なかったことに。
なかったことにしてしまえばいい。
なかったことにしてしまえばいい、そう、思った。
初めて授業をしたクラスに、まっすぐに自分の目を見つめて、必死に話を聞いてくれる少女がいたことを。
よく本を読む子で、周りの子より少しだけ達観しているその子のものの考え方が、自分のそれとよく似ていることに気づいたことを。
その子が家庭の事情で深い傷を負っていて、タブーであるとわかっていながら家まで行ってしまったことを。
あの日、手が触れたことを。その手が、冷たかったことを。細い体を、抱きしめたことを。
その、壊れてしまいそうな彼女のくちびるに、キスをしてしまったことを。
すべて、すべて、なかったことにしてしまえば、いいんだ。
全部僕がいけなかった。僕の大人になりきれていない心がいけなかった。
傷つけたくない、そんなことを言って、結局彼女を傷つけたのは僕だった。
苦しかった。彼女から離れる努力をすることも、彼女が僕から離れていくことも、すべてが苦しかった。でも、いけないのは僕だった。彼女に、非はひとつもない。
「佳乃さん」
ごめんなさい。
届かない思いを声にする。
早く、大人になれ。僕は、はやく、大人になってくれ。お願いだから。
このままだと、子供の僕が暴れ出して、また、傷つけてしまう。大切にしたいはずのあの子を、傷つけてしまう。
先生のキャラが迷走している。ついでにいうと、ストーリーも、迷走している。




