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蒼空のセレスティアブルー  作者: 稲木グラフィアス
第一章《One-eyed Wizard》
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第一話《Blue Eyes》(1)

第一話《Blue Eyes》(1)


 俺、八月朔日(ホズミ)君翼(キミスケ)は不運な男だと思う。

 教室の窓から空を見れば、白い雲と蒼い空が見える。

 そんな当たり前の光景が、俺の不幸を忘れさせてくれる。

 ラテンの諺にこんな言葉がある。


『不幸な人は希望を持て。そして、幸福な人は用心せよ』


 しかし、俺に言わせれば不幸なんて物は連鎖する物だ。

 自分の不運さから来る不幸を例えるなら、ドミノを並べていたらペットがそれを倒してしまうような物。

 その時の脱力感は計り知れない。

 自分が重要だと思えば思うほど、それが失敗した時の落ち込みようは大きくなる。

 それを俺の身近な人物で例えてやろう。


『消息不明だった母親から居場所が分かる手紙が来たと思ったら、それと同封されて高校の入学許可証があり、《蒼陣魔法学園》というその名の通り魔法を学ぶ学校の物で、そんなキチガイ染みた学園に強制的に入学させられる男』


 そう、その男こそが俺だ!

 こうして誰に聞かれる訳でもない俺の心の中での愚痴は、心の奥深くへと消えていく。

 残るのは虚しさとやるせない気持ち。


「はぁ、何で俺がこんな所にぃ……」


 まぁ、俺の右目に埋まっている《呪の刻印》のお陰で魔力とやらはあるんだろうが、当然ながら俺は魔法についての知識なんて中二病程度の物しかない。

 しかし、それが宛になるかどうか。

 しかも、母親はその学園の理事長だと言うじゃないか。

 余計に緊張する。

 母親については殆ど覚えていないが理事長という立場上、しっかりとしてないといけない。

 そして俺はその息子。


「君翼く~ん」


 もう一度。俺、八月朔日 君翼は不運な男だと思う。

 教室の窓から空を見れば、白い雲と蒼い空が見える。

 そんな当たり前の光景が、俺の不幸を忘れさせてくれる。


「八月朔日 君翼く~ん」


 だからと言って、目の前の不幸が消えてくれるわけではない。

 そう、決して消えてくれるわけではない。

 俺は魔法に自体、関わりたくなかった。

 俺の右目に埋め込まれた《呪の刻印》は、実の父親による物だし。


「自己紹介を……」


 まぁ、この学園への入学を拒否すれば高校浪人してしまう訳で……


「君翼君!」


「あ、はい?」


「ほら、皆に自己紹介して」


「すいません」


「ここまで無視されたのは初めてだよぉ」


 と、先生はショボンとしてしまう。

 名前は確か『華道(ハナミチ)花子(ハナコ)』だったか。

 名前に似合って頭の中にお花畑がありそうな雰囲気だ。


「君の翼と書いて八月朔日 君翼です。どうもよろしくお願いします」


 俺の自己紹介が終わると同時に、生徒達がザワザワと話し出す。


「あの子が理事長の?」

「あの眼帯の下にはどんな彼がいるのかしらぁ」

「只単に中二病じゃねぇの?」

「夢を見させてよ。男子はこれだから……」


 はいはい。俺は理事長の息子ですけど?

 でもって出来損ないですけど?

 魔法なんて全く知りませんけど!?


「はい、皆さん。君翼君は中学校は一般の学校に通っていて、魔法がどんな物なのかよく知りません。皆さんで助け合ってくださいね~。はい、忙しくなりますよ、次の時間はクラス分けです。せっかくクラス分けの前に話せるんだから、今の内にどんどんお話して仲良くなりましょう」


 そう言うと、花子先生はスタスタと教室を去って行ってしまう。

 花子先生が扉を閉め、足跡が遠ざかる……その瞬間。

 ん、クラス分け?

 しかし、考える暇は無く……


「はい、八月朔日君に質問!」


 と、俺への質問が殺到するのだ。

 ……まぁ、良いんだけどさ。

 俺だって友達が出来るのは良い事だと思ってる。

 中学の頃までは疫病神だと言われて、友達どころかいじめを受けていた位だ。


「ねぇ、八月朔日君の眼帯って何でしてるの?」


 はい、まずは直球ストレート。

 ど真ん中を貫いてきましたね。


「まぁ、若気の至りだ」


「理事長の息子なんでしょ? 理事長って家ではどんな感じなの?」


 息を付かさず、またまたドストレート。


「母さんは、俺の小さい頃から行方がわからなくなっててな。最近になってここにいるって知ったんだ」


「へぇ~。じゃあお父さんは? やっぱ魔法使い?」


「親父は違うよ? 只のオカルト好きな人」


 しかし、俺の右目をこうしたのは俺の親父なのだ。

 科学的な力でこんな事ができるはずがない訳で、実は親父も魔法を使えるんじゃないだろうか。

 もしそうだったら、ここに来る前に教えてもらえば良かったか?


