プロローグ《Zero point》
とある雪の降る夜。
コンビニのバイト帰りの俺は売れ残った肉まんを頬張りながら家路についていた。
冬の寒さにぴったりな温かい食べ物。
少しの幸福感と、ある絶望感を感じながら空腹を満たす。
「はぁ……」
ため息一つ。バイト前の高校入試合格者発表の事を思い出す。
結果を言うと俺は落ちた。
まぁ、発表前から分かっていた事だが。
テスト中、消ゴムを落とし、拾おうとして試験監督を予防とする。しかしその時、俺が手を上げた瞬間、監督はトイレに走っていった。仕方がないので、速やかに消ゴムを取ろうとする。
それがその時の一番の不運だったのだ。
俺が消ゴムを拾う所を、入れ替わりに来た試験監督に見られていたのだ。
しかも、その監督はその高校で一番厳しい先生だったらしく、俺はその時点で試験会場から追い出された。
こんな不運、実際にあってたまるか。
きっと何か呪いがかかっているのだ、と思わずにはいられない。
ピンポーン、それは正解だったようで、物心付いた頃から気にするようになったのだが。
俺の右目には、呪いがかかっている。
試しに親父に聞いてみた所、親父はケロリとその正体を明かしてくれた。
自作の《呪の刻印》だそうだ。
親父は昔から熱心なオカルトのマニアで、魔法やら超常現象が大好きな人だった。
俺の右目にある《呪の刻印》とやらは半永久的な魔力供給を得る代償に、感情を持ってその呪印で見ると、相手と自分に不幸が訪れるという呪いを負う代物らしい。
もちろん、治してくれと泣きついた。
でも断られた。
嘘だと思い込む事もした。
しかし、実際この右目で人を見ると、すぐ後に不幸が訪れたのは何よりもの証拠だったのだ。
いっそ中二病に目覚めてしまおうかと思った事もある。
まず、右目に眼帯を着けてみた。
すると一変。他人の顔を見ても不幸が起こりにくくなった。
今俺が受けている不幸は、俺自信が生まれ持つ不幸なのだろう。
入試中に眼帯が取れてしまったのも、親父の息子として生まれてきてしまった事も。
そして、母親が正真正銘の《魔女》である事も。
「……畜生が」
母親か魔女であると聞いたのは最近の事だ。
現在は消息不明だが、死んではいないらしい。
毎週日曜日に母親から手紙が来る。
顔はあまり思い出せないが、独特な雰囲気を今でも覚えている。
居場所を特定させる単語は一切書いておらず、教師をしているのか、生徒がどうだ、学園祭が楽しかったなど、苦労はしていない事を教えてくれる。
『~♪』
と、ぼんやりとしていると、親父から電話がかかってきた。
親父が電話するのは珍しく、例外を除いて必ずメール。
その例外というのが、とても重要な事を話す時であるわけで……。
「…………!?」
反射的に俺は電話に出ていた。
親父はひどく興奮していて、俺が宥めるのも不可能だった。
何をそんなに興奮しているかと聞いた後、親父の返答に俺は全速力で家に向かっていた。
「間違いないんだな、親父!?」
『おう、間違いない! ――――
――――母さんの居場所が分かった!』