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2-12

「夜刀神先生、元気ないねー」


 そう切り出した月の視線は、廊下で生徒と談笑しているレオンに向けられている。


「やっぱ、レミさんがいないからじゃね」


 自然な動作で月の弁当から卵焼きを奪った星司はこともなさげに言う。

 二日前、レミが妖界に戻った以来、レオンはどこか心ここにあらずといった雰囲気だ。


 表面的には上手く取り繕ってはいるが、一部を除いたレオンを知る者からしてみればバレバレだ。

 除かれた一部である華蓮は話について行けず、押し黙る。華蓮が鈍感ということもあるが、それ以上に

周りが鋭すぎるのだ。


「仕事は問題なくこなしてくれているけれど……」

「あのままでは使い物にならんだろう」


 苦笑する海里に指摘したのは、華蓮の横に鎮座する焔だ。最近は何故か、やたらと華蓮のところに入り浸っている。

 オブラートに包まず言葉を並べる焔に、いつものように丸まっていた流紀は呆れたような視線を投げかける。


「仕事してるなら別にいいじゃない」

「そんな単純なもんじゃないんだよ」


 率直な華蓮の意見には視線だけではなく、言葉で返す。

 戦闘力だけでいえば、レオンの代わりなどどこにでもいる。彼の価値が冷静な判断力と、類まれな頭脳にあるということはこの数日間、流紀もよく見てきた。

 いくら表面的では平静を保っていようとも、今のレオンには常の冷静さが欠けている。戦闘になれば役に立たないことは目に見えている。


「あらあら、若い子達にこぉんなに心配されて幸せ者ねぇ」


 艶めかしい声と共に海里の首元から二本の腕が生える。絡みつく腕に合わせて、海里の背中には豊満な胸が押し付けられている。

 こんなことをする人物は一人しかいない。クリスである。

 彼女の過剰なスキンシップはいつものことなので、振り払うことも、頬を赤らめることもせずに受け入れる。


「水無月先生、何をしているんですか」


 生徒達との談笑が終わったレオンがこちらに気付き、眉を寄せて近づいてくる。


「スキンシップよぉ」

「そんなこと言ってないで海里さんから離れてください」

「大丈夫だよ、いつものことだし」

「慣れてもらっては困るんですが……せめて、場所を選んでください」


 飽くまで普段通りに振る舞うレオンに、海里もクリスも特に言及はしない。二人とも、レオンが自らの力で乗り越えることを信じているのだ。

 どこか歪な三人の様子を眺めていた焔は無言で肩をすくめる。


 不意に。


「いやはや、実に仲睦まじい光景ですな」


 ぞわりと不快な気配が肌を撫でる。

 現れたのは両目を前髪と包帯で隠した執事服姿の青年。唯一、表情が視認できる口元が不気味に歪曲している。

 誰一人して察知することができなかった彼の出現に、周囲の面々はただ驚愕の表情を露わにしている。


「一先ず、自己紹介を。私はレミ様の執事を務めさせていただいているムキリでございます。以後、お見知りおきを」


 周囲の反応に一欠片の興味も見せず、大仰な仕草で名乗る。


「レミの執事がわざわざこんな所に何の用かな」


 いち早く我に返った海里の問いかけに、ムキリと名乗った青年は口の端を更に歪める。

 ムキリの一挙一動を警戒心を丸出しにしたいくつかの視線が見張っている。


「いやはや、大した用ではありませんぞ。ただ少しレオン殿の身体を貸していただこうかと」

「そうでもしないとレミに信頼してもらえないわけか」

「いやはや、さすがですな。しかし、少々間違っておりますぞ。私はレミ様から信頼を得ようとは思っておりません」


 隠された両目に射抜かれた。嫌に早鐘を打つ心臓に気付かないふりをして、正面から受けて立つ。

 肩にそえられた手がいつでも手を貸すと雄弁に訴え、怖気づきそうになる心を奮い立たせる。


(ありがとう、クリス)


