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蒼空のセレスティアブルー  作者: 稲木グラフィアス
第二章《Kaleidoscope》
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第五話《Blindfold》(3)

 走り終え、少しの休憩をとる事となる。

 水道で水を飲んでいると、千鶴が話しかけてきた。


「すまん、君翼……」


 小声で、誰かに聞かれないようにしているようだ。


「まさか、千鶴も感じたのか?」


 回りを見回しながら、平然を装って水道で顔を洗う。


「確かにこれは……相談するのに戸惑うな。すまん」


「俺も悪かったよ。今度からなるべく千鶴にも相談するようにする」


「『なるべく』とは何だ、『なるべく』とは。やはり私は信用されてないのか?」


「そうじゃなくてさ。心配をかけたくないんだよ、人に」


「つまり、どういう事だ?」


「セレスとはルームメイトだから、いつか俺が感じてた視線に気付くだろうって思ったから相談できたんだ。それに比べて千鶴は俺とは部屋が別だから、書くし通せると……」


「やはり、信用されていなかったのか」


「千鶴? 話を……」


「ふん、ならば私と戦え。そして私の力量を計るがいい」


 まずい。千鶴は視線の事を完全に忘れているようだ。

 さっきの流れからして、千鶴がこうなったら人の声が聞こえなくなってしまうのだろう。

 せっかくクールダウンしたのを、また掘り返してしまった。

 千鶴のスイッチがどこにあるのか検討もつかない。


「ではな、君翼」


「あ、おい」


 本当に俺の声が届かないようで、一度も振り返る事なく去っていった。

 一人取り残された今の俺には視線は感じられなかった。


「君翼っ」


 すると、今度はセレスが駆け寄ってきた。


「みつけたっ」


「何を?」


「誰の視線か。……ほら、あそこ」


 そう言ってセレスが指差したのは、近接型クラスの教室。

 その窓際に一人、グラウンドにいる未分類型クラスの事をじっと眺めている奴がいた。

 遠くて顔までは分からないが、銀髪を後ろで二つに束ねている。

 いわゆる、ツインテールって奴か。

 奴のツインテールは肩までしかなく、短めだと思う俺は偏見だろうか。

 まぁ、それはいい。


「本当に?」


「何度か目が合った」


 見ている事がバレても尚、偵察を止めない。

 その理由は何だ?

 何故、そこまで偵察をする?

 実戦型テストまでは、一ヶ月あるというのに。

 理論派なのだろうか。


「後でちょっと……」


 と、その瞬間。そいつの顔が動いて俺の方を向いたように見えた。

 しかし、俺が見ている事に気がついたのか、そいつはカーテンを閉めて身を隠す。


「何がしたいんだ、あいつ?」


 セレスとは目が合っても偵察を止めないで、俺が見ている事に気がついた瞬間に隠れる。

 セレスが見ている事に気がつかなかった?


「おいっ、君翼。そろそろ始めるぞ!」


 そんな俺の思考は千鶴の声に蹴散らされてしまう。

 何故って、千鶴を無視するのは怖いと思ったから。

 そして、休憩時間が終わるから。


「ふふん、君翼。この私の剣さばきを見るがいいぞ」


 魔宝具を既に展開して、それをブンブンと振り回す。

 やる気は十分、しかし空回りには注意しなければならないが……千鶴は分かってるよな。そういう所は。


「仕方がない。すまんな、セレス」


「うん、頑張って」


 こちらも魔宝具を展開すると、ソードモードで待機。

 千鶴の武器は《蛇腹刀》。

 近距離から中距離の攻撃範囲を持つ武器。

 俺の《変形型》は近距離と遠距離のどちらかだ。

 中距離は不利になるが、千鶴は恐らくそこを突いてくる筈。

 俺が取るべき間合いは遠距離なのに、俺は銃の扱いが不馴れな上に、千鶴の力量を計るつもりだ。

 ならば近接戦闘で蛇腹刀のリーチを生かせなくした方が得策か。


「では、始めっ!」


 と、先生の合図と同時に千鶴の魔宝具の刀身がバラバラになる。

 千鶴は鞭状になった刀を見事に振り回す。

 刹那、連なった刃が俺に襲い掛かる。

 これを剣で防いではいけないと本能的に判断し、俺はわずかな隙間を駆け抜けて間合いを詰める。

 半拍遅れて刃鞭がくねり、俺の行く手を阻む。

 刃の一つが地面に刺さり、そこを支点にして刃鞭が波を作る。

 千鶴の手の動きに合わせて動く刃の蛇は、不規則な動きを見せて俺に襲い掛かる。

 後ろに戻る訳にもいかず、前と横を包囲された状態では逃げる事はできず、剣で刃のを弾くと、捕らえられる前に矛先を千鶴に向けて突く。

 この時点で、間合いは鞭状の蛇腹刀は不利な状況に陥る。

 千鶴は俺の突きを躱しながら刃を巻き戻し、二撃目の横凪ぎを刀になった部分で受け止めた。


「君翼、以外とやる」


「そういう千鶴こそ」


 千鶴の動きはセレスに比べて遥かに遅い。

 セレスと訓練をしているからこそ、相手の動きが段々と見えるようになってきた訳だ。

 相手の攻撃に半拍遅れて行動するのでは遅すぎる。

 遥との戦いがそれを示していた。

 あの時、俺の右目が見えない事を良い事に、俺の右側からの攻撃を主としていた遥だからこそ、俺は右側に注意を置いて戦っていた。

 だから持ちこたえられた。

 結局、勝った訳でもなく、負けたわけでもなく。

 俺が屋上から突き落とされて戦いと俺の瞼は閉じた訳だが……あれ、それって俺の負けか?


