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派遣の猟犬  作者: 魔桜
ウォンside
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Title-06 活路を見出す為に脱衣を強要する

 路面を猛スピードで走行するアイスクリーム屋のワゴン。

 そして、それを追走する数台のパトカーによるカーチェイス。

 頭痛の種になりそうなサイレンにより、いち早く異様な空気を察知した先駆する運転手たちは、関わり合いたくないことを全面に押し出すようにハンドルを横に切る。ブレーキングして、路肩に停車する車も続出している。

 こちらを回避するのに間に合わない車を、最低限のスピード減速で縫うような運転技術を見せるウォン。車を運転するのは久しぶりだったが、身体が覚えていたらしい。法定速度を軽く無視しながら、蛇行運転をし続ける。

「ウォンさん! やっぱり一度止まってから話し合った方がいいんじゃないんですか!?」

「んー、多分無理だよ。警察の方から突然襲ってきたわけだし、それに――もう手遅れだ」

 は――とクリスが口の形を作るが、後ろからの銃撃による奇襲によって遮らえる。ガンガン、と鉄の扉に着弾する音が数度聞こえる。銃声に慣れていないクリスは、恐怖に駆られた悲鳴を上げる。

「きゃああ!」

 重量のある機材という足枷のあるワゴン車と、追走するのに特化したパトカー相手ではあまりに分が悪い。このままでは逃げきれる保証もない。あまり気乗りはしなかったが、あっちにはそれ相応の深手を負ってもらう他ないようだ。

 交差点に差し掛かる。ちょうど赤信号に変わるタイミングで、本来ならば急ブレーキをかけなければ、大惨事の事故に繋がる。だが、敢えてそのまま車を突っ込ませる。当たり前のように、こちらの車が停止すると思っていた一般の人間が乗っている車が、左右から衝突してくる。

 それを紙一重で避けきる。

 手足を忙しなく動かし、目が回りそうだ。サイドミラーがぶつかって大破するが、まだ被害が少ない方。後ろから追走してきたパトカー達は対処できずに一般車との激突する。ボンネットが開いたり、ガラスが飛び散ったりと大変だ。

 歩行者の甲高い悲鳴が聞こえる。

 壊れていないもう片方のサイドミラーに写っていたのは、歩道を突っ切る複数のパトカー。塊となって押し寄せてくるのはゾッとする。ただの警察ならば、ここまでなりふり構わずに向かってくるのはありえない。

『前の車、今すぐ止まって降伏しろー。私は公安アースガルズの操木乃枝である。命令に従わない場合、相応の後悔をいっちょ味わってもらいますけどー、よろしいですかー?』

「《アースガルズ》……!」

 思っていたよりも、大物だ。

 警察内でも手を焼く問題児を一挙に集めた武装組織だ。ほとんどテロリストに近い粗野な連中しか、《アースガルズ》内にいないと言われているイカレ集団だ。武器の使用を躊躇わず、敵を根絶やしにするまで銃撃が鳴り終わらないとか、平気で民間人を巻き込むとか、黒い噂が付き纏う。

『よろしいですねー? 私、ちゃんと忠告しましたからねー。3秒前! さん、はい! どーん!』

 ――3秒前はそういう掛け声の仕方じゃないだろ。

 と、冷静にツッコミを入れられたのも束の間、着弾による爆発によって、ごっそりと傍のアスファルトが削られる。

 ――グ、グレネードランチャー? 往来で何考えてんだ!?

 連射できるタイプらしく、破壊の暴風雨が吹き荒れる。

 それでもワゴン車が大破しないのは、ウォンが直線をひた走るのではなく、ぐねぐねと細道を曲がっているからだ。

「ウォンさん!」

 悲痛な叫びを上げるクリスは、一方的な銃撃戦に怯えている。

「耳を塞いで、できるだけ体勢を低くしておいて!」

 そうは言ったものの、クリスのやせ我慢もそろそろ限界だろう。カチカチと歯の根が噛み合わっておらず、膝を抱えている。どこか安全な場所に隠した方がいい。

 運転しながら、狙撃のために振り向く余裕はない。

 ガッ、と勢いよくドアを開けると、警察官から借りている発砲する。だが、キンキンと無情な音を立てて、銃弾はパトカーの装甲によって弾かれる。これじゃあ、せっかく当たっても意味がない。

「クリスちゃん、お願いが――! お願いがある!」

 ギュッと耳に押し付けていた腕を取り払って、ウォンは叫ぶ。

「ここに足を思いっきり乗せておいて、あとハンドルはそのまま真っ直ぐに持ってて。それだけでいいから、ちょっとの間だけ」

「で、できません! そんなの!」

「お願い! 今はクリスちゃんだけが頼りなんだ!」

「……わ、わかりました!」

 声をかすらせながら、クリスは下へ潜り込むようにして身を屈める。それに乗じて、ウォンは穴だらけになった扉の前へ踊り立つ。アイスクリームを売るために改造しているため、後部座席というものがない。アイスクリームに使用される鍋を、転がすようにして丁度いいところに配置する。そして、銃撃の間隙を狙って、思い切り眼前の光を塞ぐ壁に蹴りを入れる。

 ガッ、と開けた景色には、驚愕の表情を浮かべている公安の警官達が視える。

 そっと、小さく固めた拳を、ウォンは鍋にただ触れるだけ。

 その刹那――鍋が一気に中空に飛び出す。

 ガゴン、と物凄い衝撃を受けた鍋は、中にあるチョコレートをアスファルトに、パトカーの前ガラスにぶちまける。視界を塞がれて、操作できなくなったパトカーが玉突き事故のように激突し合う。これで、また追いかけてくるパトカーを潰せた。

 だが――

『ひっどいなー。今の反撃のせいで、私の部隊は損傷を受けましたー。だから……倍以上の苦痛を持っておっちね! 薄汚い豚ども!!』

 苛烈さを増した銃撃のあられが、ウォンの服をかする。クリスの慣れていない運転技術のせいで、ワゴンが揺れて、ある意味あちらは照準を定めきることができないらしい。黒い鉛の脅威から逃れるため、前転するようにして運転席に舞い戻る。

「ありがとう、クリスちゃん――わ!」

 電柱にぶつかりそうだったので、急速にハンドルを回して回避する。その際に、転がるようにしてクリスは横っ飛びする。

「は、はい!」

 背丈が低すぎて、前方を確認することができずハンドルを握っていた。

 ――よく、事故を起こさないで済んだな。

 追走者は、未だに諦めずに罵詈雑言を喚き散らしている。銃撃をかいくぐりながら、なんとか今まで車は運転できているが、それもそろそろ限界値に達している。タイヤに銃弾が擦れたのか、常に左右どちらか小刻みに、ハンドルを動かしておかないと直進しない。内部の損傷自体もひどく、塗装のほとんどは剥げている。

 ここが、ターニングポイントかもしれない。

「クリスちゃん、また頼まないといけないことがある……」

「……なんですか?」

「さっきよりもずっときついことだけど、これは君にしかできないことなんだ。だから、やってもらうしかないけど、嫌っていうなら……」

 懇願するのを躊躇いながらも、ここで首肯してもらえなければ絶体絶命だ。どうしても超えてもらわなければならないハードルがある。

 だが、クリスは真っ直ぐな瞳で、

「大丈夫ですよ。何があっても、ウォンさんの言う通りにします」

「ありがとう。クリスちゃんの覚悟ちゃんと受け取った。だから――」

 ウォンもクリスの同等の覚悟を持って、言葉をぶつける。

「今すぐ服を脱いでくれ」

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