 心中で紡がれた言葉を聞き取ったかのようにクリスは厚い唇に微笑をたたえる。

 離れていく手の余韻を感じながら、冷静に、平静に、静けさを孕んだ隻眼をムキリへと向ける。


「信頼など必要ない。レミ様が手に入りさえすれば私はそれでいいのです。しかし、相手の好みを考えないほど私も身勝手はありませんからな」

「それでレオンの身体を?」

「いやはや、そういうことですな。身体は手に入れた。洗脳など容易いこととはいえ、好かれるための努力を惜しむわけにはいきますまい」

「レミに手出しはさせませんよ」


 海里が口を開くより先に言葉を放ったのはレオンだ。

 普段のレオンからは考えられないほど、その瞳は激情に駆られている。


「いやはや、今の貴方に何ができるのですかな。それ以前にもう遅い」


 見せびらかせるように赤い髪紐を落とされる。先に勾玉がつけられたその髪紐は間違いなく、レミが身に着けていたものだ。

 抑えつけることのできない感情がレオンの身体中から溢れ出す。その瞳は黒から赤茶へ色彩を変える。


 静止を求める海里の言葉は耳に入っておらず、憤怒を宿した瞳にはムキリしか映っていない。

 身に纏う妖力がうねり、炎、水、雷の三種を混ぜ合わせた蛇がムキリに襲い掛かる。が、レオンの攻撃が当たる瞬間、ムキリの姿は黒い霧となって消える。


「いやはや、その程度ですか」

「っの」


 すぐに青年を形作った黒い霧を認識するやいなや、大量の妖力を注がれた炎が放たれる。また逃げられることを見越して、脳内では水や雷撃を生成する準備を行う。

 普段のレオンからは考えられない完全な力押しだ。


「レオン!やめ」


 止めに入ろうとした海里のすぐ傍を雷撃が走る。ムキリにはまたもや避けられたようで、間髪入れずに生成された疾風が藍色の髪を激しく揺らした。


 静かに顔を俯かせた海里の顔を乱れた長髪が隠す。微かに除いた口元が動いているのが見て取れた。


 それが意味することを誰より早く察したクリスは弟の失態に苦笑を浮かべる。誰よりもレオンを大切に思っている彼女だからこそ、これからの出来事に手出ししない。


 それは、レオンが氷塊をムキリへ放った時に起こった。

 渇いた音が響き渡り、レオンの頬を何かが掠める。

 頬から伝わる微かな痛みと熱に目を見開き、振り返ったレオンの視界に映ったのは銃口。そして風に煽られる藍色の長髪。


 恐る恐る視線をあげれば、いつもの変わらない笑顔を浮かべる中世的な顔。それが尚、恐怖心を掻き立てる。


「装填」


 無情な声に答えるように、銃口に光が集まっていく。柔らかな笑顔の中で、隻眼だけが酷く静穏だ。

 間違いなく自分を射抜こうとしていると判断すると同時に、熱が一気に冷めていくのを感じる。


 渇いた音とともに霊力が凝縮された弾丸が発射される。紙一重でそれを避けたレオンは、寸分違わず今までいた場所を突き抜ける弾丸を見て息を呑む。


「海里、様……?」


 震える声に海里は恐ろしいほどに穏やかな笑顔を向ける。


「自分の非は理解してるよね?」

「っ……はい」

「良かった。俺も無駄撃ちはしたくないしね」


 そうは言いつつも、銃口はレオンに向けられている。反応によっては撃ち込む気があるということだろう。


 普段の穏やかな雰囲気を纏まったまま、怒気を滲ませる海里に圧倒された他の面々は完全に言葉を失っている。唯一、クリスだけがこの状況でもいつも通りだ。


「冷静さを失ったレオンは使い物にならない。このまま、ここにいても邪魔になるだけだ。これ以上の失態を重ねる前に、妖界に戻って頭を冷やしてきたらどうかな」

