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先生と、私。  作者: 南央
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わかっているんです。

カラン。グラスの中の氷が溶けて、動く。


「わざわざ、わたしに聞きに来た生徒もいるんです」


頭に1人の女子生徒の顔が浮かぶ。


「春日ですか」


春日麻衣。1年生のときから国語を担当している生徒。佳乃さんの、1年のときのクラスメイト。

彼女からは度々アプローチを受けている。気づかない方がおかしいというくらい積極的で、職員室では彼女が僕に好意を寄せているなんていうのが共通認識、暗黙の了解になっているというから、困る。


困る。


自分の頭で浮かんだ言葉を反芻した。困る。あぁ、ついに本音が出てしまった。


「まぁ」


小嶋先生に微妙な顔をされる。なぜ個人名を出すのか、出さなくても良かっただろうに、というところだろうか。どうやら、少し嫌味を込めて名前を出したのが伝わったようだ。


「若い男の先生というのは大変ですね」


「なにを、若いほど生徒にそういう視線で見られてしまうというのは男女関係ないと思いますけど」


現に小嶋先生も複数の生徒からからかいを受けて困っているようだった。


「あの歳だと女の子の方がませていて積極的だというだけの話ですよ」


「そうですね」


小嶋先生がため息をつく。


もしかしてこの人は、僕に佳乃さんの話をするという口実で、誰かに自分の不安を打ち明けたかっただけなのかもしれない。


「心配していただかなくても」


僕の言葉に、小嶋先生がおつまみを運んでいた箸を止め、こちらを向く。


「あの子が1人の生徒で、まだ中学生である、ということはちゃんとわかっています。し、」


わかっている。この言葉を口にしている時点で、小嶋先生に対して、僕自身の佳乃さんに対する想いを認めていることになる。


「彼女にも最近、そういう相手が出来たみたいですから」


思わず鼻で笑ってしまった。なぜこんなことを言っているんだろう。むきになっているんだろう。なぜ。


小嶋先生は驚いたような顔でこちらを見ていた。


「ちゃんと、ちゃんと道を歩き始めました」


そう。彼女のいるべき、学生という道に。


「大丈夫なんです」


彼に支えてもらえばいい。


「もう、僕がいなくても、佳乃さんは大丈夫なんです」


そう言い口だけで笑う僕を、小嶋先生は可哀想なものでも見るような目で、見ていた。

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