道を外れて。
「は? 海智先輩と付き合うことになった?」
若菜が驚きと怒りの混じった声で言う。
「え、だって」
細谷先生は? そう、聞きたいんだろうな。察しがつく。でも若菜は優しいからそれを口に出さないことをわたしは知っている。わかっていながらしかし、わたしはそれに答えるつもりはなかった。
「目ぇ付けられちゃうかなぁ」
「まぁ、多少はね」
あからさまに話を逸らされたことに不満を抱きつつも返事をくれる若菜。
友達の少ないわたしからしてみれば、目を付けられることなんてさして怖いことではなかった。さすがに嫌がらせに発展されると困るけれど。
細谷先生と話すことがなくなって、もう何週間経つんだろう。そんなレベルだった。
そのあいだ、いろんな想いがぐるぐるしていた。たくさん考えた。わたしなりに。
細谷先生は、わたしなんかじゃだめだったんだ。待っていてください、なんて、そんなのやっぱり違ったんだ。
きっとあれは、わたしを守るために、安心するために言ってくれていたもの。距離を置くことで、ちゃんと今わたしが置かれている場所で、その年代の女の子"らしく"生きて、って、そう言っているんだ。
それが、わたしの出した結論だった。
自分で勝手に考えておきながら、わたしはこれを受け入れられなかった。
なんだっていいのに。なんだって、わたしは細谷先生が好きなのに。
どうして、そんなふうに周りにうまく紛れて欲しいなんて言うの。
でも、そこまでして無視をしてわたしにそれを伝えようとするなら、わたしにだって考えはあるんだ、っていうことを見せたくて、それで細谷先生に後悔でも嫉妬でもしてもらいたいなんて、そんな考えで海智先輩からの告白にオーケーをした。
「でも」
若菜がわたしの方を向いて、肩に手を置いてくる。
「佳乃が決めたことだもんね! 一番の友達に彼氏ができるなんて、純粋に考えてすごく喜ばしいことだよ。素直にお祝いする、おめでとう!」
よーし、今日はこのまま駅前のドーナツ屋さんだ! わたしのおごりだぞ〜!
そう叫んで、若菜はわたしの手を取って走り出した。
若菜、ありがとう。心で呟く。わたしはいつだってその、若菜の優しさに救われてきた。




