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派遣の猟犬  作者: 魔桜
ウォンside
23/32

Title-23 猟犬は奈落へと誘われる

 耳を聾する爆発音。

 想定外の破壊力に、エル・ドラドの厨房は壊滅状態だ。食器や設備は破壊の限りを尽くされ、破片が飛びっている。

 ひしゃげてしまったシステムキッチン。

 盾代わりに使ったが、立ち上がるために手を置くと熱を帯びている。

 条件反射的に手を引っ込めながら様子を伺おうとすると、頭上に降り注がれたコンクリート片などが、パラパラと落ちる。

 手で払ってみると、白いものがこれでもかと落ちる。

 それだけ威力が強かったということだ。

 ガスの元栓を締めようと思ったが、根元から金属が折れ曲がっている。自業自得とはいえ、あまりの惨状。これはクリスに正体を知られなくて済んだとしても、エル・ドラドをクビになるのは免れなかっただろう。

 ――クリス。

 汚れてしまったスーツの上着を、乱暴に投げ捨てる。

 ――こんどこそ、逃げ切れたんだろうな。

 バカ正直に事件の推移の全容を保護された警察にペラペラ喋ってなければいいが。

 《アースガルズ》との戦闘のほとぼりも冷めていない。警察自体も、今は警戒態勢を構えているだろう。少女一人受け入れる準備ぐらいはしているはずだ。

 今からでも安否を確認したいところだが、それは無茶な願いだ。

 これからはもう、クリスには一切近づけない。

 クリスには、今回の一件で危険人物だと思われた。

 ――俺とクリスは、最初からそういう関係でいるしかなかったんだ。

 それを一方的に分かっていながらも、過干渉に接してきたのはウォンの責任だ。いずれは別れが来ると分かっていながら――

 

「この程度で終わりなんて思ってないだろうなあ」


 ガラッ、と不穏な物音。

 振り返ろうとすると、身体に数枚のメダルがめり込む。捻るようにして衝撃を受け流すと、微妙に赤く染まっている唾を吐きながら倒れこむ。更なる追撃から逃れるために膝を床についたのだが、予想外の損傷に痛手を喰らったからでもある。

 ウォンに当たらなかったメダルの一つは、フライパンを真っ二つに貫通するとそのまま床を削る。今までの爆発する黄金色のメダルではなく――銀。

 どうやら色で特性が違うらしい。

 銀色のメダルは貫通力のあるメダル。

 そして――

「『流星』が堕ちるのは、身も心も燃え尽きた時だ」

 恐らく、銅色のメダルは防御力を高めるメダル。

 どうやらあれで爆発を防いだようだ。

 『流星』の全身を包み込む結界のように、銅色のメダルがドーム状。

 こんもりと盛られた山の中に、穴が空いていてそこから、銀色のメダルを投げたと思われる手を突き出している。ダムが決壊するかのように、ビキビキッと銅色のメダルが悲鳴を上げると、音を立てて一気にバラバラに瓦解する。

「ぅおら!」

 銀に鈍く光のある複数のメダルを投擲してくる。

 金箍棒を伸ばして、これを迎撃しようとしたのだが、ガガガガと横に弾かれることをメダルは抵抗する。やがて、衝撃が相殺されると、メダルと金箍棒は弾かれる。これじゃあ、爆弾のメダルのような手段は使えない。

 そうしている内にも、銀色のメダルを猛威を振るう。一回の攻撃でメダルによる攻撃を防ぐことはできるが、どうしても技後硬直が発生する。

 これだったら、多少は被弾する覚悟で避けたほうが安全だ。

 なけなしの銃弾を連射しながら、縦横無尽に動き回す。あちらに的を絞らせないためだが、やがて銃弾は尽きる。

 こうなったら一か八かで特攻するか。

 遮蔽物に一端避難するが、どんどん削り取られていく。物を投げてから相手の隙を作ろうにも、ほとんどのものは先ほどの爆弾で使い物にならない。

 金箍棒で相手を突くにも、銀色のメダルに阻まれる。

 やっぱり、こちらが高速移動した上で相手を翻弄するのが一番だが、この広い空間では十二分に生かせない。廊下に出たいのは山々だが、あちらもそれぐらいのことは熟知していて、退路を塞ぐように攻撃を繰り返している。

「一種類のメダルを攻略しただけで勝ったつもりでいたか?」

 『流星』の声で今いる場所はわかった。

 あとはタイミングを掴んで、一気に飛び出すだけ。黄金色のメダルを投げてきたとしても、横に受け流せばいいだけの話だ。銀色のメダルが出た時は、一端上下に避難してから、また攻勢に移ればいい。

「あんたの棒っきれも、銀色のメダルには手も足もでないみたいだな。そろそろ無駄な戦いはやめにしないか? あの『魔女』を速いところ追いかけて始末しないといけないしな」

「させるわけないだろ」

 ガッ、と金箍棒を使って、遮蔽物よりも遥か高く跳躍する。

「あいつは殺させない。他の誰にも! だから――」

 痺れを切らしてこちらが向かってくるのを読んでいたように、『流星』は銀色のメダルを一直線に放り投げる。銀色の曲線を描くメダルに対して、ウォンは金箍棒で天井を押し出すようにして、また横に逃げる。

 あれを一撃でも喰らえば、動きが止まってしまうのは実証済みだ。

 床に着地してから、一端相手の出方を見る。

 そして一気に、距離を詰めれば――

「さっきはよくはめてくれたな」

 遮蔽物によって、周辺がどうなっているかどうか視認できなかった。

 黄金色のメダルは、もう使ってこないと、どこか頭の中で決め込んでいてしまったのも盲点だった。言葉による思考の誘導。それが結果としては、自滅に繋がる。 


「避けたその先は――地雷原だ」


 黄金色のメダルが、床一面に敷き詰められている。

 伏線に次ぐ、伏線。

 最終的に上をいったのは、『流星』だった。

「俺は――」

 何を言おうとしたのだろう。

 言葉を出し尽くすことができないまま、破壊の光は、ウォンの網膜を灼ききる。白くなった景色のまま、床が爆発で吹き飛び、下の階へと引きずり落とされる。

 真っ白な空間。

 そこで視認できたのは、クリスの姿。

 夢幻のような光景が瞳に写ったのを最後に、ウォンの意識は途切れた。

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