第一話
朝から騒がしいことこの上ない。
それもそのはず。ここは新選組の屯所の中なのだから。
今は新選組の隊士達と一緒に食べるのが日課になった朝食の時間。
もちろん、作るのも私、竜堂聖華。
「聖華さん、いつも美味しいご飯、ありがとうございます!」
隊士達の中では一番仲がいい須藤蒼葉がそう言った。歳が近いこともあり、彼にはよくしてもらっている。
「ありがとう、蒼葉」
私は呼び捨てなのに、蒼葉はさん付けで呼ぶのをやめようとしない。
それもそうだろう。私はこの新選組唯一の陰陽師であり、私を守るために、毎日三幹部の近藤勇、土方歳三、沖田総司の誰かが、私の護衛につくのだから。
やめてほしいとは言っているものの、決定権は組長の勇さんにあるため、逆らうことができない。
「聖華」
「はい、なんでしょうか」
私を呼んだのは、歳三さん。
「今日は俺が護衛だ」
「解りました。なら、術の相手をしてくれませんか?」
「またか」
呆れ声でそう言うのも無理はないと思う。けれどまた、いつ長州藩の妖部隊が襲ってくるか解らない。訓練をすることにこしたことはない。
「いけませんか?」
「いや、構わない。お前のことだ、どうせ言ってくるだろうなと思ってたからな」
苦笑しながら言われては、何も言えなくなる。
「土方さん、俺の相手もしてくださいよ」
会話に割って入ってきたのは総司さんだ。
「聖華ばっかり贔屓じゃないですか」
「お前はいいだろ。隊の中じゃ歳に継ぐ剣の腕前じゃねぇか」
味噌汁をすすりながら、勇さんも話に割って入ってきた。
「そうは言っても、剣の腕がなまります」
不貞腐れながらそう言う総司さん。
どこか幼げな印象がある。
「総司、お前ならいつでも稽古つけてやるよ」
「歳三さん、約束ですよ?」
総司さんの言葉に苦笑を漏らしつつも、ああ、と頷く歳三さん。
本当に、総司さんは歳三さんをしたっている。
「ふふっ」
私は、そんな二人のやりとりについつい頬が上がってしまう。
「どうかしたのか?」
歳三さんが、突然笑った私にキョトンとして聞いてくる。
「いえ、なんでもありません」
立ち上がり、隊士達のお膳を下げて行く。
毎食私が作っているが、残すことは一切しない。それが、とても嬉しかった。
「俺達も手伝います!」
台所に十個目のお膳を下げて、広間へと戻ろうとすると、一つしかない出入り口が、隊士達で埋まっていた。
「あ、ありがとう」
微笑みながらお礼を言うと、なぜか隊士達の頬が朱に染まった。