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蒼空のセレスティアブルー  作者: 稲木グラフィアス
第一章《One-eyed Wizard》
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第三話《Machine gun girl》(4)

「まぁ、それは。……よかったね」


「よくねぇよぉ~」


 学食で俺は机に突っ伏したまま、体に溜まる疲れを最小限に抑えている。

 今運動なんてしたら、俺の体は細胞から崩壊する。


「でも母親に会えたのは、良い事ではないか」


 千鶴は苦笑気味だし、


「はははっ! 理事長ってそんな人だったんだ!」


 遥は爆笑している。


「だ、大丈夫だよ。君翼」


 心配してくれるのか、セレス。

 何が大丈夫なんだろうね。

 そして足りない駿。

 こんな時、駿なら何と言うだろうか?

 ……『女子三人に囲まれて羨ましい奴!』

 うーん、言いかねないな。


「で、君翼。作戦で何か変更点があるのか?」


「おぉ、そうだった」


 母さんの事ですっかり忘れてた。


「クラス対抗戦の時、俺途中からはぐれるかもしれない」


「何を言っている? 私達は共に戦うと……」


 言い終える前に千鶴は、驚いたように俺の背後の方を凝視し始める。

 千鶴がこのような顔をするとは思えない。

 いったい何が俺の後ろにいるんだ!?


「また来るって……」


 突然背後から聞こえた声に振り返ると、そこには彼女がいた。

 針のような鋭い眼光は俺の顔をしっかりと捉えていて、不機嫌さが100%以上を指しているのは目に見えて分かった。


「……言ったわよね?」


「夕火……え?」


 また来るとは確かに言ってたけど、まさか学食にも踏み込んでくるとは。

 はぁ、もう駄目だ。


「八月朔日の知り合いか?」


「まぁね。クラスは違うけど」


 夕火は誰に言われるでもなく、俺の隣に座る。

 辺りを見回し、鼻で笑った。


「やっぱり少ないわね、未分類型クラスって」


 その瞬間、皆の中でイライラゲージが跳ね上がったことは言うまでもない。


「えっと、誰だ。君は?」


 それでも、千鶴は冷静に接する。

 俺から見れば尊敬に値する人格だ。


「私は遠距離型クラスの橘 夕火。魔女の息子に会いに来たわ」


 気のせいかな、前にも同じ事を言っていた気がする。


「八月朔日にか?」


「えぇ、まだ決闘の詳細を決めてもらってないしね」


『決闘!?』


 三人の声が重なる。もちろんセレス、千鶴、遥の三人である。


「遠距離型クラスの生徒が、まさかの未分類型クラスのエース、魔女の息子、異端者である八月朔日 君翼に挑戦だぁ!?」


 遥のテンションが全開になった。


「え、何なの貴女?」


 これはもう止められそうにないな。


「さぁ、えっと……橘 夕火さん!」


「な、何よ」


「私の私見ですけど、貴女は遠距離型クラスのエースですよね?」


「ま、まぁね。一応、私が一番って事になってるわ」


「二クラスのエース同士がタイマン勝負! 皆さん、これは必見間違い無しですよ!」


 誰に言ってるのか知らないが、大声が学食中に響く。

 そのせいで、周りからの視線が集中してしまっている。


「皆さんはどちらが勝つと思われますか? どちらも強いカードだと思いますけど、やはり遠近どちらの距離でも対処可能な八月朔日 君翼選手の方が有利でしょうか。しかし、遠距離戦闘一卓の橘 夕火選手の方は遠距離は得意でしょうか?」


「さっきからお前、何なんだよ」


「実況の最乃見 遥です!」


 実況だったんだ。解説やゲストはどこだ?


