第一話《Blue Eyes》(5)
「それにしても、一週間後ってのは随分急だよなぁ」
「…………」
部屋に戻り、まだ寝るには早いので、俺は一週間後にあるクラス対抗バトルロイヤルについて考えていた。
今の所、俺とセレス、駿、千鶴、遥の五人が作戦に加われそう。
俺の魔宝具は《変形型》と言われるようになった。
セレスがブーメラン、駿がソーサー、千鶴が蛇腹刀、遥がトンファーだったか?
セレスと駿が中距離武器、千鶴、遥は共に近接武器。
遠距離攻撃ができるのは俺だけ、か。
やっぱり、たった五人で四百以上の敵を相手にするのは無茶だよな。
どうにか、クラス全員のやる気を出せれないだろうか。
「…………」
そう言えば、ソーサーってのは元々、カップの下に置かれる受け皿の事だったよな。
その縁が刃になって、投げる事でブーメランや手裏剣に似た攻撃が可能だ。
そして、遥のトンファー。
トンファーは、沖縄の古武道において使用される武器の一つ。
トンファー、または旋棍とも呼ばれ、棒の片方の端近くに、握りになるよう垂直に短い棒が付けられている。
基本的に二つ一組で、左右の手にそれぞれ持って扱う。
握り部分を持った状態では、自分の腕から肘を覆うようにして構え、空手の要領で相手の攻撃を受けたり、そのまま突 き出したりして攻撃することが可能。
逆に長い部位を相手の方に向けて棍棒のように扱う事が出来る物だ。
それらは手首を返すことで半回転させて瞬時に切り替えられ、さらには回転させて勢いを付けつつ相手を殴りつけることも出来る。
またそれだけでなく、長い棒の部分を持ち、握り部分を相手にむけて鎌術の要領で扱うことも可能。
主に刀を持つ敵と戦うために作られた、攻防一体の武器。
うん、小さい頃に知って新聞で作ってみてハマったなぁ。
「…………」
千鶴の蛇腹刀はつまり蛇腹剣だ。
その刃はカッターナイフのように複数に分断した構造を持ち、それぞれがワイヤーなどで連結されている。
ワイヤーが巻上げられた状態では剣状を維持し、これを緩ませることで刃はばらばらになり鞭状をなす。
現実では机上の武器であるが、魔法を使う魔宝具では実在する。
「あれ、蛇腹剣って近接武器というより中距離武器だけど、近接型クラスに所属しないのかなぁ」
「…………」
「……ん?」
「…………(すぴぴー)」
さっきから何も喋らないと思ったら、セレスがもう寝ていた。
寝顔、可愛いじゃないか。
こんな無防備な事しやがって。
まぁこの八月朔日君翼は紳士ですから、何もしませんよ。
ただ寝顔を覗くだけですよ。
「…………(すぴー)」
「まだ十時だぞ……」
「…………ぐっ!」
「…………!?」
突然、苦虫を噛み潰したような顔をする。
何事かと覗き込んでみれば、セレスは何かを言おうとしている。
声が掠れてよく聞き取れない。
「……――――っ!!」
「大丈夫か、セレス!」
「――――ぁ―――――っ!」
「セレスティア!」
すると、セレスが弾かれたように起き上がる。
セレスは暫し辺りを見回した後、両目に涙を溜めて俺に抱き付いてきた。
「君翼ぇ……君翼ぇ…………」
「どうした、セレス?」
「怖い夢、見た……」
そりゃそうだろう。
魘されてたのだから……って、そうじゃなくて。
「大丈夫だぞ……只の夢だ」
なるべく優しく抱き締めてやり、頭を撫でて震えるセレスを慰める。
あやすのは初めての体験だから、どうやったら良いのかよく分からないから自信ないけど。
「君翼ぇ……」
「ん?」
「…………(すぴー)」
「寝るのかよっ!」
「ご、ごめん」
「いや、謝る事じゃないけども」
セレスの目がうっすらと開き、きょろきょろと何かを探すようにする。
そして俺の方を見ると、縋るように見つめてくる。
蒼い瞳がゆらゆらと涙で滲む。
それを見て頭を軽く撫でてやり、ベッドを離れて水を汲んで来る。
「ほら飲め。喉乾いたろ」
水をコップ一杯飲んで寝るのはとても良い事なんだ。