「はい……分かり、ました」


 自らの非を嫌というほど理解しているレオンに逆らう気は起こらない。海里の言っていることは間違いなく正しい。

 素直にその場を立ち去っていくレオンに声をかけることは誰一人できず、ただ静かにその背中を見送る。


 意外なことに、ムキリすらも去りゆくレオンをただ静かに見送る。口元だけが描く楽しげな表情がやけに印象的だ。


 これまでの出来事を傍観者の(てい)で眺めていた焔は、レオンと海里を見比べ、面白いものを見つけたとばかりに笑う。


「ただの甘いやつだと思っていたが、上に立つ者としての素質もちゃんと持っているんだな。さすが、あの二人の子供といったところか」

「素質って何よ」

「華蓮にもそのうち分かるさ」


 得意げな表情を華蓮に向けた焔は思い出したかのように、流紀へ視線を向ける。


 藍白の瞳は静穏を保っており、レオンのように先走るでもなく、ムキリが現れる前と同じように華蓮の横で鎮座している。

 意外な姿に目を丸くする焔。それの意味することを察した流紀は鬱陶しそうに焔を見やる。


「考えなしに突っ込むほど馬鹿じゃない」


 それでも怒っていないわけではないらしく、全身から有り余るほどの殺気を放っている。

 準備運動がてらに伸びを一つする。


「いやはや、逃げられてしまいましたな」

「その割には随分と余裕そうねぇ」

「なに、順番が変わっただけです。先にあの方の頼みを遂行するまでですな」


 包帯と前髪で隠された瞳が海里へ向けられる。


「あの方……?」


 龍刀を銃から元の竹刀へと戻した海里が怪訝そうな声を漏らす。先程までの怒気は一向に感じられない。


「貴方もよくご存じのお方ですぞ」


 海里の表情が更に怪訝そうなものになる。

 "あの方"というのもそうだが、ムキリに関しては不可解な点が多い。


 登場の仕方からしてもそうだ。この場には処刑部隊の主力メンバーに合わせて、焔や流紀といった手練れな者が揃っている。不調だったレオンや、手練れな者の中でも未熟である海里が気付けなかったとしても不思議はない。


 しかし、この場にいた誰一人、ムキリが言葉を発するまで気付くことができなかったという事実はあまりにも非現実だ。


 そして何より、海里に違和感を与えているのはムキリが纏う妖力だ。ムキリ自身の妖力の中によく見知ったものが混じっているような気がするのだ。

 そう、まるでレミの妖力に似ているような――――。


「っ」


 視界を掠めた黒い物体を紙一重で避ける。

 海里が立っていた場所には槍の形をなした黒い何かが突き刺さっていた。


「いやはや、外れてしまいましたか」


 黒い何かは一瞬にして風化した。

 こなれた仕草で龍刀を構えた海里は、その切っ先をムキリへ向ける。


 今は戦闘中だ。悠長に考え事をしている余裕はない。

 背後にいる者の正体は掴めないが、ムキリの狙いが自分であることは分かっている。


「クリス」

「ふふ、分かりました。処刑部隊隊長の権限により、彼、ムキリを処刑対象とするわぁ」


 艶やかな声が静かに響き渡る。

 処刑部隊には、妖を殺す権限が与えられているが、それは処刑対象と決定された者のみに限られる。


 通常、処刑対象を選定するのは、直属の上司である金ノ幹部だ。しかし、緊急事態の場合だけ例外的に処刑部隊の隊長、もしくは幹部以上の位を持つ者のみに処刑対象を決定する権限が与えられている。


