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蒼空のセレスティアブルー  作者: 稲木グラフィアス
第一章《One-eyed Wizard》
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第一話《Blue Eyes》(2)


「はい、皆さん。今日初めて会う人も二度目の人もいますね。正式なクラス分けの結果、皆さんは私が担任の『未分類型クラス』になりまーす!」


 教壇から笑顔で話す花子先生は他所に、俺は隣の子が気になっていた。

 彼女は正式なクラス分けの時、俺に『早く退いてくれる?』と話し掛けてきた生徒で、《魔宝具(ワンド)》を《回帰刃(ブーメラン)》という特殊な形で持っている。

 なぜ、ブーメランが特殊なのか。

 まず、ブーメランは飛び道具にも近接武器にもなる。

 これは未分類型クラスにとっては普通の事。

 これからが特殊なのだ。

 遠距離型クラスに所属するのは飛び道具。

 つまり、対象にダメージを与えるのは弾丸や矢など。

 対し『近接型クラス』は剣や棍の、斬撃や打撃でダメージを与える。

 そしてブーメランは『斬撃を飛ばす』という動作が結果的に相手にダメージを与える。

 その点に関してはソーサーやクナイも同じだが、それらは投げたら一度、戻ってこない。

 なので、ソーサーやクナイを持つ人は糸やワイヤーで自分の体の一部に括り付けておく。

 しかし、ブーメランはそれがいらない。

 だから特殊なのだ。


「では、この蒼陣魔法学園について説明をしちゃいますね」


 そしてそれを持つのが、俺の隣に座る金髪碧眼……いや、空よりも薄い青の眼をした女子。

 名前をセレスティアと言ったか?

 本名ではないだろうな。苗字言ってなかったし。


「まず、皆さんに与えられた《魔宝具》は理事長の力で人を傷つけられないようにリミッターがかけられています」


 この学園は《魔宝具》の変化を妨げないように、個性の尊重するという事で、制服を自由にカスタマイズできる。

 それを彼女は制服に猫のフードを付けている。

 それはいいんだ。何で室内でフードを被っているのか、気になって仕方がない。


「例え刃で斬りつけても、弾丸で撃ち抜いても、体を通り抜けてしまいます。少しだけ痛いですけどね?」


 背筋を伸ばし、姿勢良く座ってる様にしっかりと前を見据える様はまるで西洋の騎士のよう。

 そこに猫型のフードがギャップを生んで、ある意味では注目を引きそうだ。


「ちょっと、八月朔日君。聞いてる?」


「は、はい!」


「もう。セレスティアさんばっか見て……一目惚れですか?」


「そ、そんな事ないですよ!」


「女の子からして見れば、嬉しい事ですよ?」


「だから違いますって! えっと、説明ですよね? 早く続きをお願いします!」


 教室中でクスクスと笑われ、恥ずかしくなる。

 別にそんなんじゃないぞ?

 ただ、綺麗な人だなと思ってただけだからな?

 下心は多分無かった。


「えー、この学園は全寮制です。毎年、各クラスで寮が分けられるのですが、人数が多く相部屋で、まぁ……希に? 人数の関係で男女の相部屋ができてしまったりします」


 確かに、この学園の生徒は多いよな。

 一学年で数百はいるんじゃないか?

 男子女子の人数がどちらも奇数だった場合とかは、やっぱりそうなるのか。


「で、皆さんの隣は同性のお友だちですよね?」


 ……は? 俺の隣のこの子は女子だよね?

 金髪碧眼で、顔も可愛いし。第一胸だってある。

 ……男女の相部屋?


「まさか!?」


「はい、八月朔日君とセレスティアさんは男女の相部屋です! 漫画みたいですね~」


『…………っ!?』


 その瞬間、花子先生の暖かな笑顔とは逆に、周囲から冷たい殺気が感じられた。

 なんなんだよ……。

 この蔑みとも違う、深い海の底から這い上がってきたゾンビのオーラにも例えれるような殺気の正体は?


「あ、あの。……空いている部屋は?」


「ありませんね!」


「そうですか……」


 畜生が……。

 まぁ嬉しいとは思うよ?

 でもね? 世間的に駄目なんだよ。

 別に不安がある訳でもないんだよ。

 自制はするよ? 俺はこの歳で犯罪者にはなりたくないしな!


「安心してください。学園の方がすぐに対策は練りますから」


「それが実行されるのはいつですか?」


「未定です!」


 それを聞いて、俺は机に静かに座った。

 冷や汗をかき、何かに怯えるようにして。

 だってそうだろ?