人は寝ている間に約コップ一杯分の汗をかくと言われていて、寝る前にコップ一杯の水を飲むというのは、快適な睡眠のためにという理由以外にも意味がある。
例えば血をどろどろにしないようにとか。
「ありがと……」
セレスは俺からそっとコップを受け取ると、水を一気に飲み干す。
「あれだけ苦しんでたから、相当怖かったんだろ」
「うん……」
「……なぁ、セレス。俺に何かできる事はないか?」
「えっ?」
「こういう時、誰かに話してスッキリした方がいい。後に後に引きずっていけばいく程、戻れなくなっちまう」
まぁ、小さい頃に親父に言われた事だけどな。
まさかこれを俺が言う事になるとは思ってもみなかったぜ。
でも親父は、言えば話を聞いてくれて。それだけで俺の場合はスッキリした。
言うだけで良いんだ。
日常生活に邪魔なモヤモヤとした物を吐き出して、スッキリしてしまえばいい。
「……今は、いい」
「うん、そっか。言えるようになったら、いつでも言ってくれ」
まぁ、さすがに急すぎるのは分かる。
見た夢によっては言いにくい事もあるよ。
俺も初めて言われた時は戸惑った物さ。
「君翼……、じゃあさ」
「お、何だ?」
「一緒に寝よ?」
「何でっ!?」
「怖いから……」
「何の夢見てたんだよ、お前は」
「君翼が龍になっちゃう夢」
「俺が龍に?」
本当に、どんな夢を見てたんだよ。
俺の何処に龍の要素があるんだ?
さすがに一緒に寝るのはまずいと思い断ろうとすると、セレスは俺の事をじっと見つめてくるのだった。
蒼い目が潤み、先程のように縋るように視線を向けてくる。
畜生が……。
断れないじゃないか、そんな目をされたら。
「しょうがねぇなぁ。お前が寝付くまでだからな?」
すると「うん!」と、セレスは嬉しそうに笑った。
可愛いな、こん畜生!
俺、今日で何回『畜生』って思った?
「やっぱり優しいね、君翼は……」
「そうか?」
「魔女の息子、異端者、として有名で。他人の事を思ってる所が優しくて……」
「そう言われると照れるぜ…………ん?」
魔女の息子……そうか!
閃いた。閃いたぜ、俺!
これなら勝率は低いかもしれないけど、五人よりかはずっと高くなる。
「どうかした?」
「セレスの事で良い事を思い付いた。ありがとな、感謝してる」
「それは、どうも」
「何か、お礼をしてやるよ。俺にできる事なら言ってくれ!」
「そ、そんなに?」
そんなに、ってもんじゃない。
これは俺一人じゃ考え付かなかった事だと思うし、俺の事を優しいなどと言ってくれるセレスだからこそ、俺にとってヒントになったんだ。
「えっと、じゃあ……ね?」
セレスはもじもじとしながら、指を絡めたりほどいたりする。
セレスが何を言うのか、じっと待ち構えていること数秒程。
「今日だけじゃなくて、私が怖い夢を見なくなるまで一緒に寝てほしい!」
かぁ、とセレスの顔が赤く染まっていくのが目に見えて分かる。
俺も顔が暑い。きっと俺の顔も赤くなっているのだろう。
「じ、じゃあ先に……は、入ってて」
そう言って、セレスは自分のベッドを指差す。
「お、お、おぉ。わかったぜ」
もう、二人ともちゃんと話せないな。
というか、ちゃんと話せる筈がない。
そんな事ができるとしたら、そいつは絶対に経験が豊富な奴だろう。
「い、良いぞ」
「うん」
俺は毛布に入って背中を向ける。
絶対に真っ正面なんて向けるものか!
「よいしょ……っと」
電気が消えてから、もぞもぞとセレスが毛布に入って来るのが背中越しにわかる。
見えないから余計に感覚が鋭くなっているのか、セレスの声もハッキリ聞こえる。
「お、おやすみ」
「おやすみぎっ」
うぐっ、噛んでしまった。
いってぇ。
「ぷっ」
くそっ、笑われた!
こんな緊張すべき場面で噛むなんて最低だ。
「…………(すぴー)」
だがセレスは寝るのが早過ぎて「ぷっ」と少し吹いてから、数秒足らずで寝てしまった。
だがなぁ、一つ問題がある。
「いつの間に抱き付いたし……」
これではセレスが寝付いても、離れられないじゃないか。
寝不足にならないように、ちゃんと寝れるだろうか?