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先生と、私。  作者: 南央
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ふつうの恋人って、ふつうの恋って。


「かーのっ!」


帰りの礼をした瞬間、クラスのドアが開いて顔を見せたのは海智先輩だった。


「か、海智先輩」


まだ私たちの関係を知らない人がたくさんいるクラスメイトの中、わたしはどきまぎしたながら先輩の名前を呼ぶ。


「今日部活オフなんだ! 一緒に帰ろ」


「え、待って待って、佳乃、海智先輩と付き合ってるの! どういうことー!」


「海智先輩〜〜どういうことっすか!」


海智先輩の一言に、私が会話を交わしたことがないような子たちが反応する。

どの声も、わたしに対して話しかけられているような言葉だって、全部全部海智先輩に向けて発せられてる言葉だって、わかる。この子たちは、海智先輩に構って欲しくて、思いついたことをなんだっていいから口にしてる。


「ひーみーつ。佳乃、ほら、行こ!」


えーーー、海智先輩ーーー。そんな声を背に受けながら、私は先輩に手を引かれるがままに走り出す。


「せんぱっ、はや、ですっ」


息を切らしながら精一杯に声を出す。

廊下を全そ迫力で走り、階段を駆け下りて、下駄箱につくとやっと、先輩は手を離して満足そうに私を見た。


「どこ行きたい? 甘いもの食べ行く? それともラウンドワンとかにスポーツしに行く? 映画?」


「ど、どこでも…」


「ほんとに? 佳乃行きたいとこない?」


海智先輩が私の顔を覗き込む。私は恥ずかしくて、顔を背けてしまう。


「じゃ、じゃあ、甘いもの…」


自分でもびっくりするくらいに小さい声が出た。


海智先輩はわたしの言葉にニカッと笑って、


「よっしゃ、じゃあ駅前のケーキさん行くか!」


と言った。


靴を履き替えると、海智先輩は再びわたしの手をとって歩き出す。


「先輩、周りの視線が…」


「んー?」


なんのこと? とでもいうような反応。


「手繋ぐの、いや?」


「いえ、全然、そんなんじゃ!」


「そ? よかった。佳乃がいやなことしないから、言ってね?」


頷く。


先輩には、今まで何人彼女がいたんだろうな。先輩のナチュラルな行動に、心を傷めるわけでもなく、考える。


ペースに乗せられっぱなしだ。


そう思ったけど、でも、それでいっか、むしろ、それがいいかな、なんて思う。


先生のことを忘れるためには、海智先輩くらい力強く引っ張ってくれた方がいいかもしれない。



先生。細谷先生。



ずっと思い出さないように努めていた言葉が、ふと心に浮かんできて、ぎゅっと胸が掴まれる。


私はそんな思いをかき消すように、先輩への罪悪感とともに、海智先輩の手をぎゅっと握った。


先輩は何も言わずに、私の手をぎゅっと握り返した。

佳乃、このあと海智に翻弄されまくります。

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