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蒼空のセレスティアブルー  作者: 稲木グラフィアス
第二章《Kaleidoscope》
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第五話《Blindfold》(5)

 時刻は午後11時。

 俺とセレスは手紙の事が気になって眠れなかった。

 恐らく俺だけではないだろう。

 自分達の部屋に戻った他の三人も気になっている筈。

 もう一度、手紙を広げて読む。


『今夜、お部屋にお邪魔します。


           By レティ・アークライト』


 いくら読み直しても、その文面が変わる事はない。

 せめて時刻だけでも書いてくれればよかったのに。


「…………」


 セレスなんかは必死に眠気を堪えながらベッドに座っている。しかし、そのベッドは俺の。

 たまに洗面所に行って顔を洗ってくる。


「先に寝てて良いんだぞ、セレス」


「…………(フルフル)」


 眠気眼をパチパチとさせながら首を横に振る。

 俺は手紙の主が来るという事で、眠る訳にはいかない。

 セレスは自分が寝ている間に知らない人物が来るのが心配なのだろうか。


「誰か来たら起こしてやるから、ほら寝てろ」


「…………(コクリ)」


 セレスは俺のベッドに横になると、間もなく寝息を立て始めた。

 俺はその枕元に座り、手紙の主を待つ事にした。

 ふと、セレスの寝顔に視線を落とすと、俺が入院していた頃のセレスの事を考えた。

 俺が龍になってセレスを襲う、という内容の夢だったらしいが、俺が入院中はその夢を見ていたのだろうか?

