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蒼空のセレスティアブルー  作者: 稲木グラフィアス
第一章《One-eyed Wizard》
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第二話《Devil boy》(1)


 心地よい微睡みの中に俺はいる。

 人間の三大欲求の一つである睡眠欲は相当なくせ者で、中々理性を取り戻さしてはくれない。

 それに今は春だ。

 春眠暁を何とやら。

 故に俺は覚醒しきれずに、微睡みの沼と淵を行ったり来たりする。


「朝、か…………すぅ、すぅ……」


 布団はまるで子供のようだ。

 寝る前は冷たいけど、朝起きてみるとこんなにも人を離すものかと睡眠欲を刺激してくる。

 不幸な運命(特に右目に)を背負った俺にとって至上の幸福の一つだ。

 そう言えば、俺は蒼陣魔法学園の未分類型クラスの寮で寝てるんだっけ?

 俺の自宅の布団よりもフカフカしていて寝心地が良い。

 だがしかし、俺の隣に何故かセレスがいます。

 そしてこれまた何故かセレスは俺に抱きついていて、俺もセレスを抱き締めています。


「…………ふにゅう」


 幸せそうに寝込みやがって。

 セレスが一緒だと思ったら目が冴えてしまった。


「そろそろ起きるか」


 時計を見ると、今は五時半。

 ふふん、丁度だな。


「さて、と……ん?」


 左腕が動かない。

 どうした事かと左腕を見てみれば、セレスの下敷きにされてるではないか。

 すると、俺が腕を引き抜こうとすると、セレスの肌(多分だが腹)に当たる。


「ふふっ……」


 セレスがくすぐったそうに笑う。

 そっと抜いて起こしてやりたいのに、俺は早く抜きたい。

 今この瞬間、セレスのすべすべとした肌と体温が直に伝わってくる。


「ん、君翼?」


「お、おはよ。セレス」


「ぷくっ……やだ、動かさないで。早く抜いて」


「分かっとるがな。じゃあまずその手を退けろ!」


「動かしたらくすぐったい。脇腹は敏感だから……っ」


 どうしろってんだよ。

 それにしても早くしないと、色々とまずい。

 セレスも混乱して冷静な判断を下せないのだろうが、俺もそれと同じになりかねない。


「いいから早く手を離せ!」


「くすぐったい……の!」


 セレスがあまりにも強く俺の腕を掴むものだから、段々感覚が鈍くなっていく。

 それを知らないセレスは脱出しようと動く俺の腕を動かさないように更に力を強め、体を丸めて固める。非常に痛い。

 と、強引に俺は手を引き抜いた。


「ひうんっ!」


 俺の腕が引き抜かれた瞬間に、セレスがおかしな声をあげた。

 敏感だと言っていたが、そんなにくすぐったかったのだろうか?

 みるみる内にセレスは顔を赤くし、脱兎の如くベッドを飛び出してシャワールームに隠れる。


「ご、ごめんな。セレス?」


「…………(じとー)」


 セレスがシャワールームのドアの陰からこちらの様子を伺ってくる。

 いくらくすぐったかったからって逃げる事はないだろう?

 それにしても腕が痺れてやがる。セレスが強く握りすぎたからだ。

 未だに感覚が戻ってこない。


「触った…………」


「はい?」


「君翼が、触った…………」


「あの、だから腹に触っちまったのはごめんって」


「触られたぁぁぁあああぁぁぁあああ!!」


 先程にも増して顔を赤くしながらシャワールームのドアを閉める。

 中からシャワーの音が聞こえる辺り、体を洗ってるのか?

 不潔だと思われたのか!?


「にゃっ、冷たい!?」


 と、シャワールームからの声が聞こえ、予想が本物になり、その場でため息をつく。


「はぁ。これも右目の不幸かなぁ……」





















「皆さんはこの学園に入り、魔宝具を与えられ、《魔法使い(ウィザード)》と呼ばれるようになります」


 今朝の一件以来、セレスは俺の事を避けるようになってしまった。

 俺の顔を見れば直ぐに目を反らし、俺が話しかけても、チラッと俺の方を見たかと思うとフードで顔を隠す。

 まぁ、俺にとってはあんな事かもしれないけど、セレスにはあんな事では済まなかったのだろうな。


「ちなみに、魔法学園はこの日本以外にもあるのはわかってると思います。日本に蒼陣魔法学園、アメリカにレッド=マジック=アカデミー、フランスにセント=マギ=アカデミー、オーストラリアにナチュラル=アカデミーと外国に三つ存在しています」


 今現在も授業中に視線を感じるが、その正体はセレスによる物。

 なので『何か用か?』と聞こうとセレスの方を向くと、セレスは慌てて視線を反らす。

 しかも何故か胸を隠すようにして。

 胸なんて触ってないよね!?