「成る程~。普通の学校に通ってても、魔法に触れる機会はあったんだ……」


「そんなんじゃねぇよ。あくまで熱中してたのは親父だけだったし」


 実際、過去に何回か誘われた。

 一緒に悪魔を召喚しようと言われて、部屋に連れ込まれたり。生け贄になれと冗談で捕まえられたり。

 それはもう酷い目にあったさ。

 中二病になりかけた頃の知識は親父の部屋の本を読んだ物で、これは読書の内だと言われて読んではいたが……。


「全然、全くもって、一ミリも理解不能だったし……」


「まぁ、魔法は難しそうだからねぇ」


『~♪《チャイム》』


 予鈴がなり、生徒達はゾロゾロと自分の席へと戻っていった。

 そう言えば、花子先生が『クラス分け』と言っていた気がする。

 俺が今いるクラスはクラス分けの結果ではないのだろうか?


『ピンポンパンポーン♪ えー、生徒の皆さんは至急、大講堂へ集合してください。正式なクラス分けを行います』


 俺の考えた事は皆も同じらしく、ざわざわと急に騒がしくなる。





















 クラス分けというのは、簡単に言うと『能力別クラス』に分けるというものだった。

 現代では魔法は衰退して、何の助けも要らずに魔法を使えるのは《魔女》と呼ばれるくらい人しかいないらしい。

 つまり俺の母親がその例。

 そこで、そんなレベルではない俺達が魔法を使うには《魔宝具(ワンド)》という道具が必要になる。

 《魔宝具》とは魔法を使うための、いわゆる杖の役割を果たす物。

 《魔宝具》は常に持ち主の微妙な魔力の波長とやらの変化を感知して変化するらしい。

 第一段階から第四段階までランク付けされており、一定の変化を遂げる事によって一段階上がる。


・第一段階《フェイズⅠ》

 《魔宝具》の形がハッキリしておらず、光の粒子が集まっただけの、曖昧な形を象っている状態。


・第二段階《フェイズⅡ》

 《魔宝具》の形が固体化する。

 ここで《魔宝具》の特性が決まる。

 また、名前も決まる。


・第三段階《フェイズⅢ》

 《魔宝具》に独特の能力が付く。


・第四段階《フェイズⅣ》

 《魔宝具》に光が宿る。

 ここからの先の段階は未だ見られていない。


 これが正式なクラス分けの説明だった。

 なお、《魔宝具》は多彩に変化する物だが、武具以外にはならないそうだ。

 それを踏まえて分けられるのが『近接型クラス』『遠距離型クラス』『防御型クラス』『未分類型クラス』の四つのクラスで、名前の通り『近接型クラス』は剣や槍。

 『遠距離型クラス』は銃や弓。

 『防御型クラス』は鎧や盾。

 そして『未分類型クラス』は、他の三つのどれにも属さない。

 もしくは複数の特性を持つ物。

 例えば銃剣、ソーサー、クナイなどの近距離、遠距離どちらの戦闘も可能な物。

 ただし、どれも一つの特性が高い物だ。

 銃剣だって、本来は遠距離武器としての特性が強いし、クナイだって本当は飛び道具だ。

 その筈なのに……


「《異端者(イレギュラー)》?」


 誰かが俺の《魔宝具》を見て、そう呟いた。

 俺の《魔宝具》はおそらく『未分類型クラス』に所属する物だろう。

 何故なら、俺の《魔宝具》は銃と剣の両方の特性を高いレベルで持つ武器だからだ。

 右腕に装備する斬撃兵装で、刀身を折り畳むことで銃身を展開してライフルになる。

 名称不明。

 近接型と遠距離型という広い攻撃有効範囲を持つ反面、取り回しではほかの武装よりも劣るだろう。


「八月朔日君のクラスは『未分類型クラス』で決定だね」


 花子先生が嬉しそうに言う。

 これで俺は《魔女の息子》の他に《異端者》というレッテルを不本意ながら手に入れてしまった。

 不本意ながら!(大事な事なので二回言っておく)


「早く退いてくれる?」


「お? あぁ、ごめん」


 自分の《魔宝具》をじっくりと見ていたかったが、後ろの生徒に急かされてしまった。

 後でもう一度ゆっくり見させてもらおう。

 そう思って列を離れ、先生に言われた通り『未分類型クラス』の教室へと向かった。


「これは……《回帰刃(ブーメラン)》?」


 俺が大講堂を出る瞬間、大講堂が再び騒がしくなった。


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