初めての2人ぼっち。
……先生、今、なんて言いました?
「わかりました。それなら安心ですね」
養護の先生が微笑む。
「車を出してきます。前まで持ってくるので、帰る準備をして、待っていてください」
熱で、頭がおかしくなったみたいだ。
先生と、帰る?
細谷先生の、車で、2人で帰るの?
「はい、リュック。明日の朝になっても熱が引かないようなら、休みなさいよ」
「わかりました」
今度こそベッドから起き上がり、リュックをしょう。
外で短くクラクションの音がして、私は養護の先生に見送られ、外に出た。
運転席から細谷先生が降りてきて、助手席のドアを開ける。
「隣でも大丈夫ですか」
「はい」
緊張のあまり、出た声はほとんど息に近いものだった。
「乗ってください」
リュックを抱えるようにして座る。
それを確認した先生が、ドアを閉めてくれた。
先生の、車に、乗ってる。
急に実感が湧いてきて、ドキドキして、息が苦しくなる。
細谷先生も車に乗り込み、発車する。
車が小刻みに揺れるのが、心地良かった。
「家に、お母さんいないんですね」
「…はい。今週は、出張だって」
「そのあいだ、ずっと1人なんですか?」
「はい」
先生は、なんて言うんだろう。
すごいね。大人だね。がんばるね。可哀想に。さみしくないの?
今までに言われてきた言葉を思い出す。
全然そんなこと思ってないのに、言われると何故か、泣きそうで、でも怒りも湧いて、何とも言えない気持ちになる。
「そうなんですか」
先生はそれ以上、何も言わなかった。
そっと、運転する細谷先生の横顔を見る。
どこを見ているんだろう。
そう思うような目をしていた。
「この道を、どう行けば?」
「突き当たりで右に曲がって、道なりに行ってください」
もうすぐ、家についてしまう。
「小林さんは」
私の好きな声が、私を呼ぶ。
その声の持ち主の方を、向く。
「どこか、私と似ているかも知れませんね」
先生と、私が、似ている?
「小林さんと言っても、この学年には2人いますが」
優しく微笑む、先生。
私だけに向けられた、笑顔。
「小林佳乃のほうの小林さんです」
佳乃。
先生が、私の名前を呼ぶとき、いつも小林が2人いて良かったって思う。
きっと1人だったら、名字でしか呼んでくれないから。
「似てますか」
先生は、やっぱり、たまに難しいことを言うんだ。
嫌味とかじゃなく、先生自身から出た言葉をまっすぐに。
「溜めないでください」
先生は、私の気持ちに気づいているのだろうか。
「あなたの苦しむところは、見ていて私も苦しくなる」
どういう意味だろう。
それきり私たちは会話をしないまま、家についた。
「明日も学校ですが、無理はしないでくださいね」
「はい。ありがとうございました」
そう言って、車から降りた。
先生は、私が家に入るまで見届けてくれた。
先生の車が行ってしまったあと、私はなぜか急に、泣きたくなった。
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