手と手が。
「失礼します」
職員室のドアを開け、お辞儀をする。
2年生の先生たちがいるカウンターのところに行くと、すぐに細谷先生は見つかった。
先生も私に気づく。でも、こっちにきてくれないのは、2年は今、職員室での振る舞いを正しくする、というのが学年目標だからだろうか。
そういうところも好きだ。
きっと、先生だったらなんでも好きだ。
「細谷先生、お願いします」
こっちを向いて、にこっと笑ってくれる先生。
「ちょっと、部屋を借ります。長くなるかもしれませんが、大丈夫ですか?」
「はい」
手に、鍵と本を持っている先生。
先生とだったら、いくらでも一緒にいたい。
相談室の鍵を開け、中に招かれる。
「話がありまして。そこに、座ってもらってもいいですか?」
「はい」
椅子に腰掛ける。
テーブルを間に先生と向かい合う形になった。
「もうすぐ、夏休みですね」
窓の外を眺めて言う先生。
「緑が、豊かになっていく」
「前は、そういうこと言ってくれませんでしたよね」
キョトン、とした顔をする先生。初めて見たかもしれない。
可愛い…。
「いつのことでしょうか」
「1年生の3月に、『桜が咲きましたが、国語教師として一言お願いします』と言ったら」
「…あぁ! それですか」
覚えていてくれたんだ。
一瞬立ち止まって、『さよなら』と早口に言って行ってしまった。
「そうですね…。佳乃さんと2人だから言える、と思ってもらって構いません」
………私と、2人だから…?
どういう意味だろう。
先生、期待しても、いいんですか?
いつもそうやって、意味深なことを言って、どきどきさせて…。
ずるい。
「とりあえず、本を渡しますね」
話を変えられる。
「ありがとうございます」
手を伸ばすと、本を持った先生の手と、私の手が触れた。




