」
「いや…それは遠慮しとく。コンビニでいい」
「まずは、専務に挨拶するんだ。ここで働く事は言うなよ。そうだな、幕の内弁当を作ってもらおうか。まずはだなあ……」
JTとおじいは、裏の畑へ行き二手に分かれ、各々ビニール袋を持ちハエを一人分捕まえに行くことになった。JTは想像した。専務が弁当箱を広げた瞬間、一斉に飛び出すハエに驚く顔を。笑いが止まらない。
「おい、ハエはまだか。もう捕まえたから工場にこい。これからハエ入り幕の内を作るぞ」
何故、おじいは専務が嫌いなのだろうか?
「専務か。ありゃわしの弟だ。虫が好かんで」
読んで頂いてありがとうございます。「蠅」と合わせた続きもののような「蠅道」JTとおじいのやり取りの、独特の世界を感じて頂ければ幸いです。