「戦うのは得意じゃないけれど……大事な家族に手を出されたんじゃあ、そんなこと言ってられないわねぇ」

「私も参戦させてもらう。妹に手を出したこと、後悔させてやる」


 銀猫の身体が光に包まれる。

 数秒も経たぬうちに銀猫は癖のある銀髪を背中に流した二十代くらいの女性へと姿を変える。髪につけられた桜の髪飾りは、焔が髪を纏めているものとよく似ている。


 華蓮の前では三度目になる本性を晒した流紀は「協力しろ」と焔に目配せをする。


「友人のよしみだ、協力してやろう。流紀、援護を頼む」

「分かった」


 返事を聞くやいなや、大きく跳躍した焔はムキリの前に躍り出る。

 焔の攻撃を防ぐために放たれた黒い霧は焔に到達するより先に氷となって砕かれる。


 炎を纏った拳が容赦なく叩きこまれ、ムキリの身体は数メートル後ろへと吹っ飛ばされる。服が焦げたことにより露出した肌には火傷のような傷が残される。


「いやはや、熱い熱い。冷やさねばなりませんな」


 火傷を負ったところに水でできた膜のようなものが張り付いている。治癒の能力を持った膜は、みるみる火傷を治していく。


 笑みを深めたムキリは軽く地面を蹴った。

 ばさりという音とともに、ムキリの背中に一対の翼が生えた。純白の翼が羽ばたき、ムキリの身体は宙へ浮かぶ。


「……あれは」


 翼が羽ばたくのを合図に純白の羽根が海里の頭上に降り注ぐ。が、その全てを流紀が凍らせる。

 藍白色の瞳は見覚えのある術を前に険しさを滲ませている。


 翼を持つ妖ならば扱えてもおかしくはない術だ。偶然と言われればそれまでだが、妙に引っかかるものがある。


「少し試してみるか、流紀」

「ああ」


 付き合いの長さを表すように言葉は少ない。

 再び、大きく跳躍した焔は、握りしめられた右手をムキリに向ける。


 焔の右手がぶれたかと思うと、一瞬で燃え盛る炎へと姿を変え、ムキリに襲い掛かる。

 咄嗟に防御しようとするが、一部を凍らされた翼は思うように動かない。


「いやはや、打つ手がありませんな」


 降参のポーズを取るムキリの表情から余裕の色は消えない。


「癇に障る奴だ」


 言葉が吐き捨てられると同時に、炎が纏わりつくようにしてムキリの身体を呑み込んだ。そこで異変が起こる。


 纏わりついていた炎が瞬く間にムキリの身体へ吸収されていった。まだ吸収を続けるムキリの身体は、幾ばくもしないうちに焔も吸い込まれてしまうだろう。

 死にはしないとはいえ、再起するにはかなりの時間を要する。苦笑を滲ませる頬に冷汗が流れる。


「まずいな」


 と、猛烈な勢いで出現した蔦が焔の右腕に巻き付き、肩から先を切断した。

 火の粉が舞う傷口を見た焔は苦笑を明確なものに変える。


「礼を言う」

「いえ。貴方があのような失態をするとは珍しいですね」


 姿を現した鈴懸の髪が数本の蔦に変わっており、そのうちの一本は先が焦げている。焔を切った影響だ。


「敵の力を確認するための、捨て身の攻めという奴だ。捨て身といっても私は痛くも痒くもないがな」


 焔を含め、桜の式には痛みを感じないタイプの式なのだ。多少の違和感を感じることはあってもそれまでだ。

 腕がないのは不便だが、媒体となったものか、霊力を補給すれば再生なので支障はない。


「後で桜に頼むか」


 すぐに再生しなくとも、戦闘にはなんら支障はないという判断だ。

 肉弾戦と主とする焔には致命的なことのように思えるが、本人にとっては些事程度なのである。


「切り離した分は彼の糧となるのでしょうか」

「その可能性は高いな。あの翼もおそらくレミのものだろう」


 相手の力を吸収するだけならまだしも、奪うというのは何とも質が悪い。

 対処法を練るメンバーを他所に、ムキリは視線を巡らせ、ある一点で止める。

 白い糸で作られた布が非戦闘員を守るように広げられている。


「いやはや、あそこにしますかな」


 ムキリの手から放たれた炎が圧倒的な火力で布を燃やしていく。


「少し強度が足りなかったかしらぁ」


