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蒼空のセレスティアブルー  作者: 稲木グラフィアス
第一章《One-eyed Wizard》
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第四話《Battle Royal》(4)☆


「何で……」


 俺の心の中には疑問しか無い。


「何でここにいる、遥?」


 俺の後ろから突如現れた遥の存在はあまりにも異様で、とても不気味だった。


「どうしても君翼君と夕火さんの戦いが見てみたくてねぇ……ずっと隠れてたんだ」


 おかしい。どうして。なんで。

 飄々としているのは、いつもの遥と同じ。

 俺の第一印象では、遥は明るくて能天気。

 しかし、場をわきまえてふざけてるのだとばかり思っていた。


「どうしたの、君翼君?」


 どうして俺はここまで遥に恐怖心を抱いている?

 それは勿論、オーラだ。

 普段はまったく感じなかったオーラが、今の遥にはある。


「決闘は君翼君の勝ち。さ、戻ろ?」


「あ、……うん」


 俺は恐る恐る遥に背を向け、歩き出す。

 後ろの気配に気を配りながら慎重に、慎重に。

 しかしその直後に、そんな余裕は無くなった。

 タタンッ、と響いた軽いステップは、どう考えても歩く音ではない、

 背中越しに感じる殺気が、今まさに覆い被ろうとしている。


「…………くっ!?」


 反射的に魔宝具をソードモードにして迫る殺気を受け止めた。

 そこで俺は驚愕する。

 何てったって、俺が受け止めた『殺気』は固体化したトンファーの魔宝具。

 つまり《フェイズⅡ》に移行した後の魔宝具だって事だ。


「『さすがは蒼魔女の息子』と言うよりも、既にバレてたか」


「遥、何のつもりだ。それにそれは……」


「私の魔宝具『雷棒(ライボウ)』だよ。よろしく、ねっ!」


 いとも簡単に圧倒されてしまう。

 そう言えば、実習の時に遥は千鶴に完勝していたらしい。

 千鶴の力量はその後の実習で見た事がある。

 その剣さばきは素人の俺から見ても、見惚れる程に洗練されていたと思う。

 光の刀を持つその千鶴の姿には、本当に現代に蘇った侍のようであった。

 その千鶴に完勝したのが、俺の目の前にいる最乃見 遥だというのなら、遥にはそれだけの戦闘力が……って、ちょっと待て。

 遥の魔宝具『雷棒』は何で既にフェイズⅡに移行してるんだ?

 普通、魔宝具が持ち主の魔力の特性を感知し始めてからフェイズⅡに移行するには、最低でも一年はかかる。

 なら、遥が今持っている魔宝具は入学式に配られた魔宝具とは完全に別物だという事。

 つまり遥は二つの魔宝具を持っている。

 なら、雷棒は何処で調達したのか……。


「考えてる事は分かるけど、教えらんないよ?」


「…………っ」


 俺ばっかりが警戒して、遥に気後れしてしまっている。

 雷棒を何処で調達したのかを教える気は無いらしいが、兎にも角にも俺を狙っている事は明らかだ。


「夕火さんじゃないけど、早く終わらせたいなぁ~」


 夕火とはまた違った余裕綽々とした態度が気に入らない。

 フェイズⅡの魔宝具なら固体化している点、人を傷付ける事が可能だ。

 もし、遥の雷棒に演習用の魔法が掛かっていないなら、ただの凶器でしかない。


「だから、さっさと…………死んでっ?」


 一瞬にして遥が間合いを詰めてくる。

 短距離の速さ(スプリント)ならセレスを上回るかもしれない。


「くそっ!」


 ソードモードで斬りかかるが、遥は左手のトンファーでそれを防ぐ。

 トンファーは元々、剣撃を防ぐ防具でもある。

 ソードモードではトンファーに対して相性が悪い。


「そら、そらそらっ!」


 かと言って、ライフルモードで応戦しようすれば、遥の足の速さからは間合いが取れそうに無い。

 万策尽きる、の前に万策が思い付かない。

 今も右側からの攻撃を中心に攻めてくる辺り、俺の視界の狭さを測ってやがる。


「片目が見えないって、大変だねぇ!」


 左目だけだと、右側が見えない上に距離感が取りにくい。

 せめて右目の眼帯が無ければ、少しは変わっただろうに。

 でも、小さい頃から片目だっただけに、自分の周りにある物の距離なら大抵分かる。

 伊達に十年以上眼帯着けてた訳じゃない!


