第三章〔1〕 /…初任務
そのニュースとは、かつて空気生物を兵器にしようとしていたテロリスト集団、シャジルスオン(闇の暦)に、何者かが空気生物対策に関わる各国の要人暗殺を指示したと言うものだった。
ポアシェミ国の警察や軍は、要人救助を試みて失敗してしまい、結果として要人を含め、要人を誘い出す為に取られた人質数十人全員が死亡したと言う。
このシャジルスオンのメンバーは地下や国外に上手に身を隠し、また他の犯罪組織が保護するので、
暗殺を指示した首謀者を含めた人間の特定は容易ではなかった。
「酒呂機関長。テロリストメンバーの周りには様々な人間がいる。家族や恋人、ボディガードに使い走り……空気生物対策をしている各国と連携を取り、まずはその人物を誰でもいいから捜し出し、近付いて、最終的には壊滅させてくれ。この作戦は以後『幻の貴婦人』と言う異名をとる事にする」
滅多に顔を合わせない上の人間の使いが酒呂の元へ来て、他にも特殊任務を言い渡した。
更に、磯砂角蔵首相からも連絡が入る。
「君達への警告をまず一つ思い出した。空気生物による空気の汚染度1080空気値を上回ると人は死ぬ。汚染数値は上がる一方だ。そんな場所に私は、君達を送り込むのだ」
酒呂より磯砂首相の言葉を受けたラルイートや彩橋含めた幹部の誰もが、忙しく危険になるな……と予感した。
樹子が空気生物対策部隊に正式に配属された後しばらくして、機関長より、戦闘部隊員及び関連機関にサフォイ国から小規模援軍要請の依頼があったと発表され、樹子はラルイートを指令官とした援軍メンバーに選ばれた。
後援部隊として選ばれた彩橋や江菜と共に赴く事になったサフォイは、昼間だと言うのに、住民の姿が見えない。
現地の部隊から、空気生物が確認されているサフォイの基地に、逃げ遅れて閉じ込められた兵士含めた関係者が数十人おり、連絡が全くつかないと知った。
ラルイートは、空気生物に乗っとられた者が既に出ており、その人物の仕業だと確信し、彩橋と共に生存者救出及び空気生物殲滅の難航を覚悟した。
サフォイ軍責任者ファンストニーとラルイートから指示を受けた部下は超小型の昆虫型ロボット(センサーで感染者や非感染者の判別が可能)を操作してサフォイ基地の地下通路を進み、会話を盗聴する。
それによると奴らは頭上を警戒していた。
信じがたい事に、この作戦を立てていたのはシャジルスオンから派生した魅音瞬委員会のようだった。
栄真は、樹子達を案内した政府の人間から聞いた恨みの声がある、と、情報収集終了まで、現在立入禁止にされている基地を包囲し、待機している樹子に話しかけた。
『サフォイ上層部は国民に、国の為に戦うのが善で戦わないのが悪と言う。それしか無い。そして今回のように自国民の命すら平気で餌にしてきた。だから、余計に命を散らされる状態になるのだ、と言っていた』
(命を餌に…ですか?)
樹子は栄真に、どう言う事かしら?と心の中で問い掛け、考えを巡らせる。
その時。
『先生方が動くのが見えた!撹乱作戦は成功したようだな』
樹子を含む小隊員全員に、やや息を乱したラルイートから指令が伝わる。
「中の非感染者と現時点で判断された人々には、ロボットを使い、間もなく突入すると伝えた。人々が発する混乱は、空気生物に感染された連中が完全に支配されるまでの僅かだが時間稼ぎになる。以上だ。突入しろ」