 俺が感じている、周囲からの殺気はつまりそういう事なんだから。

 お前ら……その気持ちなら、俺もよくわかる。

 俺にだってそんな時期があったさ。

 でも今となってはその殺気を向けられた相手の気持ちがはっきりとわかる。


「……何?」


「いや、セレスティアさんは何か言う事は無いのかなぁって……」


「むしろ興味がある。理事長の……いや、魔女の息子に」


 セレスティアの言葉と同時に殺気が一段と強くなった気がする。

 お前ら分かってるか?

 今セレスティアは『貴方に』とかじゃなく、『魔女の息子に』と言ったんだぞ?

 …………同じか!?


「もし、八月朔日君が不埒な行為をしたら言ってくださいね、セレスティアさん?」


「分かりました」


「いや、しませんよ!」


「そうですよね。八月朔日君は理事長の娘ですもの。私は信じてますよ」


「セレスティアさんに忠告しておいてよく言えますね! セレスティアさん、冗談言ってないで何か言ってくださいよ」


「……じゅるり」

『………………死ねばいいのに』


「……っ!?」


 今、セレスティアさんの言葉より気になる声が聞こえた気がするぞ!

 誰だ、俺の命を狙ってる奴は。


「ダメですよ、人殺しは良くありませんからね?」


「そういう問題じゃないと思います!」


「どういう問題ですか? 八月朔日君はセレスティアを襲うかどうかの問題ですか?」

『……………………ちっ』


「い、いや。襲いませんよ!」


「なら問題ないですよね! では決定~」

『……………………………………………ちっ』


 だから誰だよさっきから必要以上に殺気を向けてくる奴は!

 ちっ、ちちっち。舌打ちしまくりやがって!

 誰だ! と、振り返ってみる。

 すると誰なのかすぐ分かった。


「…………………………!!」


 オーラが違う。明らかに。

 怖いなぁ。しばらく無視しておこうか。


「えっと、あと説明しておく事は……何か質問ある人ー」


「はい!」


 と、手を挙げたのは俺が無視すべき男子。

 俺に必要以上に殺気を向けてくる奴。


「一人をボッコボコにしたいです!」


「んなっ!?」


「ダメですよ?」


 花子先生の回答に、その男子は残念そうにして座り、また俺に殺気を向けてくるのだった。

 無視できない。というか、鬱陶しい。


「他にはありますか? ……ありませんね~」


 半ば強引に締め切り、話を終わる。

 俺から見れば、まだ終わらないで欲しいんだが。


「じゃあ、今日の所は終わりです。明日から早速授業ですので、遅れないようにしてくださいね。あ、寮の部屋番号は生徒手帳に書いてあります。それではさよなら~」


 退場は早いようで、花子先生はそそくさと教室を出ていった。

 さて、俺も速やかに退場しなければな。

 こんな所に長居などしていたら、命の危険が……


「よう、八月朔日君?」


 あ、危ない……。


「き、君翼でいいよ。えっと……?」


「俺は十神(トガミ)駿(シュン)。魔宝具の形は《円盆刀(ソーサー)》だ。駿でいい」


 眼が怖いぞ、駿。

 そんな友好的な態度なら、その殺気の隠った視線を向けるのはやめてくれ。

 と、そんな事を言えるなら、俺は勇者になれると思う。


「まぁ、そんな事はどうでもいい。女の子と相部屋なんて羨ましいじゃないか」


 やっぱりそこかぁ!

 仕方ないじゃないか、俺の意思じゃないんだから!


「うん……。ラッキーだなぁ」


「あぁ、そして……アンラッキーだ」


「落ち着けよ。言いたい事は分かってるからさ。学園の方がすぐに対策を練るって言ってたじゃん」


 とにかく宥めないといけない。

 花子先生が言った事を繰り返してみる。


「へぇ……。その対策が実行されるのはいつだ?」


 それに合わせて、駿は俺が言った事を真似てくる。

 それに対し、俺は花子先生のように微笑んで見せる。


「未定です♪」


「…………きもっ」


「言ったな、テメェ!」


「お前がやったんだろうが!」


 火傷させやがったぞ、こいつ!

 俺の全力の作り笑いを『きもっ』で返しやがった!


「ねぇ……」


『あ?』


 今にも掴みかかろうとした俺達を止めたのはセレスティアだった。

 セレスティアは眠そうに眼を擦り、俺の袖を引っ張る。


「早く、部屋で寝たい」


「じゃあ先に行っててくれよ」


「ダメ、鍵は二人で取りに行かなきゃダメだって」


「……仕方ねぇ」


 渋々と鞄を担いで教室を後にしようとする。

 すると、後ろから駿の声がした。


「絶対にセレスティアさんに手を出すなよ!」


 出さねぇよ、絶対に。


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