 入院中、夢についてインターネットで調べた所、夢に置ける『龍』は難題や成就を意味するらしい。

 一つ『龍が人間になって、立ち向かう』というのがある。

 これは『事業が成功するが、その途中で数回の難関がある』という意味だ。

 信憑性はあまりないが、似たような意味を書いてあるページは沢山存在していた。

 セレスの場合は『人間が龍になって、襲ってくる』らしい。

 これはどんな意味があるのだろう。


「…………っ…………」


「ん?」


 セレスが寝言を言っているが、うまく聞き取れない。

 耳を近づけてみると……


「君翼、ダメ……」


「何がダメなんだ……」


「ふふっ…………」 


 幸せそうに笑う顔からも、何がダメなのかさっぱり思い付かない。


「喉が乾いたな……」


 飲み水欲しさに立ち上がると、水道へと向かう。

 しかしそこで、俺は異変に気づいた。


「暗い……」


 セレスが寝ている事もあって、電気を小玉だけにしている事もあるが、そうではない。

 光がまったく届いていないような『闇』が水道周辺を覆っていた。

 そして、その奥に何やら気配を感じた。


「誰だ……」


「…………」


 一歩進むと人影がうっすらと見えた。

 手紙の主かもしれない。それでもノックぐらいしないとはどういう了見か。


「おいっ」


「……レティ」


 人影が話し出す。


「レティ・アークライト」


 人影は手紙に書いてあった差出人の名前を呟いた。


「お前が手紙を?」


「一人で屋上に……」


 俺の質問に一切気を留めずそう言うと、人影はうっすらと消えた。

 闇が少しずつ薄れ、光が戻る。

 水道には初めから誰もいなかったかのように静寂で包まれていた。


「はっ?」


 レティ・アークライトと名乗ったあの人影は確かに『一人で屋上に』と言った。

 何を企んでいるのか。そんな不安が過るが、俺は寝ているセレスをそのままに、コップ一杯の水を飲んで部屋を後にした。

 廊下に出ると、電気の小さな光が足元を照らすだけで、大変不気味な様子だった。

 辺りを見回し、人気が無い事を確認すると、階段を上っていく影が見えた。

 はじめは見回りかと思いきや、電気の明かりでそれはこの学園の制服をきていた事がわかった。

 しかし、その上っていった階段は俺とセレスの部屋から見て遠い方の階段だった。

 不思議に思っていると、ふと人影が戻ってきた。

 階段から顔を覗かせて、手招きをする。


「ついて来いって事かよ……」


 なるべく音を立てないように、廊下を進んでいく。

 階段を登り、そこで俺はその理由に気づいた。

 廊下の反対側で、見回りが下の階に降りて行くのが見えた。

 つまり、アイツは見回りを回避するためにわざわざ遠い方の階段を使っていたのだ。


「あのまま近い方を使ってたら、鉢合わせだったな」


 冷や汗を拭って、上へと上って行く。

 いつの間にか影は消えていたが、その代わり屋上へは一直線だった。

 そして屋上へと続く扉の前。

 俺は扉の向こうから聞こえる歌に足を止めた。


『~♪』


 扉を少し開け、その隙間から覗いてみると、そこではあの短いツインテールの女子が月明かりに照らされながら踊っていた。


「~♪」


 月の光が反射して、彼女の銀色の髪がキラキラと輝いて見えた。

 『躍りのジャンルは何だろう』や『見回りはここまで来ないだろうか』などの思考は一瞬にして消え去っていた。

 もう少し近くで見てみたいと思って扉を押そうとするが、その手はすぐに止まってしまう。

 今になって『俺が現れたら、躍りを止めてしまうのではないか』と思考が回ってしまったのだ。

 だが、そんな事を考えている俺の背中を誰かが押した。

 その拍子に扉を大きく音を上げて開いてしまった。


「やっと来た」


 予想通り彼女は躍りを止めてしまうが、どうやら驚いたから止めてしまったのではないようだ。

 待ちくたびれたと言わんばかりに、彼女はため息をつく。


「はい、お疲れ様」


 そう言う彼女は俺の後ろを見ていた。

 振り返ると、そこには彼女がいた。

 しかし、振り返って見た彼女は、すうっと消えていった。


「それはね、僕の影」


 自分の事を『僕』と呼ぶとは珍しい。

 が、心の中に留めておく。

 もう一度振り返るとやはり彼女はそこにいて、俺の疑問を分かっているかのように話し出した。


「影?」


「そう、影。今、僕の魔宝具無しで使える唯一の魔法」


 その言葉に俺はまた驚く。

 魔宝具無しで魔法が使える魔法使いは、最近ではかなり珍しい存在だからだ。

 そう簡単には信じられないというのが本音だ。

 魔宝具無しで魔法が使う魔法使いといったら、魔女と言われる人達くらい。

 それがまだ一年の魔法使いがそうであるなら、彼女はかなり有名な筈。

 そう、魔女の息子である俺以上の存在だ。


「どうかした?」


「いや、正直に驚いてるだけだ」


「そうだろうね。あ、この事は内緒だよ?」


 人差し指立て、自分の唇に当てて微笑む。

 その様子が、どこか妖艶な雰囲気を醸し出す。


「どうして?」


「だって僕、有名になる事を良いとは思えないんだ」


「尚更、どうして?」


 そう言うと、彼女はうーんと考え込んでしまう。

 考え込む事だろうか。

 嘘……なんて事は無いよな。


「ま、何でもいいじゃん」


「いいの!?」


「その前に自己紹介させてくれるかな。手紙にも書いたと思うけど、僕の名前はレティ・アークライト。よろしく、八月朔日君翼君」


 俺の疑問などお構い無しに話題を変える。

 レティ・アークライトは本名のようだ。


「よ、よろしく」


「アークライトって長いから、レティでいいよ」


「わかった……」


「やっぱり、どうかした?」


 レティは俺の顔を覗き込んでくる。

 もう一度さっきの躍りを踊ってほしいというのは、この場に相応しくないような気がする。

 あ、でも。聞くだけなら良いんじゃないか?


「さっきの躍りだけどさ」


「ん、見てたんだ?」


「すまん」


「別にいいよ。別に見せても良いんだけど、さっきの躍りは魔法を使うために踊ってたからなぁ」


 レティら恥ずかしそうに頬をかく。


「魔法を?」


「そ、まだ魔女みたいに魔法陣を描くだけじゃ発動できないから、儀式のために踊るの。僕の場合はそれが躍りだから、魔法を使うのにも一苦労だよ」


「そんな物なのか?」


 そんな物、というのは魔女は魔法陣を描くだけで魔法が使えるという所だ。

 そこに俺は母さんとの差を感じる。

 母さんは魔女なのだからそうなのだろうが、その息子である俺はまったく使えない。

 魔宝具を持っていなかったら、俺は只の浪人生だ。

 この学園に来てすっかり忘れていた。


「そんな物なの。私の家系はね、もとは魔女の家系だったんだよ。大昔の話だけどね」


「えっ?」


 さっきから驚かされてばかりだ。

 もはや俺はレティの足元にすら及ばない。


「でも、いつしか魔力を持つ血筋が少なくなっていて、僕のお母さんは魔宝具すら使えなくなっちゃったんだよね」


「でもお前は、魔法が使えるんだよな」


「それは、僕がちゃんと修行してたからね。で、僕が君翼君をここに呼んだ訳を言っていいかな?」


「お、おう」


 ようやく本題に入れる。そんな顔をしている。

 レティは俺に近寄り、真っ直ぐに見つめる。

 見とれてしまうほどの澄んだ瞳。

 彼女は何かを覚悟している様子だった。


「僕……いや、私と結婚してください!」


 …………はっ?


