先生の声。
「うつくしきもの 瓜にかきたるちごの顔。すずめの子の、ねず鳴きするに踊り来る。…」
細谷先生が枕草子を音読している。
金曜日の5時間目。1週間で最後の授業。
この時間が国語であることを、私は嬉しく思う。
他のクラスはどうかわらないけど…。
このクラスは、最後の授業だから気を抜いてうるさくなることはなくて、むしろ、疲れているのか集中しているからかはわからないけど静かだ。
私は言うまでもなく静かだ。
細谷先生が授業中に話すことを、1言でも聞き逃したくない。
音読する声を、ずっと聞いていたい。
そう、思う。
細谷先生の声は優しくて、でもどこか温かいような冷たいような感じで。
心に響いてくる。
すごく好きな声だ。
物語のときなんかは、登場人物が変わると声色を変えたり、アクセントをつけたり。
その度に笑いが起こる。
手紙を回してた子なんかも、先生の音読を聞き出す。
そういう人を見ていると、一部だけ聞くなんて、ずるいと、私は思う。
話は、全部を聞いてやっと自分の中に入ってくるんだ。
面白いからそこだけ聞くとか、きっと悪いことではない。
先生も、全部全部聞かれないよりはマシだと言うかもしれない。でも。
私が良くない。
細谷先生は笑わせるために読んでるんじゃない。みんなにわからせるために。
そのことに気づかないというのが理解し難かった。
細谷先生の読みは、本当に素敵なんだ。
読みというか、声が。
あるとき、内科検診が授業時間にあった。
女子と男子に別れて検診教室に向かったのだけれど、私は女子の4番目だった。
検診が終わって教室を出ると、この時間授業がなく、検診時の生徒指導を任されたらしい細谷先生がいた。
入り口のドアに立っているとばかり思ってた。
出口に立っているなんて思っていなかった私は、ドキッとした。
「男子、呼んできて。中の階段から来るように」
そう言った細谷先生の声はいつもより低くて、落ち着いた声だった。
いつもと違う声で、なぜか、先生のプライベートを覗いたような気持ちになった。
こんなに自分の出席番号に感謝したことはないと思う。
なにより、他の誰でもない、私にそのことを頼んでくれたのが嬉しかった。
読んでくださり、ありがとうございます!!
暇があれば、私のもう1つの作品、
吹奏楽のなかの。
も、よろしくお願いします(・v・)。