おわりのはじまり。
「なぁ」
海智先輩が耳元で言う。
後ろからわたしの肩に腕をまわす先輩。その先で、きゅっと繋いでいる、手。
さっきまで、わたしを隅々まで優しく触っていた手。
細谷先生とは違って、ゴツゴツした、不恰好な、手。
「なんですか?」
くだらない番組が流れているテレビをふたりで見ていた。
「なんですか?」
今思えば、いつもと違う声のトーンをしていたのかもしれなかったし、いつもよりふたりの距離が遠かったのかもしれなかったし、あるいはいつもより強く抱きしめられていたのかもしれない。好きな人相手じゃなければ、そんなことに気づいたりなんてしないんだなって、思った。
「別れよ」
「え?」
思いもしなかったセリフに、それ以上言葉が出てこなかった。
わたしの肩に頭を乗せて、先輩は続ける。
「俺、鹿乃のきもち、わかんない」
それは、
「こういうことしててもさ、俺ばっかり気持ちよくなってるんじゃないか、鹿乃は嬉しくもなんともないんじゃないか、って、そればっかり考えちゃって」
それは、
「そう考えれば考えるほど、優しくできなくなるし、でも逃したくないって思うからそれを止められなくて」
先輩が、そんな風に思うのは、
「それとさ、ほんとうはずっと気づいてたんだけど、鹿乃さ」
それは、
「他に、好きなやつ、いるだろ?」
先輩、それはね、
「先輩」
それは____________
口にしようとしたら、わたしの口は先輩の手で塞がれていて、しゃべることができなかった。
そのままわたしはさっきまでしてたみたいにその場に押し倒されて、さっきまでしてたみたいに一通り済ませて、それで、
それで、わたしと海智先輩は、別れた。