「ひゃー、恥ずかしい! この僕が『私』なんてぇ!」


「え、そこに!?」


「だって、こんな場面だもん。礼儀は必要だと思って」


 突然の求婚にレティは顔を赤くしてしまう。

 つか、レティが俺に求婚したんだからな?

 むしろ俺の方が顔を赤くする場面だ。いや、実際してるんだろうけど、今はそうじゃなくて。


「いやいやいや、早くない? せめて『付き合ってください』じゃないの!?」


「僕の家は魔女の家系だって言ったでしょ? だから、同じ魔女の子である君翼君と結婚する事は……えっと、政略結婚って事になるのかなぁ?」


「いや、政略結婚か否かはどうだっていいんだよ」


「いいの? やった!」


「都合の良い耳してんな! 言っておくが、俺は了承した訳じゃないからな? 言っておくが、了承した訳じゃないからな!」


 大事な事なので二回言いました。


「ちぇー」


「ちぇー、じゃないだろ」


 政略結婚なんて言ったら、もはや俺がどうこうできる話じゃないだろう。

 政略って言うくらいだから、母さんにも話をつけて……って、俺は何をその気になってるんだ!


「あのな? 勘違いしてるんだろうから言っておくが、俺は魔女の息子だからって特別魔力も強くないし、外の高校に落ちたからこの学園に来ただけだし。それに俺といたら……」


 待て。俺は今何を言おうとした?

 『それに俺といたら……』……不運に見回れる事になる。

 ダメだ。この右目の秘密はあまり人に知られたくない。

 遥にはバレてしまったが、彼女の所在はわかっていない。


「俺といたら?」


「いたら……何でもない」


「え、何なの?」


「き、気にするな。とにかく俺は……」


「どうしたら、了承してくれるの?」


「え?」


 俯いたレティは拳を握り、体をプルプルと震わせる。

 泣いて……いるのだろうか?


「僕はね、両親が薦めたからってだけで君に求婚した訳じゃないよ。この前のクラス対抗バトルロイヤル……遠くから君が見えた。途中で見失っちゃったけど、その統率力、カリスマに僕は惚れたんだよ」


 段々と涙声になっていくのがよくわかった。

 本気のレティを、俺は誤魔化してこの場を切り抜けようとしてしまった。

 それは恥ずべき事だと俺は思う。

 でも、本当に俺では決められない。

 第一、俺はレティの事を自己紹介された以外の事を全くといってしらない。

 これから知っていけばいいなんて言葉があるけど、俺はそれには賛成できない。


「俺はさ……まだ高1で、まだ人生経験が浅くて……。でも、レティが嫌いとかでもなくてさ。好きでも嫌いでもない、って所にいるって言うか。とにかく俺では決められないんだよ」


 言葉を探しながら話す。

 そんな俺の様子を見て、レティはため息をつく。


「…………、……君翼君では決められない。って事は親や回りの人から認められれば、それに従うってことかな?」


「今は分かんないけど、多分従っちゃうんじゃないかな」


 本当に嫌いな奴なら、俺は絶対に断る。

 それができないから俺は今困ってるんだ。


「じゃあ、今度から僕は君翼君と行動を共にさしてもらおうかな」


「な、なんでそうなるんだよ」


「だって、好きでも嫌いでもない所にいるんでしょ? だったら僕が『好き』の所に入れてもらえるようにアタックすればいいんじゃない!」


「いや、そういう事じゃなくてだなぁ」


「ハッキリする! 男の子なんだから」


「は、はいっ!」


 ピシャリと言い放たれた言葉に、俺は思わず気を付けをしてしまう。

 レティはクスクスと笑った。


「明日から僕、未分類型クラスの食堂でご飯食べようなぁ」


 まずいな、これは夕火と衝突しそうだ。

 かと言ってレティは本気なようだし、夕火は引きそうにないし。

 しばらくは修羅場で飯を食う事になるか。


「じゃ、お休み。君翼君」


「え、あぁ。お休み」


「~♪」


 突如、レティは再び踊り出す。

 さっきの会話から、レティが踊るのは魔法を使う時。

 そして、その魔法というのが影の召喚で……。

 と、そこまで考えた所で俺の目を何かが覆った。

 真っ暗で何も見えない。

 何も…………、……………………。


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