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幽霊に恋して  作者: 宙華
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第二章〔3〕 /…厳しい訓練

極限まで自分を鍛える戦闘部隊養成訓練は、機関設立当時は男性のみとされて来たが、女性でも、過酷な練習に耐えられると判断された場合、可能とされた。

訓練の内容は、様々な文化で培われた拳法を習得すること。

彩翠国は異文化に寛容で、様々な訓練を取り入れていた。

ただ、新入生が習得すべきものは、二時間手を突き続けたり、回し蹴りから飛び蹴りまで素早い足技を使いこなせてから、軽く対戦する程度の基礎訓練である。

動きの反復が主で、基礎を体に記憶させるのが目的である。

この基本訓練は、脱落者が出ないよう調整しながら続けられる。

「正確に相手の急所を突け!もう一度!始め!」

複数の教官が、シミュレーション装置を目や胸等、体の各部位に取り付けて練習をする新入生の間を歩きながら、号令をかけていく。

段々と、教科書と向かい合う時間と訓練の時間が等しくなった。

ある日、樹子は立体映像相手の訓練中に

「佐地は、運動神経が特に鍛えられているお陰で、飲み込みが速いな」

と言う言葉を聞いた。隣で練習をしている江菜をちらっと見て、特に言う必要も無いと考えた。

一方江菜は、訓練をしながら、彩橋教官が立体映像を相手に対戦する手本を見せた時の事を思い出していた。

それは江菜にとって、彩橋教官との圧倒的な実力の壁を見せつけられた瞬間だった。

「どうして、力を入れずにあんなに投げれるのよ…」

あの時、気がつくと江菜は、思わず口に出して呟いていた。

彩橋は江菜に目を向けはしたものの、表情を変えなかった。

「相手の力を利用して、バランスを崩しているだけだ。

動きが素早いから、普通は体が小さい人間向けだ」

「は、はい」

江菜は聞こえていたのか、とひやりとした。

「この技の目的は、相手を傷つける事ではない。次に…」

淡々と説明する彩橋の感情を、読み取る事は出来なかった。

「おい、珊堂」

その日の訓練終了後、佐地がさも親しげに話しかけて来た。

「なぁに?」

不快感を表面に出すまいと、心底話しかけられて嬉しそうな顔をする。

「明日の最初の相手は、彩橋教官かもしれないぞ」

「ゲッあの死刑執行人!?」

教官達は卓越した技を持つ達人ばかりで、流れるような動きで相手を倒す。

彩橋の場合、江菜はキックの連続に息つく暇が無い経験をした。

江菜に言わせると死刑を執行されている気分だったそうだ。

「まだはっきりそうだと決まったわけではないが」

動揺する江菜を見ながら、佐地は言葉を続ける。

「君に、あの彩橋教官と渡り合う力はまず無いだろうな」

かすかに見下げた感のある口調が、江菜の負けず嫌いに障った。

「やってみないとわからないじゃない」

それ以上、佐地の言葉を待たずに、彼に背を向け歩き始める。

「まぁ、頑張れ」

二人の様子を見守っていた亜矢菜が後を追って来た。

「…とは言ったもののさ」

「え?」

江菜は、彩橋の連続キックを思い出す。

「やっぱあれをやられたらどんな頑丈な人間だってひとたまりも無いわ。避ける技術もまだないし」

「ふーん、私達新人だし、それでいいんじゃないかな?」

「そっか」

江菜は少しだけ落ち着いた気分になり、一つ伸びをした。

「ねー江菜江菜」

「なに?」

「佐地くんと仲いいよね。何かにつけてよく話してるし、練習してる」

亜矢菜の言葉に、江菜の胸はドキッとした。

「彼と練習する江菜を羨ましがってる子、結構いるのよ。佐地くんの事、好き?佐地くんも江菜の事まんざらじゃないよね、実は付き合ってるとか?」

「あはは、亜矢菜面白いねー」

雰囲気を悪くしたくないから、お互い好意を持っているかの如く振る舞っているだけだが。

そこだけはあれと通じている気がする。

「あんたこそ、やけに佐地にこだわるね」

「江菜、嫌な気分になったらごめんね?」

周囲を見回して、口を江菜の耳に近付けると、亜矢菜は言った。

「…カッコイイなって。いいなって思うの」

江菜は驚いて反対した。

「あんたの為に言う。あんな奴はだめ!」

「え?」

亜矢菜は目をしばたかせた。強い反応が不思議だった。

「不幸になって欲しくない」

「不幸?どうして?」

亜矢菜は首を傾げた。

「とにかく、あいつはダメ!」

江菜は払うように首と手を振った。

「江菜、彼の事取られたく無いならそう言って?」

宥めるように肩を叩かれた。

「あ…」

過去に、佐地との間にあった軋轢。

しかし説明の面倒臭さが先に立ち、知り合いである事以外は言葉にせず抑えつけた。

「あとさっきはごめん、私まだあんたを男に取られたくなくてさ。友達になったばかりだし」

亜矢菜はそうだったの、と無邪気に、嬉しそうに笑う。

(しばらく様子を見て、何か問題が出て来たら上手くやればいっか)

「あ、佐地くん」

亜矢菜が帰りかける佐地を呼び止めた。

「暇な時、練習相手になってくれると助かるんだけどな、私じゃ足手まといになっちゃうけど」

佐地は考えるそぶりをした。

「そんな事にはなら無いよ。君は腕や目線がしっかりしているし」

佐地の言葉から、相手を思いやる気持ちを感じて江菜は少し驚く。

「練習相手が珊堂しかいなかったから、たまに違う人が相手をしてくれるといい」

「そう?よかったわっ」

意外に好意的な事を言われて、亜矢菜の声が弾む。

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