「それぞれの学園では魔女が理事長を勤めていて、日本が(あお)の魔女、アメリカが(あか)の魔女、フランスが金色(こんじき)の魔女、オーストラリアが(みどり)の魔女と、四色の四大魔女がいます」


 先生の話を聞きながら四色の魔女の内、蒼の魔女が自分の母親である事を思う。

 そして、四大魔女の内一人の息子が俺。

 益々俺に向く視線が多くなるに違いない。


「君翼くーん?」


「なんだよ、駿」


 授業中にも関わらず、駿が小声で呼びながら俺の机を叩く。

 鬱陶しくも、ここで無視すれば後が面倒臭そうに駿の方を向く。


「セレスさんに何をした……」


 予想通りの質問。

 しかし、今朝の出来事を駿に言える筈がなく、俺の答えは一つ。


「二人だけの秘密だ」


「何だと? お前、本当に何をした!?」


「俺とセレスの二人だけの秘密だ」


「何をしたと言ってるんだ! まさか、お前……」


「心配すんな。お前の想像してる事は起こってない」


 正確には『起こりかけた』だからな。

 実際に起こってはいないのだから嘘ではない。


「この変態め、自分の権力を振りかざすのか!」


「俺にどんな権力があるってんだよ」


「魔女に呪いをかけてもらうよう頼むとか……」


「そんな下種な事しねぇよ」


「なら、おかしいじゃねぇかよ。初日でのあの落ち着いた感じだったセレスさんが、一晩でお前の事を見る度に感情を露にしてるじゃないか」


「落ち着いた感じだったか? 結構ふざけてたじゃないか」


 例えば初日の『じゅるり』の辺りとか、今朝の『にゃっ』とかな。

 まぁ、その他では落ち着いた感じというより、子猫のような感じだった。

 物凄く愛でたい、愛玩動物的な意味で。


「素の時とふざけてる時とは違うだろ」


「そんな物か?」


「静かにしないか、二人とも」


 またも授業中にも関わらず、背後から話しかけてくる奴がいた。

 今度は千鶴だが、注意をしてくれたのだから駿とは扱いは違うよな。


「それと、やはり作戦に協力してくれそうなのは昨日の五人だ。という事で、今日の夕食時に集合してくれたまえ」


 前半、千鶴の声が寂しそうな物になっていたような気がする。

 やっぱり五人では心配なんだろうか。

 ふふん、しかしだ。俺が昨日考えた作戦が成功すれば、心配なんてしなくていいんだ。

 と、その事を考えていると、同時にセレスと一緒に寝ていた事が頭に浮かんでくる。


「君翼、顔がにやけてるぞ……。やっぱりなにか!?」


「な、何でもねぇよ!」


「はっ……その慌てよう。本当に何かあったのか!」


「うるせぇ! 思い出させるな恥ずかしい!」


「何が、何があったんだ!」


「何もないっての!」


「今さっき認めたじゃないか!」


「うるさいよ、八月朔日君、十神君!」


『は、はい!』


 段々とヒートアップしていって声が大きくなってしまい、花子先生に怒られてしまった。

 くそっ、この右目の刻印の影響なのか?

 中二病でつけたこの眼帯、初めは俺の元々の不幸かと思ってたけど溢れてきてんのか?

 次第に不幸が頻繁に起きてる気がする。


「後できっちり教えてもらうからな、君翼」


「残念、次の時限は外で魔宝具の訓練だ。そんな時間はない」


「なら、話し合いの時だ」


「はいはい、わかったわかった」


 すると駿は「よしっ」と小さくガッツポーズを決めてから、机に向かった。

 ふぅ……。さて、嘘を考えておかなければなるまい。





















「諸君。私が魔宝具訓練の担任、荒垣(アラガキ)智幸(トモユキ)だ。お前達の魔宝具は今、『フェイズⅠ』と言う段階で、各自の身体の中にある」


 魔宝具の訓練の担任はおっさんで、細マッチョの渋い人だった。

 まぁ、それはいいんだ。

 この人はせっかちな性格で、女子が全員来ていないにもかかわらず授業を始めてしまっている。

 そして、あろう事か授業が始まる時間ですらない。


「どうした、君翼。何か気になる事でもあるのか?」


「いや、気になるっていうか。多分皆が考えてると思ってるんですけど」


「お、なんだなんだ?」


「何で授業前で、全員が揃ってもないのに授業義始まってるのかなぁ……と」


「遅いからだ」


「いや、授業前ですし、きっと着替えでも……」


「五分前行動だ。遅れるなら運動着なんて着るな。なお、制服は認めん」


「裸!?」


「いや、下着は着けてこい」


「ほとんど裸だよ!」


「先生はずっと考えていた事がある。なぜ下着と水着は同じ露出度なのに、下着の方が恥ずかしいのか」


「いや、そんな事当たり前だと思いますけど?」


「そう考えると、先生は下着と水着が同一視してしまって、恥ずかしくて夏にプールに行けないんだ」


「水着を下着と見てる時点でアウト!」


「だから、私の娘は必ずスクール水着だ」


「きいてませんよ?」


「そして、なんと白の旧式だ!」


「ただの変態じゃねぇか!」


 どうしようもない親だった。

 先生があまりにボケるものだから、『旧スク水ってまだあったんだなぁ』という俺の考えはすぐにどこかへ行ってしまった。

 むしろ、『白ってあるんだなぁ』の方が強い。


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