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蒼空のセレスティアブルー  作者: 稲木グラフィアス
第一章《One-eyed Wizard》
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第三話《Machine gun girl》(3)


 授業に遅れる訳にもいかず、パンを食べるのを後にして俺は教室に戻ってきた。

 仕方がない。休み時間にでも食べるとしよう。


「君翼……」


 教室の前にくると、セレスが俺の方へ走ってきた。

 キョロキョロと回りを見回していた辺り、俺を探していてくれたのか?


「急にどっかに行って、いつまでたっても帰ってこないから」


「ごめん。変な奴に絡まれちまってよ」


「変な奴?」


 セレスが小首を傾げているが、こいつが知らなくてもいい事だ。

 俺と夕火だけの一騎討ちは、誰にも邪魔されたくない。


「よく分からないけど。君翼、今怖い顔してる」


「え、そうか?」


 夕火の事を考えたら『弱小』だと言われた事も思い出してしまった。

 一騎討ちの事を考えれば、今日の夕方にもう一度集めて作戦の変更を伝えておかなければならないな。

 でも、本当の事を言って混乱させたくない。

 作戦中に抜け出すか?

 そうすると、今度は心配をかけてしまうか。


「今度は複雑な顔してる」


「へ?」


 セレスが覗き込んでいる事に気がつき、素っ頓狂な声を出してしまう。

 セレスよ……複雑じゃないぞ。葛藤だ。


「君翼?」


「いや、何でもない。眠いだけ、眠いだけだ」


「ね、眠いの?」


 明らかに挙動不審な俺を見て、セレスはどう思っているだろうか。

 誤魔化すのは、昔から苦手だな。

 ポーカーフェイスの奴らは普段からどんな訓練をしているんだ。


「気にすんなって。俺は絶対にここにいるから」


「え、何があったの?」


「眠いだけ、眠いだけだ」


「心配! ねぇ、君翼。この昼休みに何があったの!?」


「セレス……」


「ふにゅ……って、頭撫でてもらってもぉ~」


 おやおや、誤魔化す所か逆にセレスを愛でる事になってしまった。


「お前達、何してる。さっさと教室に戻れ」


 廊下に二人だけだった事に気がつき、急いで教室に入る。





















「は、腹痛ぇ」


「そりゃ、あんなでかいパン食った後に運動すりゃあなぁ」


 午後に魔宝具訓練があるのを忘れて、『期間限定焼そばパン特別ソース使用(特大版)』を平らげてしまって、横っ腹が痛くなってしまった。

 そんな俺を駿が呆れたように見ている。


「なぁ、君翼。お前、理事長には会ったのか?」


「何だよ、藪から棒に」


「いや、理事長ってお前の母親なんだろ?」


「まぁ、最初は会えるかもって思ったけど、理事長って色々と忙しいだろ」


「でも、実の息子だろ? 理事長も会いたがってるんじゃないのか?」


 俺がここに来て一番期待したのは、母親に会う事だ。

 一日目はクラスに馴染む事、二日目は訓練の後で疲れてしまって、三日目はもうすぐ終わる。


「そうかなぁ?」


「今日、会いに行ってみたらどうだよ」


「でもさっき言ったろ? 理事長って色々と忙しいって」


「実の息子との面会を嫌がる母親がどこにいる?」


「うーむ」


「悩むことじゃねぇだろ……」


「はーい、そんな八月朔日君の事を、理事長が呼んでまーすよー」


「「うおっ!?」」


 気配も無しに俺達の背後に現れたのは花子先生だった。

 いつもニコニコ花子先生、そのスニーキング能力はス○ークもビックリだ。

 花子先生の魔宝具は千鶴と似て《蛇腹刀》だったか。

 フェイズⅡで、名前を《姫神斬華刀(キシンザンカトウ)》だとか。

 華という文字が入ってる辺り、花子先生らしいと言えばらしいんだが、姫神が花子先生らしくない。

 いったいどのような経緯でつけた名前なのだろうか。


「呼んでるってよ、君翼」


「お母さんが呼んでますよー、八月朔日君」


「わ、わかりました」


 花子先生が乱入してきた事によって、少し沈み気味だった場のテンションが無理矢理引き上げられ、俺は少し混乱している。

 しかし、どこか嬉しい感じがするのは何故だろうか。

 いや、そんな物決まっている。

 薄れていく不確かな記憶の中でしか思い出す事の出来なかった母親に、今日、この時、ちゃんと面と向かって会えるのだから。


「それでは行きましょう」


 花子先生の後について歩き出す。


「駿、今日の夕方また集まってくれって言っておいてくれ!」


「おぅ、りょうかーい!」


 手を振って、駿に言う。


「集まるって、クラス対抗戦について話し合うんですか?」


「まぁ、ただでさえ未分類型クラスは人数が少ないのに、作戦の事を話すと諦めてしまう生徒が大量発生しましてね。結果、五人しか残らなかったんです」


「私がここの生徒だった時は優勝しましたよ?」


「マジですか!?」


 思わず花子先生の手を取ってしまう。

