第六話《Propose》(1)
「…………!?」
目覚めて俺がいたのは寮の部屋のベッドの上だった。
いつの間に寝たのか。俺はさっきまでレティと屋上にいた筈。
「夢だった、……そんな訳ないか」
思えば、衰退した魔女の家系なんて、現実味が沸かない。
それ俺が只単に無知なだけかもしれないが。
「ん……」
隣のベッドではセレスが俺のベッドで寝ている。
つまりここはセレスのベッドだ。
と、そこで俺は一つの可能性に気づいた。
昨晩、俺はレティと会話を終えると、レティが突然魔法を使いだし、俺の目は誰かに塞がれてしまった。
そこからの記憶がないが、そこで俺が眠らされてしまったとしたら、俺の体をここまで運んだのは誰だという事になり。
それはもちろんレティしか考えられない。
だとしたら驚いただろうか。
俺の住んでいる部屋に女子がいる事に。
ならば俺がセレスのベッドで寝ていた事にも頷ける。
「着替えるか……」
昨晩の事が夢でないなら、もしかしたらレティが未分類型クラスの食堂に来ているかもしれない。
さすがに気が早い気もするが、あの強引さ……どうなるかわからん。
「求婚!?」
「声が大きいぞバカ」
回りの皆の視線が集まるじゃないか。
「き、球根ってチューリップが咲くんだよなぁ……」
まったく、驚くなよと言っておいたのに。
駿がよくわからん誤魔化し方をしたのは置いといて。
「で、レティ・アークライトだったか?」
取り乱す駿とは真逆で千鶴は冷静だ。
「あぁ、やっぱりセレスが見つけたあの銀髪でショートツインテールの奴だった」
「…………(じとー)」
セレスの視線がいつもより強い気がする。
「ねぇ、君翼君。そのレティって子は動物に例えるとどんな感じ?」
もう慣れてきたような気がするが、夕火は朝も未分類型クラスの食堂に来ている。
彼女曰く、朝の軽いジョギングにもなっていて一石二鳥なんだとか。
因みに、遠距離型クラスの寮からこの寮までは防御型クラスの寮を挟んでいるから、距離にしてざっと400メートル程。
「あ? 何だよ急に」
「いいじゃない。どんな感じなの?」
「うーん、あの元気な感じは……犬かな」
「「ふぅ~」」
なぜか夕火だけでなくセレスまでもが、安心したような声を出した。
皆レティに興味津々なのか、結構話題が膨らむ。
只、レティの言う通りに魔法が使える事や魔女の家系の事は黙っておいた。
あくまで、クラス対抗バトルロイヤルの時に惚れたらしい。そういう事で話を進める。
「で、そのレティとやらは今日から君翼と行動を共にする。そう言っていたのだな?」
「そうらしいけど」
今日から未分類型クラスの食堂に来ると思っていたが、今は来ていない。
「しかし、そいつは近接型クラスの生徒だったのだな?」
「うん」
「なら、行動を共にするとはどういう意味だ?」
それは俺も考えていた。
クラス対抗バトルロイヤルでの決闘から、一緒に行動するようになった夕火と同じで、度々教室や食堂にやって来るのか。
それとも別の方法があるのか。
「私なら一緒にいられる時間はいつでもいたいわね」
「例えば?」
「えっと、食事時、休み時間、放課後とか。全部合わせると結構な時間になるわよ? 休日はもっと増えるし」
「休日も来るのか……」
いつか鬱陶しくなりそうだ、まぁ言わないで置くけど。
と、考えが表情に出ていたのか、夕火は俺の顔を見てムッとする。
「何よ、別にいいじゃない。学園に来てからの休日は、貴方が入院してて休日らしい休日を送れてないのよ」
「別に好きな事をしてればいいじゃないか」
「だから、お見舞いに来たでしょ?」
「まぁ、それは礼を言うけど」
もっと自分に有意義な事をすれば良かったんじゃないか、という事だったのにな。
「そう言えば、もうすぐゴールデンウィークだな」
駿が思い出したように言う。
成る程、もうすぐ四月も終わりに近づいているのか。
「皆は休み中は何する?」
「私は一度、道場に顔を見せに行こうと思っている。父も道場仲間も、皆この学園の事に興味を持っていたからな」
「私も家に帰るつもり。妹と弟は寂しがり屋だから」
夕火の家族ってどんななんだろうと思っていたけど、妹と弟がいるんだな。
「そうか、皆それぞれの家に帰るのか」
「君翼は帰らないのか?」
「まぁ、そうだな」
「なんでさ」
「家に帰れば親父がいるけど、長らく会えなかった母さんと一緒にいたいってのもあるかな。あ、でもゴールデンウィーク末には一旦帰るよ」
「ゴールデンウィーク末……」
「ん、何だって? セレス」
「な、何でもない」
セレスって希に小さく呟くけど、何て言ってるか分からないんだよな。
それについて聞けば『何でもない』で済まされるし。
「セレスはどうするんだ?」
「私は……私も学校にいる」
「やっぱりセレスティアの家は外国にあるのか?」
千鶴の問いに、セレスはコクリと頷く。
やっぱり『セレスティア』という名前は本名か?