 布を作り出した張本人であるクリスが大して気にしたふうもなく呟いた。

 被害を受けたのは布だけのようで、中にいた華蓮達は無事のようだ。


「やっぱり星司達は別のところに――」

「私は残るわよ。妖を前にして逃げるなんて、妖退治屋の名が廃るわ」


 得意げな表情で言い切る華蓮に困惑した笑みを向ける海里。

 華蓮の言っていることも間違いではないので、無理にでも逃がすということはできない。


「星司はどうする?」

「俺は……」


 本音を言えば残りたい。けれど、実戦経験が化け蜜柑の時くらいしかない星司が残っても足手纏いでしかない。

 難しいことは考えず、素直に残ると宣言できる華蓮の単純さが羨ましい。


 素直に残るということも、諦めて逃げるということも言えずに星司はただ言葉を詰まらせる。

 そんな彼らのやり取りを何をするでもなく眺めていたムキリは目当てのものを見つけたかのように笑う。


「いやはや、随分と深そうな闇ですな」


 星司は一瞬、自分に言われたのかと思った。

 しかし、ムキリの視線は星司を越えて更に後ろへ注がれている。


 隠された瞳からの視線を直に受け取った月は「へ?」と目を丸くする。

 全員の意識がムキリから逸れて月へ向けられる。その隙を逃さないムキリの身体が霧散し、月の周りに黒い霧が立ち込める。


 誰もが状況を掴めていない中、黒い霧は月の中に吸い込まれるようにして消えていく。

 そして――。


 いち早く異変を察したの海里は、反射的に星司の腕を引く。態勢を崩した星司は海里に倒れ込む形となる。


 行動の意味を問うより先に、その答えを知ることになった。

 海里の視線の先――星司が先程までいた場所には水の槍がいくつも突き刺さっている。


「いやはや、避けられてしまいましたか。惜しかったですな」


 よく知る少女の声が紡ぐ言葉はムキリを彷彿とさせるもので――。

 恐る恐る月の方へ視線を向けた星司は、彼女の表情に宿る不気味な笑みに戦慄する。


 頭に血が上っていくのを感じ、身体は怒りで震えている。

 それでも飛び出さなかったのは、腕の掴む海里の手が冷静さを与えてくれたからだ。


「いやはや、この身体は中々に居心地が良いですな」


 可愛らしい声から沸き起こる果てしない嫌悪感。


「海里……どうにかできねぇのか」

「方法がないわけじゃないけど」


 歯切れの悪い海里の腕を掴みかかり、頭を下げる。


「頼む! 俺は何でもするから…っだから、月を」


 命すら投げ打つ覚悟はできているという星司の瞳に海里は「仕方ないか」と淡く笑う。

 傍で必死に制止を訴える金髪の少年の姿が目に入り、心中で謝罪する。


 このままでは月ごとムキリを倒さねばならなくなる。

 付き合いが短いとはいえ、月は海里の中でも大切な人の一人なのだ。見捨てることはできない。


「クリス。少しの間、動きを封じてくれない?」

「何を言っても無駄そうですねぇ。分かりましたわぁ」

「ごめん」


 生成された白い糸がクリスの指先から月の身体をめがけて放たれる。

 蜘蛛の糸のようにも見えるそれは粘着性を持っており、月の身体を借りたムキリが逃れようと足掻くほどに纏わりついていく。数秒も経たないうちに動きを封じることに成功する。


「吸収の力を使えるほど身体が馴染んでいないようねぇ、安心したわぁ。もし吸収されたら成す術ないもの」

「いやはや、一体何をするつもりですかな」

「それは自分の身体で確認するといいよ」


 海里は跳ぶようにして一歩踏み出す。

 舞う藍色の髪に釣られるようにして顔を上げた星司が心配そうに見つめる。


「大丈夫」


 笑いかけ、月の身体に手を軽く当てる。隻眼が仄かに金色の光を纏っているように見える。

 神秘的な輝きにクリス以外の全員が息を呑む中、焔だけが別の理由で驚いているようだ。


「同調」

一週間ずつのペースで更新できるよう頑張ります

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