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幽霊に恋して  作者: 宙華
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第二章〔5〕 /…筒抜けだった内緒話

酒呂は機関区全体を示すコンピューターとスクリーンを眺めていた。

「お二人を連れて来ました」

部屋に入って来た岳塚に目をやった酒呂は、監視システムをリルメルダ・綾紀に切り替えた。

ラルイートと彩橋もスクリーンの所へやって来た。

「リルメルダ・綾紀が大内神樹子と珊堂江菜の会話判断をした」

彼はいたって普通に言った。

「私は既に聞いた。他愛ない会話だが、彼女が微弱な危険因子と判断をした。だから、一応上官である二人の耳に入れておいた方がいいと思ってな」

ラルイートと彩橋の二人は目配せをして、再生される会話を聞いた。

『志望動機を聞かれた時には人の為に…とか、もっともらしい事を言ったけど、やっぱり栄真さんの事しか考えて無いわ』

『志望動機はあんたと似たような事を言ったなぁ。私なんて結局何となく、だし。給料とか待遇がいいからってのはあるけど』

だるそうに言ったのは江菜だった。

『毎日窮屈、針のムシロなのよねー…。あんたは?』

『私は、栄真さんの仇をとれればそれでいいわ。他はどうでも』

あまりにも早過ぎた愛する夫の訃報。

これから一緒に、少しずつ歳を重ねて。

深まる悲しみ、栄真の霊の気配を感じていないと、逆に自分が生きていると感じるのが難しい。

『相変わらず、栄真さんの事となると自暴自棄だね。まぁ大丈夫、私達の動機はどうでも、国や人を守る結果には多少繋がりそう』

『江菜に言われたくないわ、今の言葉とは関係無いけど、あなたの今の気持ち、私分かって来たから』

『実は私もあんたの今の気持ち、当てられそう』

二人の他愛ない会話はしばらく続いた。

『そろそろ寝なくちゃね、おやすみ江菜』

会話はここで終わった。

「リルメルダ?おい、リルメルダ・綾紀?」

寮内を巡回していたリルメルダは少し首を振る。

彩橋の声がスピーカーから耳に伝わる。

「…ハイ?」

「お前が会話判断をした理由は、志望動機の不純から来る様々な弊害の可能性を考慮して、か。だが、もっと他に何か無かったのか?」

「ハイ、彼女達が他にも話さなかった事があると見まシタ。二人の『今の気持ち』と言う、言葉の裏にある言葉デス。それを分析する為に、別人同士のこれに似た会話を分析しました。そこで、言葉の裏に言葉などなく、本心からだと判断出来まシタ。……」

「そこで、どうして黙る?」

「さては我々と会話したいだけだったかな?」

と、ラルイート。

「……」

「図星か?」

と、彩橋が更に突っ込んで話しを聞くと、やはり的外れな答えが帰って来る。

「彼女のタイプは、言葉の背後に流れる感情までを把握出来るわけじゃ無いから、応用がきかないんだ。勘弁してやりたまえ」

「えぇ」

彩橋がちらりと笑みを見せる。

「承知しております」

ラルイートも目を細めて頷く。

「用件は以上だ。では、二人共下がってよろしい」

二人が部屋から出ようとした時、不意に、酒呂の目の前のスクリーンにノイズが走った。

『酒呂機関長。そちらに、生物兵器開発機関から来たと言う人物はいなかった、と言う事でいいのか?』

人影のみが見え、しわがれた男の声がした。

「しかし送られて来た資料と照らし合わせても、それらしい人物は見当たりませんでした」

酒呂がやれやれとうんざりしそうな顔をしながら答えた。

「ただ、あなた方がご存じなように、一部合致する人物は我が機関におります。しかしまさか、あのような事をしようとする人物と関連があるとはとても…」

空気生物を生物兵器にしようと実験していた所を発見され、データを持ち出して今もなお逃走している十人について、酒呂は十人の捜索依頼が来てすぐ、岳塚と共に、国立人物図書館(限られた人間のみがアクセス出来るデータベース)で調べた。

九人に影響を与えたリーダー、憧呼和佑どうこわゆうと言う人物をよく知らなかったからだ。

『そうか…。もし君が、生物兵器開発機関の人間に話しを聞くつもりなら、聞く際には細心の気遣いが必要だ』

酒呂は苦笑した。

「そう言う事は早めに教えて頂きたいですな。十人について聞きたいのですが、と口にした瞬間緊張が走って、頑なに口を閉ざされてしまいましたよ」

岳塚はふと、自分と酒呂以外いないはずなのに、部屋に誰かがいて、消えたような気がした。


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