Title-08 操縦者は溜息とともにガムを吐き捨てる
高層ビルの屋上から、『創造主』はまさに高みの見物をしていた。事件の推移がどうなるのかを掌握するために、カートリアで一番高いビルから見下ろしていた。どうやらネタも割れてしまったようなので、情報端末機器をポケットに仕舞い込むと、薄暗い階段を降りる。
そこには待ち伏せしていた『流星』が背中を壁に預けていた。
一部始終を観察していた『流星』は、戦いの余韻に浸り高揚していた。
「良かったんですか? こんなことして」
「……別に誰かに許可をもらずとも、私はやりたい時にやる」
「それなんですけど、すごく違和感ありますよ。『創造主』の姐さんが『社長』の命令もなく戦うなんて、もしかして『冥府の猟犬』に私怨でもあるんですか?」
「……いいや。あるとしても餓鬼の方だな……」
「餓鬼? ああ、クリスティーナ・トランティス。あの『魔女』のことですか。確かに、あれは人類に恨まれるべき仇ですからね」
『創造主』は、ガムをクチャクチャと噛む。
ガムを喉に貼り付けることによって、声帯模写も可能となる。
あとは、化けるべき対象の性格などを調査すればいいだけの話なのだが、《アースガルズ》の長官のことはよく知っている。何故なら、《ハデス》と《アースガルズ》は水と油の敵対関係にあるからだ。
とはいったものの、《アースガルズ》が領域を荒らされるのを拒んでいて、あちらが一方的に睨みを聞かしている緊張状態にあるだけなのだが。
だから刺激しないように、普段は手を出さないようにとの『社長』の厳命もあるのだが、今回は血の気の多さを利用させてもらった。
『流星』はクリスが『魔女』だから、利用することに踏み切ったのだと勘違いしているようだがそうではない。理由はほかにちゃんとある。成果がでるのか不確かではあるが、やっておいて損はない。どう転ぶかはあいつ次第だ。
「それじゃあ、俺も好き放題やらせてもらいますよ」
『流星』が不穏なことを言い残し立ち去っていくと、『創造主』独りになる。
クリスのことを思い出す。
何も知らないで、あいつと一緒に楽しげに歩き回っていた。
胸がムカムカする。
噛み続けていたガムをペッ、と吐き捨てると、静かにその場をあとにした。