表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼空のセレスティアブルー  作者: 稲木グラフィアス
第一章《One-eyed Wizard》
13/35

第三話《Machine gun girl》(1)


「八月朔日ー!」


 作戦会議の翌日。

 会議は予想以上に白熱し、あれやこれやと決めていく内に反対意見も出てきて中々決まらなかった。

 気がつけば、学食にいる生徒が俺達だけ。

 時間も消灯ギリギリにまでなっていた。

 俺はクタクタで、Go to bed。

 朝起きればセレスが勝手に毛布の中に入っていて、またトラブル。

 せっかく寝て体力を回復したのに、一気に削られてしまった。

 そんな事があった日の昼休み、クラスメイトが俺の事を呼ぶ。


「何?」


 渋々椅子から立ち上がると、よたよたと歩いていく。


「お前に会いたいって奴が来てるぞ」


「へぇー、会いたい人ねぇ」


「大丈夫か、八月朔日?」


 眠くて眠くて仕方が無い。

 こんな様子で驚かれるだろうか?

 あぁー、でもいいかぁ。


「気にすんな。眠いだけ、眠いだけ」


 どうやら、俺に会いたい人は廊下にいるらしく、霞む視界をどうにか認識して扉を開ける。


「貴方が八月朔日 君翼?」


「…………うん」


 長い髪で、少し茶色がかった感じだと思う。

 女子のようだが、どこのクラスだろう。


「魔女の息子の?」


「…………はい、そうです」


「本当に?」


「…………本当です」


「あのねぇ、それが人と接する態度なの?」


「…………すいません」


 寝惚けた頭をペコリと下げる。

 今はこれが限界。

 土下座なんてしたら、怠くて起き上がれなくなると思う。


「…………」


 おや、絶句してしまっている。

 そんなに引かれる事を言ってしまったか?

 覚えか無いぞ。と言うか、まだ少ししか話してないぞ。


「眼を覚ましてくれるかしら?」


「多分、……無理…………」


「……っ!」


 瞬間、『ぱちんっ!』という音と共に、左頬に痛みが走った。

 彼女にビンタされたのだ。

 お陰で目が覚めたが、今度は俺が絶句していた。


「目、覚めたかしら?」


「それはもう」


 あぁ、太陽が眩しい。

 世界はこんなにも色鮮やかだったんだな。


「で、私の用件は……」


「(眩しいなぁ)」


「私の……」


「(腹へったなぁ)」


「私の!」


「ふぇ?」


「貴方、人の話を聞くつもりあるの?」


「そりゃあるよ? さっさと用件を言ってくれよ。目は覚めたけど腹が減っちまってな」


 学食に行くか、購買に行くか。

 そう言えば、購買に美味しそうなパンがあったな。

 よし、購買にしよう。


「話そうとしても、貴方が上の空なんでしょ!?」


「聞いてるって。俺、三つの事までなら同時にできるぞ」


 これは本当の事で、自宅で飯の仕度をする時に時間の節約をするために身に付けた特技だ。

 人の話を聞きながら、今日の献立とどうでも良いことを考えることなら朝飯前だ。

 もう昼だけど。


「もっとちゃんと聞きなさいよ!」


「だからちゃんと聞いてるっての」


 あんまり大きな声を出すものだから、皆が様子を見に来てるじゃないか。


「えっと、じゃあ誰?」


「私は遠距離型クラスの(タチバナ)夕火(ユウカ)。噂の魔女の息子とやらに会いに来たの」


 なんだろう。言葉使いは普通なのに、上から見下ろされてる感じがする。

 しかし、随分と遅い訪問だな。

 始業式から三日も経ってる。


「やっと貴方に会えたわ」


「やっと?」


「えぇ、そうよ。始業式は忙しかったから仕方が無いとして、次の日はいつ訪ねても貴方が教室にいなかった。放課後まで待ってたのに!」


 そりゃ、ずっとグラウンドを走ってたからだな。


「お勤めご苦労様です」


「刑務所みたいに言わないで」


「そういう訳じゃないけど……」


「んんっ! それはともかく、私の用件はね」


 なんだか時間を無駄にした気がする。

 まぁ、いいか。つか眠い。


「八月朔日君翼を遠距離型クラスにスカウトに来たわ」


「…………へぇ」


「……あれ?」


「どうかしたか?」


「いや、何も言わないの?」


「いや『馬鹿だなぁ』とは思ったけど」


「馬鹿にするんじゃないわよ!」


「いや、俺はこの未分類型クラスに入ってるの。俺の魔法具は《変形型》っていう《異端型》だから、遠距離型クラスに入るのは無理」


 第一、よく他クラスの生徒を引き抜く事なんて考え付いたものだ。

 だから馬鹿だと思ったんだけどな。

 ても、何も知らないで『自分のクラスに来い』なんて言う奴はいないだろう。

 何か可能にする策があるのか?


