第四話《Battle Royal》(2)
作戦は順調に進んだ。
五人から七人の班が数人の敵を誘き寄せ、学食の中に誘い込んだ後全員で囲い、倒す。
ローテーションで囮役を変え、なるべく全力疾走が出来るよう、囮役を終えた者は一時休息を取らせる。
「八月朔日、敵小隊を発見した。敵数は……二十だな」
もちろん、俺だって囮役をやる。
皆にばかり囮役をさせているのはとても心苦しいのだ。
初めは千鶴やセレス、他の皆にも止められた。
『八月朔日(君翼)がやられたら、誰が指揮をとるんだ』と言われたが、無理を言ってやらしてもらった。
「少し多いな……よし、じゃあ千鶴達は向こうから、セレス達はあっちから石なんかを投げて注意を引いて分断させるんだ。あの小隊を仕切ってる奴が着いてきた方を誘き寄せる。もう片方はうまくまいてくれ」
作戦上、敵に俺達がどのような武器を持っているか悟られないように、魔宝具を使うのは誘い込んだ後。
いくら未分類型クラスが弱小だと見られていても、そう簡単にこちらの手に乗ってくれる程、相手もバカじゃないという事だ。
「八月朔日はどうするんだ?」
「もしもの為に、指揮してる奴が来なかった方に合流する。もう片方は向こうが動いたら、全力で逃げるんだ。あれは防御型クラスの生徒だから、反撃を物ともせずに突っ込んでくるぞ。もうすぐ俺が行かなきゃならない時間が来るから、その時の指揮は千鶴に任せる。行けっ」
俺の合図と共に仲間が二手に別れる。
俺は立ち上がって、その様子を見ようとした。
と、それと同時に俺の足が何かを蹴った。
「これは……?」
それは手のひらサイズだが、少し大きめの、金色をしたロケットだった。
この場所は遠距離型クラスの寮と未分類型クラスの寮の丁度真ん中に当たる場所。
このロケットの持ち主は十中八九、夕火に間違いは無いだろうが、夕火がこの場所で落としたという事になる。
こんな所で何をしていたのか。
「俺を待ち伏せてた……は無いよな」
待ち伏せるならもっと適当な場所があっただろうに。
とにかく、夕火に会う時に渡しておこう。
今は作戦中だ。
敵小隊の指揮を取っていた奴は、千鶴達の方へと分かれた。
「頑張れよ、千鶴。やられんなよ」
俺は千鶴の無事を天に祈って走り出した。
相手が防御型なら、接近武器を使った方が遠距離武器よりも効果的だろう。
二方向からの攻撃などそんな戦法を考えていると、遠距離型クラスの寮の四階の窓に二人ほど人影を見た。
一人が窓から身を乗り出し、スナイパーライフルを構える。
その銃口の先に捉えられているのはセレス達。
「くそったれっ!」
俺は照準を合わせるよりも早くライフルモードにしてトリガーを引いた。
パァンッ、と乾いた音とワンテンポ遅れて窓枠の少し右に火花がちった。
乗り出していた人影がゆらりと揺れる。
キョロキョロと辺りを見回し、俺の事を探している。
俺は見つからないように草陰に身を隠す。
そんな事をしている内に、セレス達との距離は離れていってしまう。
「こんな事してる場合じゃないんだけどな……」
俺は草陰に隠れながら、ライフルモードを構えた。
今度はちゃんと照準を合わせて。
銃身がぶれないようにして、慎重にトリガーを引いた。
パァンッ、と一発窓枠に当たった。
「……見つかったかっ」
二発目で居場所がバレたようで、銃口が俺に向いたら。
俺は弾かれたように草陰の中から駆け出す。
後ろでバスンッ、バスンッ、と弾丸が地面にめり込む音が聞こえる。
うまく逃げ切り死角に入ると、銃撃が止む。
しかし、セレス達から随分と離れてしまった。
「くそっ、どうするか……」
今出ていけば狙い撃ちされる。
壁に沿って大回りすれば、あのスナイパーには狙われないだろうが、恐らく他のスナイパーがいると考えられる。
それにセレス達に追い付けなくなってしまう。
