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幽霊に恋して  作者: 宙華
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第二章〔7〕 /…試験結果

夫フィクタファや息子ファナピンの様子を伺う為に家へ戻っていて、久しぶりに栄真と再会したレームナーダは、物思いに沈む栄真を見て、すぐに樹子との間に何かあったかもしれないと感じた。

そしてその理由はすぐに分かった。樹子が試験に合格し、正式に戦闘員となるのだ。

『あなたを追ってここまで来た樹子ちゃんに、余計な事を言っちゃ駄目よ?』

『君が思う事は言っていない…』

その声には力が無かった。

『本当に?』

レームナーダは言いながら樹子を見つめる。

『あなたは優しいから』

『優しい?私が?』

『そう。栄真よかったわ、樹子ちゃんに結局何も言わなかったのね。安心したわ』

「樹子さん、試験合格おめでとう」

と、佐地が樹子の肩を軽く叩いて来た。

胡散臭そうにそれを見た江菜は、

「よかったね樹子、之波さんも喜んでくれてると思うよ」

「之波?」

佐地が首を傾げて見せると江菜は、

「樹子の、旦那の苗字。知らなかった?」

「もういないのだけどね」

と、樹子が苦笑気味で口を挟むと、

「佐地、何か忘れてない?私も合格したのよ?ま、戦闘員にはならないけど」

江菜の言葉に佐地はそうか、と頷くしかなかった。

「慎重さを忘れたら終わりね」

試験の後も訓練は続く。

爆薬を扱う訓練を受け、ひそかに仕掛けるやり方も学ぶ。

手榴弾や銃弾を避ける訓練でのこと、樹子はぼそっと呟いた。

ちなみに手榴弾を避けるには背を向けて足を閉じて俯せになる。

「樹子先輩ったら。一度でも体験しておけば、次から対処出来るわ」

「あら、聞こえた?」

樹子は目をしばたかせた。

自分の隣で同じ姿勢を取っていた女が小さい声ではい、と返事をした。

『あら。樹子ちゃんの隣、矢高大尉の娘さんだわ』

と、レームナーダ。

矢高和珠やたかわじゅはこの機関にいる技術開発の天才。

天才に等しいだろうと称される兄、阿義あぎと同様、彼女の場合は戦闘員として必要な力を兼ね備えていた。

阿義が技術開発部に配属される前は、空気生物が人間の接近に気付く頃に爆弾を落として戻って来れるのは、

経験豊富で優秀なパイロットだけだった。

当時は増殖により巨大化した空気生物に対して編隊を組んで攻撃するのが精一杯だった。

それを彼が空気生物の防衛本能に察知されにくい戦闘機を開発。

パイロットが必要なものの、コンピュータがほぼ機体を制御してくれているそうだ。

二年前、和珠は兄がいる機関の見学に来た際、戦闘面においてその天才ぶりを遺憾なく発揮した。

それに目を付けたのが、戦闘面で阿義を育てた阜山だった。

和珠はそのまま阜山のもとで様々な事を学び、どんどん才能を開花させて行った。

ラルイートは彩橋と共にオフィスに座り、戦闘員の履歴書を見つめていた。

戦闘部隊選抜試験の後、教官用の個室に戻ったラルイートは、かつての恩師である阜山とレオミック伍長に呼び出された。

要件を確認したところ、半教官の肩書を捨て、現場指揮のみに戻って欲しいと言う事だった。

これまでもたびたびあった事だが、正式な決断を迫られたのは初めてだった。

「先生、どうされますか?」

彩橋は聞いた。

「あなたがどちらの道を選んでも、私はそれを後方から援護するだけですが」

彩橋は戦闘の心得があるものの、実際は情報処理や救護など後方援護のエキスパートだった。

彩橋の言葉を聞いてラルイートは息を長めに吐いた。

「生徒達に愛着を感じるが、今となっては教官職にそれほど未練は無い」

成る程、と彩橋は頷く。

「これはこれは先生、やる気になってくれたんですね」

先程から、ラルイートがページをめくらず目にしている戦闘員の写真を見て、彩橋は苦笑した。

(あなたが何よりも大切にしたい方も、目の届く範囲に来た事ですし)

ラルイートの頭には、自らの部下だった男が常にいた。

(之波。私は君を含め、何人も訓練して来た。だが、現場に出して全く不安を感じないと言えるのは君が初めてだ)

ラルイートは別の場面を思い出す。

今はいない宇竹光姿うだけこうし上官からの言葉だ。

(之波に対する君の訓練評価を信用してよかった。彼は素晴らしい働きをする)

訓練が終わり、暗くなって間もなく、栄真は不機嫌そうな顔で樹子と宿舎の広々とした中庭を歩いていた。

その時、遠くのベンチに誰かが座っているのが見えた。

『機関長だ』

樹子は、どっしりとした機関長の後ろ姿に向かい敬礼をしてから、建物の中に入った。

「酒呂機関長って、掴めない人だわ」

『あの人は空気生物とはまた関係ない戦争で、次々に仲間を失った経験から、人命を優先するようになったそうだ。あの地位に上り詰める前まで、任務は確実にこなしていたが、状況によっては命令が解かれるのを待つ時もあったと聞いた』

「待つ?……すごいわ」

命令を速やかに遂行する事を求められる中、待つ事がどれだけ危険を伴うか。

『あの人はかつて捕虜にされ、洗脳された末に洗脳した相手全てを殺す事が出来たそうだ。だがその時に遺伝子を操作されているから、殺人技術が父から子へ受け継がれる。それを恐れて奥さんとの間に子供を持たないそうだ。だが、生き生きと人を操る技術は機関長に誰も敵わない。人の長所短所を利用する天才だって話しだ』

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