「な、何なのよ。この人は」


「気にしてると、元気を吸い取られるぞ」


「そ、そうなの……」


 夕火も既に吸い取られてしまっているようだ。

 初めてあった時のような上から目線が感じられない。


「遠距離型クラスのエース、か。決闘とは何だ?」


 冷静な千鶴が話し始める。

 遥は……うん。走ってどこかへ行ってしまった。


「私が勝ったら、八月朔日 君翼は遠距離型クラスに転入するって条件で一対一で勝負するのよ」


「えっ?」「何だと?」


 どうしてか、ぽかんとしている二人の頭の上でカラスが飛んでいるように見えた。


「何をバカな事を。そんな事が……」


「可能らしいぜ、何か」


 残念な事に、な。

 俺は嫌だと断ったのになぁ。

 今になって思うが、何故決闘なんて馬鹿げた事を思い付いたんだろうか。


「そうなのか。八月朔日は遠距離型クラスに行きたいのか?」


「断固として嫌だ」


「なら、なぜ決闘なんて受けたんだ?」


「まぁ、ちょっとな」


「ちょっとじゃわからん」


「うーん。俺もその時は腹が減って気が立ってたし、気ニシナクテイイト思ウヨ?」


「おい、何故最後が片言なんだ?」


「そんな事はない。眠いだけ、眠いだけだ」


「まだ六時だぞ」


 そもそも決闘を仕掛けたのは俺で、受けたのが夕火だ。

 夕火の『弱小』なんて言葉が許せなかったんだ。


「なら、橘に聞こうか。何故八月朔日を欲しがる? 八月朔日が魔女の息子だからか?」


「まぁ、それが一番の理由かなぁ。それだけじゃないんだけど、……それは貴女達が知る必要は無いわね」


「では、その決闘で八月朔日が勝ったらどうするんだ?」


「そう、それよ!」


 バンとテーブルを両手で叩いて、思い出したように叫ぶ。

 そう言えば、俺が一方的に決闘を仕掛けて、俺が負けたら遠距離型クラスに転入なんて条件を付けたけど、俺が勝った時の条件を忘れてた。


「私が来たのはその事についてなのよ!」


「俺が勝ったら……どうしよっか?」


 千鶴に聞いてみよう。


「私に聞くな」


「セレスは何がいいと思う?」


「わ、私は……わかんない」


 うむ、セレスも駄目だと俺の周りに『まともな』ご意見番がいなくなるじゃないか。


「自分で決めろ。八月朔日」


 千鶴がため息がちに言う。


「それだとどっちの条件も俺が一人で決めた事になるんだよ。……そうだ、夕火が決めてくれ。それに俺が賛同できたら、それにする」


「え、私に振るの?」


 予想外だったのか、夕火は少し戸惑う。

 千鶴からの視線が少し痛いが、なるべく公平にしたいというのが、俺という奴だ。

 夕火がとんでもないサディストとかでなければ、そうそう不公平な条件にはならないだろう。

 それにしても気になるな。

 俺が……『魔女の息子』がクラスにいる事がどんなメリットをもたらすのだろうか。

 今の所、未分類型クラスに変わった点は見当たらない。

 他のクラスがどんな感じか知らないが、大差無いのではないだろうか?


「あ、じゃあ!」


「お、なんだ?」


「ジュース一本奢りで……」


「「安いっ!!」」


 見事な千鶴と俺のシンクロ突っ込み。

 ほぼ百パーセント。A●フィールドがどのくらいの強度になるだろうか。


「だ、だよね。じゃあ……私が何でも貴方の言う事を聞く、で」


「ん、まぁいいか」


 言葉の途中で夕火の顔が赤くなった気がしたけど気のせいだろ。


「そ、そう。じゃあ決闘楽しみにしてるわ」


「おう。途中でやられんなよ?」


「そっちこそ、…………っと」


 夕火は立ち上がり、立ち去ろうとするがすぐに振り返る。


「貴方達の誰か、これくらいのロケットを見なかった? 金色のなんだけど……」


 夕火は両方の親指と人差し指で、小さな円を作って見せる。

 ロケットにしては少し大きめの物のようだが、時計と一緒になっているのか?


「いや、見てないけど?」


「そう」と、夕火の横顔が曇るのがハッキリ分かった。


 その横顔からは喪失感と言うよりも、孤独感が感じられた。

 俺はいつの間にか、じっと夕火の事を見つめていた。

 夕火はそんな俺の視線に気づき、顔を見せないように去っていった。


「ラブコメしてんな、君翼」


「駿、いつから!?」


「眠いだけ、眠いだけだ。の辺りかな」


 ラブコメというのはどこの事を言ってるんだ?

 相変わらずわからん奴だ。


「それにしても、さっきの橘 夕火じゃないか」


「知ってるのか、駿?」


「結構有名な家だよ、橘は。日本の魔宝具ブランドでかなり高性能のを作ってて質が良いんだ」


「魔宝具にブランドなんてあったんだ……」


「そりゃあるさ。でも橘の魔宝具はコストが高くて、この学園内で配ったのは一握りさ」


 そう言うことなら夕火も、その高性能な魔宝具を持っているんだろう。


「あいつの魔宝具って、何かわかるか?」


「たしか、機関銃(マシンガン)だったかな。中距離以下で戦うには少しキツイ相手だな」


 確かに連射力の高い機関銃が相手では、物陰が少ない屋上では不利かもしれない。

 中距離以下の戦闘を想定したのが仇になったか。


「大丈夫、君翼?」


 セレスが心配そうな視線を向けながら、近寄ってくる。

 今度は駿からの視線が痛い。


「大丈夫だ。…………多分」


 曖昧な俺の返答に、誰も返してこなかった。


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