 尊敬の眼差しで見つめる俺に、花子先生は少し引いているようだった。


「その時、どのように戦ったのか聞いていいですか!?」


「え、えぇ。わかりました……。私の時も、今の八月朔日君達のように他のクラスとの人数の差が絶望的で、皆がバラバラになっていました。」


 実に興味深い話だった。

 当時の理事長は俺の母親ではなく、先代の理事長。

 その時、花子先生は俺の母親とクラスメイトかつ、ルームメイトであったらしい。

 やはり未分類型クラスの生徒達はやる前から敗北を確信し、チームワークなどとれない状況にあった。

 そしてその場の頭を取ったのが、俺の母親『八月朔日 紗央莉(サオリ)』だった。

 俺の母親は明るく活発な性格で、成績優秀な特待生。その上、強い正義感を持つ人だった。

 バラバラだった未分類型クラスを一つに纏め、クラス対抗戦では見事な連携で他のクラスを圧倒したと言う。

 ここまで聞いて、俺の母親が物凄く良い人だったように思える。

 しかし、……


「はい、着きましたよ。服装を正してくださいね」


 制服の襟、髪型などを整えてから、最後に眼帯な位置を整える。

 そして、俺の右目に呪いをかけたのは俺の父親だが、母親がそれを止めない筈がない。

 ……もしかしたら、親父が俺の右目に呪いをかけたのは、母親が頼んだのではないか?

 言い知れぬ不安が俺の脳裏を過る。

 会ったらその時、『何故、俺の右目に呪いをかけたの?』と聞きそうで怖い。

 今の俺ならそう言ってしまうかもしれない。


「理事長ー、お連れしましたー」


『どうぞ』


 何かちゃんとした理由があるに違いないが、一度疑ってしまうと、そこから更に色んな疑いが生まれる。

 それでも俺は、扉を開いた。


「失礼します。一年未分類型クラスの八月朔日 君翼です」


「私が蒼陣魔法学園の現理事長、八月朔日 紗央莉よ。久しぶりね、君翼」


 迎えてくれた母は、黒く長い髪を腰の辺りまで垂らしていた。

 妖艶な雰囲気を醸し出しているが、どこか母性的な感じがするのは、俺が実の息子だからだろうか。


「お、お久し振り……です。理事長」


「ふふっ、今回は私用で呼んだのだから、敬語じゃなくてもいいわよ」


「じゃあ、母さん」


 『母さん』と言った瞬間に、先程の疑惑が甦ってくる。

 母子の再開だというのに、胸が痛む。

 どうして俺に呪いをかけたのか。

 どうして俺と親父を置いたまま、長年顔を見せなかったのか。

 どうして……

 様々な思いが次々と溢れだしそうになるが、ぐっと我慢して腹の底に押し込めた。


「何が言いたいのか、良く分かってるつもりよ」


 母さんは静かに立ち上がり、側に寄ってくる。

 自然に涙が溢れそうになり、そんな俺を母さんはそっと抱き締めてくれた。 


「…………っ」


「今まで一人にしてごめんね」


 体を抱き寄せ、呟いた。


「お、俺……」


「ずっと、こうしたかった」


「かあ、さん」


「君翼ぇぇぇ~」


「…………はっ?」


 この場面に似つかわしくない、気のぬけた声が理事長室に響いた。

 その声の主は俺のすぐ側。母さんである。


「はぁ~、寂しかった。寂しかったんだよ」


「え、ちょ?」


「このフサフサ。やっぱり君翼なんだね~」


 涙声で俺の頭を無茶苦茶にかき回す。

 その様子はまるで、玩具で遊ぶ無邪気な子供のよう。

 花子先生の話では立派な人だったという事になっているのに、今俺を抱き締めている人からは全くそんな感じがしない。


「良い話ですね」


「花子先生見てっ。この状況!」


「感動の再開ですね」


「おしいっ! っていうか、現在を見てくださいって!」


 明らかにおかしい。

 子供を前にすると、母親はここまで変貌するというのか。


「現実よ。君翼が今ここにいるという事が現実」


「あぁ、もう! ちょっと待ってよ!」


 母さんを引き剥がし、乱れた服装と髪を直すと、もう一度よく母さんの事を見る。


「本当に母さんなんだよね?」


「八月朔日 紗央莉。正真正銘、君翼の母親よ」


「花子先生に聞いた話と全く……」


「思い出というのは、何倍にも美化される物よ」


「捏造だったの!?」


「捏造ではないわ、美化よ。美化」


 殆ど変わらないんじゃないかと思う俺はおかしいのだろうか?

 この感動すべき再開の場面で、会いたくなかったもしれないと思う俺はおかしいのだろうか!?


「……でも、君翼?」


「……な、なに?」





















「お帰り」





















 そう言って笑う母さんの顔は、とても優しくて、柔らかい物だった。


「でも、ここって学園の中だから『お帰り』はどうかと思うんだ」


『…………』


 あ、あれ?

 白けてしまったぞ?

 すると、その場に一言がこぼれ落ちた。


「空気の読めない子になって……」


「母さんに言われたくない!」


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