期待させて。
「ごめんなさ、」
「佳乃」
急に呼び捨てにされ、びっくりして引っ込めようとしていた手を止める。
先生をみると、先生の真っ直ぐな目が、真っ直ぐに私を見ていた。
なにかを、訴えるように。
「せん、せ…?」
「手が、冷たいのですね」
触れた手を、ぎゅっと握られる。
やばい。
どうしよう。
「細谷先生」
「はい」
優しい笑顔。
大好きな、細谷先生の笑顔。
どういうつもりで、手を握ってるんですか?
そうやって、いつも期待させて。
もっと好きになってしまう。
「……お家の方は」
静かに、先生が口を開く。
「大丈夫ですか?」
さっきまでのぼってきていた血が、どんどん落ちていく気がした。
「………大丈夫です」
思わず俯いてしまう。
「本当に?」
顔を、覗かれる。
やめて欲しい。
どきどきする。
だからやめて欲しい。
「溜めないで」
くいっと、顔を上に向かせられる。
「無理しないで」
「せんせ…」
「わかりますよ。それくらい」
思い出させないで欲しいのに。
学校にいるときくらい忘れていたいのに。
こんな気持ちに、なりたくないのに。
でも、先生には聞いて欲しい。
そう思っちゃうのは、なんでなんだろう。
「それとも」
聞いたことのない先生の声がして、はっとする。
切なそうな顔をしている。
「私じゃダメですか」
「なんで」
なんで、そう、なるんですか。
先生じゃなきゃ、細谷先生じゃなきゃダメなのに。
「先生が」
私もつられて泣きそうになってきた。
「先生が、いいのに。先生じゃなきゃ、ダメなのに」
「本当にですか?」
「はい」
確認なんかしなくても、わかってるくせに。
好きです。
先生、大好き。
「先生、私、先生が、」
「それ以上、言ってはいけません」
「先生」
「もう少し、時間がたつのを、待ちましょう…?」
「……先生」
それは、どういう意味ですか?




