そのあとの挨拶。
次の日には熱は下がって頭痛も治まったので、私は学校に行った。
若菜にはなにやってたんだってすごく怒られて、そのあと一緒に笑って、またいつものように2人で学校に向かう。
やっぱり、校門が近づいて、挨拶しているのが生徒会だと気づくと、胸のドキドキが止まらなくなる。
あと、15メートル。
「細谷先生、面白いことやってくださ〜い」
学年でも目立つ子の声。
あと、10メートル。
「おい、溜まってないで早くいけよ」
「え〜。細谷せんせ、またあとでやってね!」
注意する、別の先生の声。
つまらなそうにする、女の子の声。
細谷先生の声は、まだ聞こえない。
あと、5メートル。
「おはようございます!」
「おはようございます」
明るい、地域ボランティアの人の声。
それに返す、私と若菜の声。
「おい、木村ぁ!!」
「あー、もうっ、うるさいなぁ! スカート長くしましたって!」
生活指導に捕まる若菜。
あと、1メートル。
「おはようございます」
細谷先生の、声。
いつもの、細谷先生。
昨日のことが夢みたいに思えるような、そんなおっとりとした優しい声。
「おはようございます…」
そういうと、目があって、微かに微笑んでくれたみたいだった。
呼び止めてくれたりするかな、と思っていたけど、そんなことはなかった。
ちょっと寂しいけど、先生と生徒として、間に1本線を引いている感じが、細谷先生らしい。
周りから見たら、このあいだまでと同じ、私と細谷先生なんだろうな。
でも、なにかがかわった。
そう思っているのが私だけだとしても。
なにかがかわったって思っていいですよね、先生?
今日の胸のドキドキはいつもと違って、安心するようなドキドキだった。