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蒼空のセレスティアブルー  作者: 稲木グラフィアス
第二章《Kaleidoscope》
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第七話《Evil Arm》(2)


「さて、どうするか……」


 レティが帰ってきた日の翌日。

 俺は授業中にレティの事ばかり考えていた。

 レティとの戦闘になるのは必至。

 問題はそれに勝つ事ではなく、レティをどう抑えるかだ。

 『自分か相手が倒れるまで戦い続ける腕』、黒魔女の腕は感情の中の『怒り』に反応して起動する。

 自分か相手が倒れるまでなら、レティを倒す他には俺が負けるしかない。

 全力でやっても勝てるかどうか分からない相手だが、下手にわざと負けても、余計にレティの怒りを買うだけだろう。


「君翼……」


「ん、どうした。セレス?」


「やっぱり変。レティの事で何かあったの?」


「いや、何もないよ。ただ、接近戦での戦い方を考えてただけ」


「?」


 レティが納得できないという表情をするのは仕方がない。

 まだ俺の方が納得できてないのだから。

 レティが指定した日まで、まだ時間はある。

 千鶴に接近戦の鍛練を頼んでみるか。

 後は図書室や黒魔女の腕について調べてみよう。

 母さん……理事長には言わない方が良いだろう。

 言えば理事長が止めに入る可能性が高いし、レティには一人で来いと言われたのだから一人で行くべきだ。

 ついて来られたりしたら大変だ。


「よし、今日は終わりだ。お前ら、もうすぐゴールデンウィークだからって浮かれてんなよ?」


 いつの間に今日の最後の時間が終わったのか、まったく気付かなかった。

 ずっとぼーっとしていれば、セレスが不思議がるのは当たり前か。


「君翼……」


「ん……ど、どうした。セレス?」


 授業が終わってからのセレスは何故か不機嫌そうだった。

 俺がはぐらかしたのが分かってしまったか。


「最近、君翼が冷たいから」


 果たしてそうだろうか。

 しょっちゅう一緒のベッドで寝てるし、普通に話だってしてる。

 一緒に寝るのは良いとして、体をくっつけるのは止めてほしい。

 自制するのが大変だから。


「何かあったんでしょ」


「う……」


 セレスの鋭い勘が発動している。

 重ねて思うが、レティとの対決は内緒にしておきたいのだ。

 たとえセレスであっても言えるはずがない。


「……(じー)」


「…………」


 言えない。絶対に言えないっ。

 心の中でそう叫んで、黙秘してみる。


「……(じー)」


 どうあっても引きそうにさそうだ。

 セレスはおとなしそうでも、以外と頑固な所がある。

 その場合、俺が取る行動は……


「……あ、逃げたっ」


 逃走、だ。


「む、どうした君翼」


 廊下に出てすぐ、千鶴が立ちはだかる。

 その顔に悪意は無い。

 よって……


「千鶴、じゃあなっ!」


「ん、んん? 何なんだ?」


 千鶴をクリア。

 階段を降りてロッカーへ。


「君翼、待って!」


「何だかわからないが、待て君翼!」


 なぜクリアしたはずの千鶴がついてくるのか。

 そういう悪ノリはいりません。

 と、そこに厄介な奴等が現れた。


「ここは通さん、君翼っ」


「えっ、えぇと。止まって君翼君!」


 駿と夕火。このコンボはキツい。

 直接の接触は避け、進路を……


「な……っ!?」


 ガッチリとセレスに腕を捕まれた。

 しかし、これくらいなら振りほどけばどうって事はない。


「君翼っ!」


 しかし、セレスの叫びが俺の動きを停止させた。

 その隙に他の皆にも囲まれてしまった。

 八方塞がり……。四人だけど。


「さぁ、君翼。もう逃げられないぞ」


「何があったのか知らないが、話してもらおう」


「白状しなさい、君翼君」


「君翼……」


 顔が怖いぞ、お前ら。

 尋問でそんな怖い顔なんてしていたら、される側は怯えて何も言えなくなってしまうぞ。

 今まさに、俺はその状況下にある。

 どうにか逃げおせる事はできないか。

 正面はセレス、後ろが千鶴、左右に駿と夕火。

 どの方向に逃げようとも、必ず一人以上と接触するのは目に見えている。

 なら、一撃で突破できる相手が良い。

 よって答えは……夕火だっ!


「あまいっ!」


「何のぉっ!」


 威勢が良いように見えて、夕火は俺がどちらにくるのかわかっていない。

 遠距離型クラスでは間合いに入られた時よりも、間合いに入られないようにする戦い方を指導されていると聞いた。

 純近接戦闘型の戦い方を指導されている未分類型クラスの俺とでは、近接戦闘に入れば俺の方が有利だ。

 倒すなんて事はしない。ただ、夕火の姿勢を一瞬崩してやるだけで良い。

 一撃の後、全力ダッシュだ。


「なっ!?」


 夕火の手をするりと躱し、夕火の背中を手前に引く。

 体勢を崩した夕火の脇をするりと抜けてその先へ。


「よっしゃっ!」


 小さくガッツポーズをする。

 俺の後ろからセレスと千鶴の二日とが、更に後ろから体勢を立て直した夕火が走ってくる。

まずはどこかに隠れないとな。

 ……ん、二人?


