Title-29 瞬く星は燃えながら堕ちゆく
男はずっと鬱屈としたものを抱えながら生きてきた。
その原因が分からないからより一層苛立ちは増大し、周囲に八つ当たりしていた。
流れ星が肉体を燃焼させながら生きるように、男も心身を削っていた。
ほんの少しの間だけでいい。
夜空を裂く光になれることができるのならば、それでもいいと思い続けてきた。
そうしてただ憎悪に狂ったまま、敵を排除する作業をしていた。
不毛であることは自覚していたが、それでも繰り返したのは、余剰な思考をしないためだ。脳内を空っぽにすれば、辛い思いをしないで済むのだから。
育ての親に捨てられた時、男は慟哭した。
自分の価値に見合うだけの端金を使って爆発させた最初の標的は、眼前にいた人間だった。
あの時から何かが壊れてしまった。
自ら罰を与えるみたいに、壊れた心と削れる肉体のまま戦いに勝ち続けた。勝って、勝って、白星を拾い続けたある時――とうとう『流星』は堕とされた。
圧倒的な力を誇るその女は、気だるそうな顔をしながらなんの苦もなく男を死の淵にまで追い込んだ。ガムを噛んだまま余裕綽々といった様子の女に、いとも簡単に潰された。舐めてかかったとか言い訳を募らせるだけの僅差ではなく、手も足も出なかった。
自分のことしか勘定になかった男の視界がクリアになった。
それは、まるでいつまでも眼前を覆っていた濃霧が晴れたようだった。
神々しいまでの強さに、憧憬の念を抱いた。
「俺に……大切なものがない……だと?」
意識がなくなりそうだった男は、唇を噛み締めた。
鉄の味が唇に広がる。
内臓を抉られるような肘の、悶絶必至な地獄の責め苦を味わった。このまま意識を失ったフリをして、嵐が去るのを待つことだってできた。
『冥府の猟犬』は、本当に強い。
現時点での純粋な戦闘能力ならば、格上だ。
戦えたのはきっと、ブランクがあったから。
男も既に大量の攻撃を総身に受けていて、両腕の感覚がない。麻痺したみたいに動くのを拒絶しているのを、無理やり動かす。
そして、立ち上がった。
立ち上がることにより逆風をより感じる。
痙攣していう事を聞かない足に喝を入れるように、ダンッと前へと踏み込む。
ただ……力強く前へ。
「俺にだってあるんだ……」
崇拝している女が視界に入ると、頭蓋にいつも反芻していた言葉がここに来て反響する。
――強いな……お前……。
戦いにすらならなかった男の戦いを、女は微笑を風に乗せて褒めた。
それが――嬉しかったんだ……。
ずっと誰かに自分という存在を認めて欲しかった。戦うしか能がない自分が敗北した時、もう価値がないと思っていたそんな自分に、そんな言葉をかけてくれた。
だから、もっと強くなりたかった。
もっと強くなって、またあの女の笑顔がみたいと思った。
例え、女の目線の先に自分がいないと分かっていても。
――それでも、遥か遠くにいるあなたに、追いつくために――
「今度こそ決着をつけようか」
男は――『流星』は、その名の通り命を削り、燃えるような闘気を纏いながら気合いの呼気を吐く。
「お互い……譲れない意思がある限り」




