人の想い。
「ごめん、お待たせ」
「いえ、全然、待ってなんてないです!」
「そっか、よかった」
爽やかに、海智先輩が笑う。
「じゃ、行こう?」
2人並んで歩き出す。
『お願いがあるんだけど…』
海智先輩からの話の切り口は、これだった。
一緒に帰りたい、というのが海智先輩からの『お願い』だった。
正直、気が進まなかったんだけど、若菜があまりにも推してきて断り辛かったから、結局一緒に帰ることになった。
それで、今に至る。
「お、海智マジか、その子彼女〜?」
「うっさいな、ちげぇよ!」
クラスメイトか誰かからのからかいにも、笑顔で返している。
慣れてるのかな、なんて思ってしまう。
「あー! その子が『佳乃』ちゃん?」
「ちょ、おいお前ー!」
海智先輩がそに人のところに行ってしまう。
私はどこにいたらいいのかわからなくなる。
「ね、あれってさ………」
「えー! 海智先輩、………。私、いいなぁって思ってたのにぃ」
「………ってこと?」
「海智先輩の様子見てたら……まだ…………じゃない?」
同じ学年の子が、こそこそ喋ってる。
私の悪口、言ってたりして。
そう考えて、背中がぞっとする。
海智先輩は本当に人気者で、そんな人が選んだ相手が私じゃ、そりゃみんな納得いかないよね…。
「ごめん、あいつらうるさくて…」
海智先輩が走って戻ってきた。
「大丈夫です」
困ってしまって、間抜けな笑顔で返してしまった。
再び、家に向かって歩き出す。
「先輩、今日部活は?」
「久しぶりに、オフなんだ」
「バスケ部、練習きつそうですよね。私絶対入れないと思います」
「確かにきついけど、でもやっぱバスケ好きだからさ」
そう言う海智先輩は、本当にバスケが好きだ、という顔をしていた。
「いつもメール、ありがとうな」
そう言って、海智先輩はにこっと笑う。
この笑顔に、女の子はやられてしまうんだろうか。
「こっちこそ、忙しいのに私なんかとメールしてくれて…」
「え、私なんかって、なんだよ?」
「いや、だって先輩人気者だし、私なんか不釣合いじゃないですか」
「そんなこと考えてんの? ってかまず俺そんな人気者じゃないし、俺が頼んでメールしてもらってんだからさ。気にすんなよ、そういうの」
彼女だったらここで頭ぽんぽんとかされるのかな、なんて考えてしまう。
「佳乃はさ」
海智先輩は私のことを名前で呼ぶ。
初めて呼ばれたときからそうで、でもそれが自然だったから、海智先輩ってすごいと思う。
「運動苦手?」
「はい、かなり運動音痴で…」
「まじかー! ほら、さっき、バスケ部入れないって言ってたじゃん?」
頷く。
「じゃあ逆に、好きな教科ってある?」
「国語、ですかね」
何も考えずに口から出ていた。
…先生。
あれから本当に、話すことが減っていた。
あのときの出来事は夢だったんじゃないか、って思ってしまうほど。
「へぇ、国語かぁ…」
海智先輩が首を傾げる。
「俺、何かイマイチ国語好きになれないんだよね。国語というか、国語の教科担が、だけど」
「誰でしたっけ」
「内原。そっちは? 細谷先生だっけ」
「……はい」
細谷先生。
海智先輩の口から出たその言葉は、特別な響きがあった。
細谷先生。
細谷先生…。
「あの人すごいよな、若いのに生徒会顧問もやってるんでしょ?」
「そうですね」
学年の先生じゃないのに、よく知ってるんだな…。
そう思ったのを見透かしたかのように海智先輩が言う。
「ほら、よく木村から聞くんだよ。国語係の話とか…」
「え、若菜、変なこと言ってないですか?」
「変なことってなんだよ」
いたずらした少年みたいに、海智先輩が笑う。
「べ、別に…」
焦ってしまう。
急に会話がなくなった。
家はもうすぐそこだ。
「やっぱ、佳乃、かわいいな」
思わず、立ち止まる。
海智先輩が私の方を向いて、慌てたように言う。
「ごめん、つい。いや、ほんとごめん、忘れて?」
私は何も言えなくなる。
海智先輩が困ったように笑う。
「佳乃の家、あそこだよな?」
頷く。
「今日、一緒に帰ってくれて、ありがとう。楽しかった。じゃあ、また明日」
海智先輩が、言ってしまう。
今になって、私は海智先輩が通学路が違うのに、私を送るためにここまで来てくれたんだって、気づく。
それなのに私は、お礼も言えなかった。
泣きそうだった。
よくわからないけど。
細谷先生に、会いたいと思った。
よくわからないけど。
先生に会いたいから、
だから、泣きそうなのかな。
私は誰もいない家に入り、自分の部屋で、声を殺して泣いた。
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南央はクリぼっちです\(^p^)/
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