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幽霊に恋して  作者: 宙華
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第二章〔1〕 /…来たるべき日を思う

次の日から、朝早く起きて教習所と寮を往復する日々が始まった。

樹子はふと思い出し、ベッド脇のテーブルに置いておいた、重要書類と判が捺された封筒から用紙を一枚取り出し、目を落とした。

「ねぇ江菜。聞くけど、この、自分に向いてる班は考えた?」

「普通に考えると、援護・治療班が妥当かな。

あんたは当然、最前線の戦闘班でしょ?まぁ、一年半後の話しだけど」

「もちろん」

数カ月、常に試験勉強のような形で憲法や民法、武器の各種規定等の、「基礎科目」を履修した後、それに加えて身体能力向上等の新たな訓練が徐々に入って来た。

八〜十名(その内二、三人ずつ年代が違う)を一チームとして、複数のチームを担当の教官がまとめて行う実施訓練である。

樹子が振り分けられたのは、ラルイートの管轄するチームだった。

ラルイートは、樹子を含めた新入生と握手をし、続いて全員に簡単な自己紹介をさせた。

江菜が振り分けられたのは、彩橋水斗あやはし みずと(説明会の時、ラルイートと共にいた男)だった。

振り分けについて、江菜は大不満を言っていた。

「何でアレがいるのよ!悲劇よ!ったくやりにくいったら…」

「誰なの」

佐地祥多さち しょうたってろくでもないヤツ。前言った、知った顔ってアイツ…アレのこと。私の同中で…あ、転校生だったのよ。で!プライドが高いの!なんの!成績優秀、スポーツ万能、金持ち、顔もそれなりって言う、まさにエリートおぼっちゃんよ。でさでさ、何を間違えたか私をライバル視しててさぁ。いろんなごったごとがあったわけよ。あくまで…水面下で、よ」

「どうして?」

江菜は怒りで顔をかすかに紅潮させて、

「アイツ、数学だけが、唯一私に負けてたの。それと髪!私と同じ銀髪で、私の髪は純粋な銀色だけど、アイツの髪は少しくすんでる色しててさぁ。それを根に持ってたのよ」

「そんな…ねぇ…」

月が雲で隠れている夜、外は風が強い。

部屋で樹子は、江菜さんにあんな過去があったとはな、とくすくす笑う栄真と共にソファに座っていた。

『君と同じチームの人は、どんな感じだ?』

栄真の声に、樹子は頷く。

「第一印象だけなので、まだよく分かりませんが、先輩と話す機会が急に増えたので緊張はしますね…。江菜は、佐地さんの事で大変みたいです。私は会った事は無いんですけどね。江菜の救いは、今の所彼のこと以外では特に問題ないことでしょうか。彼の他には、祈川亜矢菜いのりかわ あやなって子が同期で、紹介してくれました。見ました?少し話しただけですが、明るくて、楽しそうな子でしたよ」

江菜に引っ張られるように連れて来られた、大人っぽく前髪を分けていた彼女は、ウェーブがかった長い黒髪に、蒼い目をしていた。

『新しい友人が出来そうで、よかったじゃないか。君のチームの同期は、確か香浦さん…だったか?』

「はい。香浦美由利かうら みゆりって子です」

ほっそりした体つきに、オレンジに近い茶髪のセミロングで、碧の目をした美由利は、たまに男言葉を使うのも合間って、男っぽく見える。

「大内神さん」

ドアの外から、誰かがノックをして、声をかけてきた。

若い女性の声だ。

「…おやすみなさい。また、明日」

樹子は優しい声で、応えた。

「リルさんも、おやすみなさい。お茶の件、よかったら考えておいて下さいね?」

「ハイ、ありがとうございます。では」

規則的な足音が遠ざかる。

『毎日欠かさず、見回りか』

そこで栄真は、いったん言葉を切った。

『彼女を、お茶に誘ったのかい?』

「えぇ」

と、樹子は言った。

「江菜と三人でどうですか?って。彼女、私だけじゃなくて、皆にとてもよくして下さるし…いけませんでした?」

リルメルダ・綾紀あやきは、寮の各フロアに割り当てられる、掃除や洗濯、悩み事相談含めたお世話係りの一人だった。

背は百七十センチと高めで、シャギーが入っている長い青髪に、吸い込まれそうな黒い目が印象的だった。

大人しそうな顔に似て、目立つような振る舞いや会話はしない。

『いや…』

栄真は言って、何故か面白くてたまらない、という風に笑う。

『好かれて、彼女達も大変だな』

「私、彼女の黒い目が綺麗だなって思うんです。そう言えば、見かけたお世話係りの人、男の人も、女の人も綺麗な黒い目ですよね」

『そうだったかな』

さりげなく答えたが、よくそんな所に気付くものだ、と内心は驚いていた。

「あ!それより、あの、チームについて、何かアドバイスあります?」

『君は心配無いと思うが…歳が少ししか離れていないとは言え、どの人に対しても、先輩として丁寧に接するのが無難だろうな。特に各チームの最年長の者は、知識はもちろん、実践も積んでいるから経験も豊富だ。教官に至っては言わずもがなだろう。君の教官はあのラルイートさんなのだし、上手く頼るといい』

「自分でも旦那バカって思いますけど」

樹子は低く呟いた。

「きっと、栄真さんには誰も敵わないと思うんですけど」

『樹子』

樹子は、複雑な表情を見せた。

「栄真さん、今度から、怪物について勉強や訓練が入ります」

『そうか』

栄真は言って、硬い表情になる。

『怪物どものこと…知って、無益な事は何も無い。気が済むまで、知ればいい』

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