「君翼……」
ぽんっ、と肩を叩かれて身構えるが、すぐにそれは必要なくなった。
「セレスっ!?」
俺の肩を叩いたのは、今防御型クラスの生徒達に追われてる筈のセレス達がいた。
「どうしてここに……」
「八月朔日が銃撃を受けてるのを見たセレスティアさんが防御型の奴等をあっさりと倒しちまったんだよ」
さっきのセレスティアは凄かったよな、など言っている他の仲間も誰一人欠ける事なく一緒だった。
確かにセレス程の戦闘力なら複数を相手にしても十分かもしれない。
それでも十人を相手にするのはかなり厳しいはずだ。
「まったく、無理しやがって」
「そんな事、ない」
そう言うセレスは俺に左手を見せないようにしている。
「左手、見せてみろ」
「……えっ」
若干強引にセレスの手を引っ張る。
それほどていこうする事はなく、見てみれば袖口から痣が覗いていた。
少し袖を捲ってみると、セレスの白い肌に痛々しく青い痣がはっきりと浮かんでいた。
「痛くな……いや、痛いよな」
「盾を振り回してた人の攻撃を受けとめたら、気に激突した」
防御型は致命的な攻撃が無いとされていて、人体をすり抜ける事が無いらしい。
魔宝具からすれば、攻撃を受け止めたのは盾だと言う事だ。
もしかしたら後が残ってしまうかもしれない。
後で保健室に行っておいた方がいいか。
「…………八月朔日」
「なんだよ」
「お前って、結構大胆だな」
「は? 何言ってんだよ」
少し離れた所で女子二人がコソコソと話している。
俺とセレスの事をチラチラと覗きながら。
「八月朔日はやっぱりセレスが好きなのか……」
「お前らまで何、駿みたいな事言ってんだよ」
「普通そこまで構わねぇだろ。痣で」
女の子にとって肌は綺麗にしておきたい物じゃないのか?
「出血なら分かるけど、痣だからさ」
「仲間を心配しちゃいけねぇのか?」
「もういいや。わかったから」
呆れたようにため息をつくクラスメイト。
その後ろではキャーキャーとはしゃぐ女子二人。
状況がいまいち理解できない。
最近の高校生は惚れっぽい人が多いのだろうか。
たった数日で好きになる……一目惚れって奴に似てるのかな、それは。
「…………ぅ」
「セレス、どうした?」
青い腕に対して、顔が赤い。
痣は青の他に赤もあるけど、顔全体なんてあるわけない。
「なんでもない」
プイッ、と顔を反らされてしまう。
何か嫌われる事をしてしまったのか。
さっきクラスメイトが構いすぎみたいな事を言っていたから、それか?
反抗期の子を想う親の気持ちが分かるような気がする。
「セレスが反抗期に……」
「え、なんて?」
「いや、何でもない。眠いだけ、眠いだけだ」
「それ、決まり文句か何かなの?」
「何となくで出るから、気にするな」
そんな事より、陽動してからまくつもりだった小隊をセレスがやっつけてしまったなら、千鶴の方に行くしかない。
「でも……」
夕火との決闘の時間が近づいている。
たとえ戻っても、トンボ返りになってしまう。
なら……、
「セレス」
「時間、でしょ?」
俺の言いたい事が分かっていたようで、セレスは静かに頷いてくれた。
「悪いな。皆と一緒に拠点に戻ってくれ。千鶴が次の指示を出してくれるだろうから。気を付けろよ?」
「うん、君翼も気を付けて」
さて、少し早いが行くとしよう。
「勝って来いよ、八月朔日!」
「私達、頑張ってるから!」
「遠距離型なんて目じゃねぇぜ!」
熱い応援をくれる。
その応援がとても嬉しい。
絶対に勝てるという保証はないが、何故か勝てる気がしてくる。
仲間の声を背中に受けながら、魔宝具を握り締めて『絶対に勝つ』と想いを込めた。
第一部のキャラ紹介(1)にイラストを投稿しました。
今度はこの蒼空のセレスティアブルーの主人公、八月朔日 君翼です。
よかったら見てください。