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派遣の猟犬  作者: 魔桜
『流星』side
19/32

Title-19 派遣社員同士の対決

 ウォンが右拳を繰り出してくるのを、『流星』は左拳で迎撃する。

 両方の衝撃度合いは互角で、互いの体は弾かれる。このまま受けていてもいいが、永続すると拳がイカレてしまう。まだまだ小手調べの段階で、そんな博打は不本意だ。

 ――どうせだったら、楽しく殺りあわないとな。

 本来ならば、派遣会社の人間同士の戦いは御法度。『社長』からの厳罰を与えられるのは必至だが、今回に限っては独断専行しているウォンを止めるという大義名分がある。静止するこの衝突において不慮の事故が起ころうとも、いくらでも言い訳ができる。

 だが、立ち上がりがあまりにも静か過ぎる。

 何かを狙っているのか。

「んん? ……なんだ、その程度か」

「お前ごときに本気出したら、とんだ笑いものだからな」

「はあ? いつまでその口聞けるかな」

 向かってくるウォンに、拳の連撃でこちらは対応する。

 ウォンもこちらと同じ考えを持ったのか拳ではなく、掌で応戦する。受けきるのではなく、捌くといったニュアンスに近い攻防。正面から手をかざすだけではなく、インパクトの瞬間斜め下に拳を流して威力を軽減させている。

 ――ようやく、本気か?

 跳ねるようにして、手刀が下から忍び寄ってくる。

 鯉が跳ねるような軌道を持ちながの目潰し。たまらずアウェーで逃れるが、瞼をかする。グッと自然現象である少量の涙を振り切り、膝蹴りを入れる。顎に入れるつもりだったが、後ろに下がらずに突進してきたので、腹部へと命中する。最大の破壊力を発揮できる地点よりずらされてしまったので、そこまで効いていないのか、そのまま体全体で押してきたので、片足立ちの状態の『流星』は蹈鞴を踏む。

「くそッ……」

 バク宙の要領で態勢を整える。その際には踏み出した直後のウォンの膝を踏み台にして、向かってくる力を自重で一瞬せき止めに成功する。追いついてくる前に態勢を整えると、体重の乗った蹴りを入れる。あちらも同時に飛び蹴りを繰り出し、互いの肉体に叩き込まれる。二本の脚が擦れたおかげで火力は薄まったが、それでも吹き飛ぶ。

 薄い壁に激突すると、貫通して廊下にでる。

 ――これだ。この感覚を味わうためなら、もっともっとヒートしようぜ。

「で、それでどーすんだ。俺を倒してあの『魔女』のことを追いかけるつもりなんじゃないのか? 早く俺を倒せないと、どこかの誰かに殺され――」

 ゴウッ! とおよそ飛ぶ機会なんてないと思われたパチスロ台が覆いかぶさってくる。とてつもない速度で飛んできたそれに、倒れていた『流星』は対応できない。

「がっ……!」

 胸部から胴体にかけての骨が激烈に軋む。圧殺されそうになりながら、這い出るようにして重くのしかかる台をのけると、またもや次のパチスロ台が投擲される。悪態を付きながら、転がるようにしてなんとか紙一重で避けきる。

 が――

「よお」

 小馬鹿にするような表情をしたウォンが、肉薄していた。自らも飛翔したかのような速度で、拳を頬にねじ込んでくる。横に回転するように『流星』は廊下の隅にまで吹き飛ばされる。

 明滅する視界に飛び込んできたのは、ウォンが中空で高速移動する姿。

 ほとんど抵抗せずに先刻は、自分からも後ろに飛んで威力を半減させたが、今度という今度は渾身の一撃をプレゼントされそうだ。傷ついた体では即座に避けきれそうもない。


「あーあ。やってらんねー」


 ピン、と『流星』は気だるげにメダルを指で弾く。

 鈍い音を立たせながら黄金色のメダルは、迫ってきたウォンに追突しようとしていた。そのまま受けても何の障害もない。だが、危機察知能力の高いウォンは、『流星』の不敵な笑みを視認すると、横っ飛びに避ける。その際、衝撃の波動を受けたように、ウォンの隣にあった壁にビキッとヒビが入る。

 光が四散する。

 残光が収縮したメダルは爆発を拡散して、砕け散った。

 いつもだったらメダル残量を計算するところだが、ここはカジノ。いくらでも爆弾を確保できる。つまり、『流星』が負ける要素が一つ潰されたということだ。

「手を抜いて悪かったな……。あんたがあまりにも弱いから、本調子がでるまで待ってたんだが、フルボッコにされちまったよ。でもまあ、謝らなくていいぜ」

 突然、ポケットの中の情報端末機器が受信の報告を上げる。

 ――『社長』か。間が悪い。

 定期連絡を怠るとあちらから情報開示を強要してくるが、ようやく熱くなってきたところだ。冷や水を浴びせられるぐらいだったら、聞く耳なんて持つつもりはない。

 情報端末機器を捨てると、足の裏で踏み潰す。

 ――さて、これで邪魔者の声は聞かなくて済む。

 こちらも被爆する可能性があったから、近距離ではメダルを使用するのは憚られる。だったら、安全距離で必要以上にいたぶってやる。

「今度は――こっちの番だからな」

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