第一話《Blue Eyes》(4)
「んじゃ、いただきます」
時刻は六時過ぎ。
寮も学食もクラスによって分けられているらしく、一号館が近接型クラス、二号館が遠距離型クラス、三号館が防御型クラス、四号館が俺達未分類型クラスとなっている。
そして、俺とセレスは学食で夕食にしていた。
まぁ、隣にもう一人いるけどな。
「いただきます」
「駿……なんでお前までここにいるんだ?」
「どこでもいいじゃないか。クラスメイトのよしみじゃないか」
まぁそうなんだけどさ。
必要以上に嫌悪感が伝わってくるんだよ。未だに。
「そもそも駿のルームメイトはどうしたんだよ」
「ん、それなら眠いって言って購買でパン一個を買ってから部屋に行っちまった」
随分燃費のいい奴だな。
きっとあまり運動をしないに違いない。
そうでなきゃ、すぐに腹が減ってしまう。
それに対し、駿は多過ぎやしないか?
カレーうどんに牛丼、カツ丼。
丼が被ってるぞ。
「それより、セレスティアさんは大丈夫ですか?」
「何が?」
「君翼に変な事を……ぉ!」
「してねぇよ……」
「そ、そんなにキレるなって」
駿の頭に拳骨を食らわしてやろうかと思ったが、避けられてしまった。
あと少し速ければ当たってたかもしれないのに。
「残念そうな顔をするなよ」
「悔しがってんだよ。お前の頭に掠りもしなかったから」
「そりゃ避けるさ……っと、どうかしたの、セレスティア?」
「さっき、部屋で……」
セレスが箸をくわえながらもじもじとすると、その瞬間駿が俺に掴みかかってくる。
「テメェ、セレスティアさんに何しやがった!」
「何もしてねぇよ!」
「なら、なんだこの可愛い仕草は!? 普通じゃないぞ! 学校終わってから部屋にいる短い時間で何をした! むしろナニをした!?」
「だから何もしてねえって! ほら、皆見てる所で五月蝿いぞ!」
皆が俺達の騒ぎに食事の手を止め、俺達の事を白い目で見ている。
でも、何か息苦しい感じは何故だ?
早くこの場から逃げ出したい感じ……白い目が俺の方を向いているから?
よく見れば、多くが駿ではなく俺の方に向いている気がする。
「皆、お前の事を見てるんだよ!」
「お前がナニをとか言うから、誤解を生んだんたろうが!」
「君翼……」
「……何?」
「皆、二人が五月蝿いから見てるんだと思う」
『…………あ』
そう。皆の視線は俺だけに向いている訳じゃない。
駿にも向いているのだから、俺がセレスに何かをしたんじゃないかと疑われてる訳じゃないと思う。多分。
「もう一度セレスさんに聞こうか」
駿はすぐに席に座ると、セレスさんの真っ正面から話しかけた。
「何もされなかったかい?」
「うん。ただ、かっ……『可愛い』って連呼された…………はぅ」
『…………(か、可愛い!!)』
自分で言っておいて、思い出したのかフードを深く被り込んでしまう。
その瞬間に俺と駿の考えていた事は同じだった。
そして、同時に俺と駿の間で同盟の証に握手が交わされていた。
「……くっ、羨まし過ぎるぜ!」
「いたたたたたた!!」
だが、長くは続かなかった……。
突然、駿が何かを呟いたかと思った途端に、握られた手の力が強まったのだ。
「何しやがるんだよ!」
「羨ましい……羨ましいぞ、君翼!」
手の形が変わりそうな程痛かったので、急いで振りほどく。
「だからって俺の手を潰す気か!」
「そうだ!」
はっきり言いやがりましたぞ、こいつ。
「何をさっかからゴチャゴチャと喚いている?」
再び俺に掴みかかろうとする駿の肩を掴んだポニーテールの女子。
彼女は俺と駿を睨むと駿を横に移らせ、俺と駿の間に座る。
その眼光は鋭く、まるで武士が現代に蘇ったかのように思えた。
「えっと?」
「お前達が隣同士だとすぐ喧嘩をするだろう?」
まぁ、その通りなんですけど。
俺が聞きたいのはそうじゃなくて……、
「誰?」
「私か? 私は柄沢千鶴。お前達と同じ未分類型クラスで、魔宝具は《蛇腹刀》だ。千鶴と呼ぶがいい」
「ど、どうも」
「そして、私がチヅちゃんのルームメイトの最乃見遥でーす! 魔宝具はトンファーだよ! 私は、ハルハルでも、ハルカンでも、恋人らしく遥でもいいよ?」
ひょっこりと後ろから女子が飛び出してきた。
あまりの元気さに、俺と駿は引き気味だ。
ハイテンション過ぎて、頭のツインテールがばっさばっさと羽ばたいている。
セレスが冬にこたつに入って寝ている猫なら、この遥という女子は外で駆け回る犬のようである。
「恋人か何かは置いといて、遥って呼ばせてもらうよ。俺は……」
「知ってるよー? 《魔女の息子》《異端者》で有名な、八月朔日 君翼君だよね! ホズホズでいい? ツバサ君でいい? 君翼くんでいい?」
「お、おぉ……君翼でいいよ」
なんだろう……凄く疲れる。
マラソンで10キロ走るより疲れる!