「貴方の魔法具は《変形型》で……ってぇ」


「いや、寝てない。眠いだけ、眠いだけだ。春眠暁なんとかだよなぁ」


 春だねぇ、とホノボノとしている俺の事が気に入らなかったのか、夕火はもう一度俺の頬を叩いた。

 大衆の目の前にも関わらず。


「貴方……私が遠距離型クラスだからって敵対心を持ってる訳じゃないでしょうね。一週間後にはクラス対抗バトルロイヤルだし、敵とは仲良くしたくないっての?」


「痛たぁ……」


 今のは本気のフルスイングだったんじゃないか?

 まだヒリヒリしやがる。


「あのなぁ、何度も人の頬を叩くのはどうかと思うぞ?」


「いくら言っても、人の話をちゃんと聞かないのもどうかと思うわ」


「だから俺はちゃんと聞いてるって言ってるじゃんか」


 今は夕火の話を聞きながら、昼食のメニューと眠気に意識を持っていかれないように頑張ってたんだ。

 ほら、ちょうど三つ。


「貴方の魔法具は《変形型》で、近接型、遠距離型のどちらのタイプにも所属している」


「だから、未分類型にされたんだけどな。ってか、それが基本だろ?」


「いいえ。……貴方、自分が何故《異端者》って呼ばれたか、ちゃんと理解していないようね」


「そんな事はない、失礼な」


「うるさい、貴方の方がよっぽど失礼よ。貴方は純粋な近接型と遠距離型の両方の特性を持ってるから《異端者》って呼ばれたのよ?」


 だから何だと言うんだ。俺の解釈と何が違うってんだ?


「あっ! 早くしないと売り切れるかもしれねぇ!?」


「あ、ちょっと。八月朔日君翼!」


「ごめんなぁ。俺、まだ飯食ってないから!」


 じゃあ後で、と一言言って俺は駆け出す。

 せっかく決めた献立。旨そうなパン!

 絶対に逃すものか!!





















「なん……だと…………?」


 旨そうなパンこと『期間限定焼そばパン特別ソース使用(特大版)』は俺の目の前で売り切れていた。

 購買のおばちゃんが「ごめんねぇ」と言うと同時に俺は床に崩れる。


「さっきそのパンを二つも買っていった子がいてね」


 くそっ、誰だ。こんな大きなパンを『二つも』買って行った大食い野郎は!


「ほら、君の後ろの」


「え?」


 そう言われて振り返ってみれば、そこには夕火がいた。

 嘘だろ? こんなでかいパンを女子が二つも?

 大食いキャラにはとても見えない。

 人は見た目では判断できないという事か。


「食べる?」


「まじ!?」


「じゃあ、遠距離型クラスに入って?」


「やだ」


「じゃあこっちもやだ」


「なぁんだよぉ、くれないのかよぉ、太るぞ夕火ぁ~」


「別に今食べないわよ!」


「なら、くれたっていいじゃんかよぉ」


「あんたら仲が良いわねぇ」


「あぁ? 何言ってんだよ、おばさん。あんたの目は腐ってんのか? 枯れるより先に腐ってんのか?」


「何だとテメェ、何つった?」


「ひっ、すいません!」


 物凄い剣幕だった。危ない目をしてやがる、このおばさん。

 睨まれただけで雷に撃たれたような錯覚を覚えたぞ。

 はっ、…………まさかこの人は魔法使いか!?


「ほら、八月朔日くん? ご所望の『期間限定焼そばパン特別ソース使用(特大版)』はここだよ~」


「はぁ~(ふらふら~)」


 足が勝手に動きやがる。

 呪いか!?


「なんて魔力だっ」


「別に魔法なんて使ってないわよ。て言うかまだそこまで使えないわよ」


 なら俺の足が『期間限定焼そばパン特別ソース使用(特大版)』を前に自我を持ったのか!?

 『期間限定焼そばパン特別ソース使用(特大版)』を手に入れよと、そう告げているのか!?


「馬鹿な事考えてないで、屋上で話をつけましょうか」


 くっ、馬鹿に馬鹿呼ばわりされた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