「…………またっ!?」


 また視線。恐らく実戦訓練中の戦い振りを見たいのだろうが。


「なんだ、君翼。真剣勝負の途中で……」


「気づかないのか、千鶴」


「真剣勝負の途中で他の事を気にする程、私は器用ではないな!」


「くっ、……なら!」


 戦力をじっと観察されるのは穏やかではない。

 心のイラつきを蛇腹刀を力で押し返す形で表す。


「圧倒された!?」


 千鶴は腕力に自信があったのか、驚愕を露にする。

 それもつかの間、千鶴は素早く間合いを取り、蛇腹刀を鞭状にする。

 だが、その一瞬の隙を俺は見逃さない。

 当たり前だが、蛇腹刀が鞭状から刀状にする時、攻撃に移るまでに僅かながらタイムロスが生まれる。

 初めの一撃と、俺の攻撃に対応する時にそれを確認できた。

 つまり、その隙に間合いを詰めれば急所を狙える。


「…………っ」


 しかし、俺渾身の逆袈裟斬りはいとも簡単に反らされてしまった。

 冷や汗を流しながら、千鶴はにやりと笑った。


「君翼、前よりも弱くなってるな……」


 そうかもしれない。

 入院中に体が鈍ってしまったか。

 でもそんな事より、俺が入院している間に千鶴の動きが格段に速くなっている。

 まさか今までのは誘い?

 これは、偵察なんて気にしていたら負けるな。


「仕方がねぇ!」


 俺は魔宝具を強引に引き戻し、今度は袈裟斬りん繰り出す。

 さすがに『弱くなってる』なんて言われて黙っていられるほど、感情制御は得意じゃない。


「なんとっ!?」


 ここからは本気モードで攻める。

 そう心の中で意気込み、力を込めて右腕を振るった。


「せぁ!」


 千鶴の掛け声と共に、俺の右腕が押し返された。

 しかし、その流れを利用し、一回転して逆サイドから薙ぎ払う。

 千鶴は顔をしかめ、俺の魔宝具の描く軌跡から逃れる。

 俺の右腕が空を斬り、それを見送った千鶴が刀を振り上げる。

 その場で俺はもう一回転。

 決して勢いを無くさない。

 この距離で攻撃の手を緩めるのは危険だ。


「その大きな獲物で……」


 しかし、一回転するというのは相手の動きを一瞬だけ見失うという事。

 俺はその次の瞬間、思い知った。


「当たると思ったか!」


 どこか武士道を感じさせる台詞を吐く千鶴を、俺は一度見失った。

 一瞬、よりも長く。俺は千鶴の姿を探していた。

 そして、その姿を見つけた時には、俺は負けていた。

 背を低くして剣を突く千鶴。

 そしてその矛先は俺の腹部のど真ん中を刺していた。

 これが蒼魔女の魔法がかかった魔宝具で良かったと思う。

 これが本番なら、俺は間違いなく死んでいた。

 そう思ったからなのか、魔宝具で刺されて力が抜けたのか、俺はその場に崩れた。


「つ、強い……」


「ふ、どうだ。君翼、少なくとも私はお前よりも強くなった。これで信用できないなど言わせないぞ」


「いや、最初から言ってないし……」


「えっ」と千鶴の表情がキョトンとした物になると、緊張感が解け、蛇腹刀が姿を消した。

 唖然呆然、千鶴からは言葉が出てこなかった。

 ようやく自分の空回りに気がついたようだ。


「つまり、私の早とちり?」


「早とちりだ」


「空回り?」


「空回りだ」


「な、成る程……ようやく理解した」


 なんだろう、今日の千鶴からは妙に武士道を感じる。

 まぁ、そんな事はどうでもいい。


「大丈夫か、千鶴?」


「気にするな、大丈夫だ」


 ははは、と笑う千鶴はそのまま遠い目をして、再び他人の声が聞き取れない状況に陥った。

 今回はそっとしておいてやる事にしよう。





















 千鶴はそれから一時間、遠い目をしたままだった。

 そして、放課後。ようやく元に戻った千鶴と一緒に、セレス、駿、夕火を連れて下駄箱にやってきた。


「まさか、君翼が千鶴に負けるとはねぇ」


「君翼のブランクがあったのもそうだけど、千鶴の上達が凄かったからだ」


「……あ、あまり褒めるな。照れるではないか」


「でも、あの千鶴の動きは速かった」


「それはセレスティアの方が速いだろ」


「ははっ、それは言えてる。…………っ!?」


「ん、どうした。君翼?」


 俺は目を疑った。

 日常。そう日常。

 俺はたった今、四人の友と他愛の無い話をしていた。

 そんな所にいた俺に、転機が舞い降りた。

 下駄箱に入っていたピンク色の小さな封筒。

 これはもしや……


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