なら苗字を隠したかったのだろうか。
「じゃあ俺の家に来るか?」
『えっ!?』
「なんで皆が驚くんだ」
「うん。行くっ」
「そ、そうか……」
セレスが目を輝かせる。
何がそんなに嬉しいんだ。
「じゃあ私も行く!」
「なぜ夕火まで!?」
「ハーレムなんかにさせるもんか。俺も行く」
「では私も制止役として行こうか?」
「皆来るのか。別に面白い物なんてないぞ?」
俺は別に構わないけど、駿は男だから良いとして、女の子を三人も家に連れてくなんてな。
まぁ一人から三人に変わっただけで、あまり変わりはしないんだろうけど。
「じゃあ僕も行こうかなぁ」
「ドワォ!?」
いつの間に俺の背後にいたのか、レティがひょっこりと登場した。
ニヤニヤと笑いながら、当然のように椅子に座る。
「レティ、どうしてここに……」
「何を言ってるの。僕は今日から君翼君と行動を共にするんだよ?」
「えっと、君がレティ・アークライトか?」
千鶴の問いに、レティはケロッとして答える。
「うん、僕がレティ・アークライトだよ。何、君翼君。自分の将来のお嫁さんを皆に教えてたの?」
『お嫁さん!?』
駿だけでなく、他三人まで大声を出すとは。
しかも息ピッタリだ。
「声が大きいぞ、お前ら」
「お、よめ……む…………、お嫁さんになりたいって、小さな女の子はよく言うけど、あれってどうなの?」
「しら、知らんな。私は剣道一筋だったからな」
うん、隠すのではなく別の話にしたのか。
意味無いと想うぞ、それ。
「それは違うぞ、レティ。お前がおかしな手紙を寄越すから、皆に相談したんだ」
「隠そうとしたけどな」
駿、五月蝿い。そんな事を思って駿を睨むと、以外と素直に引き下がってくれた。
「単眼で睨まれるって、怖っ」
単眼言うな、片眼だ。眼帯なのっ。
「え、ダメだった?」
「いや、手紙は良いとして。中身だよ」
「今夜、お部屋にお邪魔します?」
「そう、それ。夕火が夜這いとか言い出すから大変だったんだぞ」
「あんな文だったらそう思うに決まってるじゃない」
「ごめんね。でも夜這いはやり過ぎかなって」
結局、部屋に来たのはレティ本人ではなく、レティが魔法で作り出した『影』だったんだよな。
まぁ、夜這いじゃなくて良かった良かった。
「で、君翼君はゴールデンウィーク末に家にいるの?」
「う、うん。そうだぞ」
俺の家に来ると言っていたけど、住所をまだ言ってない。
勿論、皆にもだ。
後で教えておくつもりだったが、レティが家に来て親父の事を『お義父さん』とか呼んだりしたら混乱が起きそうだ。
「住所、………………だよね?」
「なっ!?」
そっと、レティが俺の家の住所を耳打ちしてくるが、それがドンピシャだった。
「既に調査済みです」
「こ、このストーカー!」