「だが、しかしっ!」


「なん、だと……?」


 俺の目の前には駿がいた。

 バカな。一番俺から遠かった駿がどうして俺の目の前にいる?

 俺の事を追い越したとか?

 いや、それでもこんなに早く回り込むなんて ……まさかっ!?


「俺の逃げる方向を読んでいたのか」


「お前が夕火を突破しようとする事は、俺の予想通りだったんだよ」


 ドヤ顔を見せる駿。

 やられたっ。

 接近戦か一番不得意な夕火を選んだ事が、ここに来て裏目に出るとは。


「さぁ、君翼。観念して白状しろ!」


「って言うか、何でお前ら俺が何か隠し事をしてるって思うんだよ!」


「顔に出てる」

「見れば分かるな」

「君翼君に隠し事なんてできる訳ないでしょ」


 セレス、千鶴、夕火に即答されてしまう。

 そうか……。俺って何か隠してると顔に出ちまうのか。

 だが、まだ俺は諦めないぞ。

 これはレティのためだけじゃなく、こいつら全員のためでもあるのだ。

 どこかに突破口は……、


「行かせないよ、君翼」


 セレスに腕をガッチリと腕を掴まれた。

 ここまで徹底して捕まえようとされると逆に抜け出したくなるのは、俺の悪い所か。

 なら、ここは観念してレティとの事を話して……、いや。

 話して、着いて来ないように言っても、こいつらが素直に聞き入れる筈がない。

 だがらこそ俺はこうまでして逃げていたのだ。

 話せば分かってくれる、なんて事を実現させるには俺の右目の事や、レティの腕の事を話すくらいの事をしない限り無理だ。


「…………」


「…………」


「…………君翼」


 また黙秘してみようとした所で、セレスが口を開けた。


「君翼が抱えてる隠し事は、どうしても教えられない事?」


「…………」


 黙秘。しかし、顔に出ていたんだろう。

 セレスは次の質問を投げ掛ける。


「私がどんな要求をも飲むって言ったら、教えてくれる?」


「ちょっ、セレス。それは……」


「……いいぜ」


「君翼君……?」


 俺自身でも驚くくらい、口から溢れた声はとても重苦しかった。

 どんな要求をも飲むってんなら、ちょうどいい。


「ただし、皆にも飲んでもらうぞ?」


『わ、わかった』


 皆の了承を得たため、秘密を打ち明ける事にする。


「俺は今度、レティと戦う事になった」


 皆はキョトンとした顔をする。

 レティは魔女の娘である事を話していなかったんだったな。


「それが何だと言うんだ?」


「レティは俺と同じ、魔女の子だ」


「なんだと?」


「この事、そしてこの後の事もレティが秘密にしていた事だから、他言無用だ。いいか?」


 皆が頷く。よし、次だ。


「皆、レティの腕が包帯でぐるぐる巻きになっているのを見ただろ? あれには呪いが掛かっていたんだ」


『呪い?』


 さて、どこまで暴露するか。

 黒魔女の体の一部である事は、たぶん隠さなくてはならないし。

 呪いが掛かっていると言った以上、どんな呪いなのかを説明しなくては。


「それは一度戦ったら、勝敗が着くまで止まれないって呪いだ」


『!?』


 全員が息を飲んだ。

 嘘はついていないつもりだ。

 ニュアンスを変えただけ。


「それって、本当?」


 ………オブラートに包むくらい許してほしい。

 レティとの戦いにおける『勝敗』は、どちらかが倒れる事なのだから。

 理事長の魔法で、俺達の魔宝具では人は傷つける事は出来ないが、実際には殴る蹴るなどの攻撃は通じてしまう。

 魔宝具で無理なら、レティの腕は必ず俺を殴り倒そうとしてくるだろう。

 だが言えない。言えないんだ。


「まぁ、わかるだろうが、そんな腕と勝負する訳だから只では済まない戦いになるだろうな」


「じゃあ、私達も一緒に──」


「だからだよ」


 と、夕火が言い終える前に指摘して止めさせる。


「そんな勝負しなくちゃいけないって知ったら、お前達は絶対着いてくると思ったから言いたくなかったんだ。でも、お前達は俺のだす条件を飲むって言ったよな? そこで、俺が出す最後の条件はこれだ──」


 俺が言うことはもうわかっているのか、セレスがうつ向いてしまって何も言ってこない。


「──絶対に、俺とレティとの戦いに関与するな」


『…………えっ』


 内心、きっと『そんな事できるかっ』なんて言われるんじゃないかと思っている。

 その場合、どうしようか。

 俺と一緒に行こうとするのは、彼らなりの善意なのだから全否定はできない。


「レティは俺一人で来い、って言った。そこにお前達が一緒に来たら、レティの怒りを買うだけだろ。いいか、もう一度言うぞ? 絶対に、俺とレティとの戦いに関与するな」


 最早、誰も俺に意見してこない。

 これで良い。良い筈なんだ……よな?

 いや、良い筈だ。


「じゃ、また明日な」


 俺はその場の空気になってその場を走り去った。
















 俺が『明日からどんな顔をして皆に会おうか』なんて後悔したのは、そのすぐ後だった。






















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