「君は……駿君でいいね」
「何で俺にはあだ名っぽい呼び方無いんだよ!」
「えっと、じゃあ……十君、神君、駿君。どれか!」
「駿君でいいや」
駿が元気を無くし、逆に遥のテンションが上がる。
元気を吸い出しているんじゃないだろうか。
「落ち着かないか、遥」
「そんな事より本題に入ろうよ、チヅちゃん」
「本題?」
「あぁ、一週間後にあるクラス対抗バトルロイヤルの事について話したい事がある」
「何だそのバトルロイヤルってのは?」
恐る恐る訪ねてみるが、大体の予想はついてる。
クラス対抗バトルロイヤルって言うくらいだからな。
「クラス対抗バトルロイヤルとは、一学期に一度行われる行事だそうだ。クラス対抗なのだから当然チーム戦、つまり四つのクラスに分けて生き残りバトルをやるという事。それで、戦力なのだが……」
急に千鶴の顔が暗くなる。
いったいどうしたというのだろうか。
ここまで熱心に語るのなら、それほど自信があるんじゃないか?
「先程、先輩方に聞いてみた所、未分類型クラスが優勝した事はまず無いそうだ」
「なん……だと……?」
どういう事だ。未分類型クラスは複数のジャンルを持つ武器が理由で集められたクラス。
蛇腹剣などは近接型より遥にリーチが高い。
盾と一体になった武器も珍しくないのだから、遠距離型にも対応できる筈だ。
「未分類型クラスは確かにジャンルが豊富だ。しかし、個々の能力が高くても、武器の相性故に連携が取りにくい」
な、なるほど。確かに……。
「純粋な近接型は遠距離型にはリーチが負けるが、一気に攻め込んで叩くという戦国時代の戦のようなやり方をするそうだ。数もそれができるだけいるのだろう」
数は力という訳か。
なんか、近接型クラスが侍に見えてきた。
「そして、遠距離型クラス。充分な射程から相手を貫くのが主な戦法らしく、接近してもショットガンやマシンガンなどのタイプの魔宝具が道を塞ぐ」
ショットガンなら一発で広範囲な攻撃が可能だし、マシンガンなら連射が可能だからな。
「防御型クラス。武器は持たないが、圧倒的な防御力を持っていて弾丸や剣は一発では貫けない。盾や拳での攻撃をし、相手を気絶させるらしい」
防御力に特化したなら前進あるのみって事か?
なるほど、未分類型クラスはどれも中途半端で、連携も取りにくそうだ。
「そして、未分類型クラスが勝てない理由はもう一つある」
「もう一つ?」
「それは、数が少ないという事だ」
「え、未分類型クラスってそんなに少ないのか?」
「うむ。ざっと見てきただけだが、近接型クラスは二、三百はくだらない。遠距離型クラス、防御型クラスは百、二百程度だな。それに比べて未分類型クラスは三十五人……」
す、少なすぎる。
近接型クラスと比べて人数が十分の一……そりゃ勝てないわな。
どうりで俺達の寮だけ小さいと思ったんだ。
一学年で三十五ということは、三学年で百ぐらい。
未分類型の魔宝具が少ないのは仕方がない事か。
「そこで、純粋な近接武器と遠距離武器の二つを持つ君には我々と作戦に加わってもらいたい」
「どういう事だ?」
「実は、私がこの事を話したらやる気を無くす生徒達が続出してな。君達が最後の望みだ。ちなみに作戦に加わってくれそうなのは遥と……」
「遥と?」
「…………私だけなのだぁ!」
「あ、そう。それは残念だったね」
泣くこたぁ無いだろう。
俺達が最後って事は俺とセレス、そして駿とその先に帰ってしまったルームメイトか?
人数にして二十人以上も断られ続けたのか。
「安心しろ。俺も加わってやるから。セレスは?」
「私もやる」
「セレスティアさんがやるなら俺もやるかなぁ?」
「本当か!? ありがとう!」
嬉しそうにそう言うと、千鶴はテーブルに擦り付けるくらいに頭を下げる。
「よし、これで作戦に参加するのは五人になった訳だね!」
「では、残りのもう一人にも声をかけてみるとする。明日また話し合うとしよう」
すると、千鶴は猛ダッシュで走っていってしまった。
きっと駿のルームメイトにでも会いに行ったのだろう。
「一生懸命だな、千鶴は」
あの嬉しそうに喜んだ時の顔は、見ててこっちも元気になってきそうだ。
「君翼……顔が緩んでる」
「まさかお前、千鶴にも手を出そうってのか!」
「ちげぇよ! つか、『も』って何だ『も』って!」