「もぅ、しつこい!」


 中々に奮闘する俺に焦れたのか、トンファーを強く振り上げた。

 そのタイミングを待っていた。

 右目が見えない俺に攻撃するなら、俺の右側からの攻撃が有効だ。

 確実に仕留める為の一撃を見切るにはこれしか思い付かなかった。

 ソードモードを下から、遥の左手のトンファー目掛けて切り上げる。

 弾かれたトンファーが遥の左手から離れ、遥の左側がガラ空きになる。

 こっちの魔宝具はまだフェイズⅠだが、気絶させる事はできる。


「……ちっ!」


 しかし、右手のトンファーがそれを阻み、同時に二発目が俺の顔面に迫った。

 それを躱そうと試みるが間に合わない。

 反射的に動いても、遥の速さに俺は逃れられない。

 ガツンッ! と頭部にトンファーが当たった。

 脳がグラグラと揺らされるのは大変気分が悪い。

 離れようとする意識をしっかりと抑え、俺は踏み止まる。

 頭が燃えるように熱い。

 恐らく出血しているに違いない。

 俺は後退りながら手を傷に当てようとして、異変に気付いた。


「何……それ…………?」


 視界がハッキリとしていて、本気で驚く遥の顔がよく見える。

 そう、右目を遮る物がないのだ。

 俺の呪われた右目の視界を遮る物が。

 事の重大さを悟った俺は、慌てて右目を手で覆う。

 だが、恐らくもう遅い。


「…………っ」


 俺の右目が遥を見てしまった以上、俺と遥両方とも不運に見舞われる事になる。

 けっして夕火を見てはいけない。

 巻き込みたくはないのだ。

 俺は夕火がいる位置を背にした後、右目から手をどけた。


「考えてる事は分かるけど、教えらんないよ?」


 遥に言われた事を、まんま返してやる。

 今度は俺の方が余裕綽々としている。

 久しぶりではあるが、もう慣れているからだ。


「……何だかよく分からないけど。何かしようってのね」


「別に何かをするつもりはない。俺はな」


 まったく意味がわかっていない。

 しかし、今はそれで良いんだ。

 俺達は最悪の不運を避けるために、この屋上から逃げなければならない。


「早く引け。大変な事にならない内に」


 挑発ではないが、俺は魔宝具を構えて遥を睨みつける。






挿絵(By みてみん)






「何をっ!」


 それを挑発だと思ったのか、遥は俺の事を化け物でも見るかのような目で睨むと、落としたトンファーを拾うと、一気に殴りかかって来た。

 頭を打たれたせいか、思考に体がついていかない。

 必死に鈍い体を動かしながら、回避行動をとるが、避けきれずに再び頭部に、そして胸部に打撃を受ける。

 バキッ、と嫌な音と痛みが身体中に響いた。

 いったいどちらの骨が折れたのだろう。

 思考が鈍ってきて、どちらが痛いかわからない。


「死ねぇ!」


 遥がトンファーを振り上げる。

 あぁ、こりゃ死んだな。俺。

 と、思った瞬間……


「何、やってんのよ!」


 声と銃声が響いた。

 何があったのか、遥の手からトンファーが落ちた。

 目を見開き、信じられないという表情をしている。


「な……んで…………」


 声は間違いなく夕火だ。

 何で夕火が起きているのかわからないが、ひとつだけわかる事がある。


「これが……お前の不運だ」


 左目だけで夕火を見ると、俺に負けた後の状態からあまり変わらない姿勢で銃を構えている。

 そして、まだ倒れない遥に向かって、もう何発かの弾丸を撃ち込んだ。


「ちっ!」


 一瞬、崩れそうになったが、遥は力を振り絞って最後の抵抗をする。

 力を込めて、俺の体を押し倒した。

 そして後ろをチラリと見た瞬間、俺の不運が訪れたのだと知った。

 それも最悪な不運、『死』だ。

 俺の後ろに床はない。

 柵があるだけで、その先は空中。

 遥に押し倒された俺の体は簡単に柵を乗り越え、重力に従って落ちる。

 同時にそのまま倒れる遥と、慌てて駆け寄ってくる夕火の姿が見えた。

 ここは四階の更に上、屋上だ。

 助かる訳ないじゃないか。

 俺は諦めから目を瞑り、どうにかこの身に留めていた意識を手放した。


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