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蒼空のセレスティアブルー  作者: 稲木グラフィアス
第一章《One-eyed Wizard》
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第二話《Devil boy》(4)

 魔宝具訓練は魔法学園の中で最も重要な訓練で、ここ蒼陣魔法学園では理事長の魔法で魔宝具が人体を通り抜けて、怪我をしないようになっている。

 この魔法は蒼陣魔法学園の理事長だけが使える魔法で、海外にある他三つの学園では不可能らしい。

 と言うのも、それぞれの学園の理事長である魔女が色で別れているのがその一つの理由で、蒼の魔女が得意とする水や氷の魔法の中に人に危害を加えないようにするのが存在するとか何とか。

 因みに緋の魔女は火の魔法を得意とし、攻撃系専門の魔女。

 緑の魔女は自然、治癒の魔法を得意とし、補助を主とする魔女。

 金色の魔女は幻、罠の魔法を得意とし、援護系の魔法を主とする魔女。

 この四つの魔法学園の中で、安全に魔宝具の訓練を受けられるのは蒼陣魔法学園とセント=マギ=アカデミーの二つだけ。

 緋は真剣勝負、緑は怪我をしたら即治療、金色の魔女は幻と戦わせるようになっているらしい。


「それでは、始め!」


 荒垣先生の声に合わせて回りが騒がしくなる。

 相部屋になった生徒同士で魔宝具の模擬戦をするのだ。

 もちろん俺の相手はセレス。

 現在は魔宝具の刃を手に当てても、するすると通り抜けるようになっている。

 俺の場合、刀身以外は普通に触れるようになっている。

 セレスのブーメランは握る所は普通に握れるようになっているようだ。


「いくぞ、セレス?」


「うん」


 すると、セレスが体を低く構え、いつでもブーメランを投げられる体制になる。

 俺はそれに合わせて、魔宝具をライフルモード(今さっき考えた)にする。

 相手が飛び道具なら、こちらもそれでいい。


「…………っ!」


 てっきり、ブーメランを投げてくるかと思ったが、セレスはそれを読んだのか突然駆け出す。

 ブーメランを剣のようにして切りかかってくる。

 俺は魔宝具をソードモードにして受け止める。


「君翼、凄いね」


「セレスがこんなに足が速いとは思ってなかったよ」


 さっきの10キロマラソンは本気じゃなかったのだろうか?

 それとも短距離走の方が得意なのか。

 どちらにしても、セレスがブーメランを剣にして使えば、俺の魔宝具よりも取り回しが効く。


「……ふっ!」


 セレスがブーメランを突き入れ、俺がそれを長大な刀身を盾にして防ぐ。それの繰り返し。

 速さの事だが、10キロマラソンの時に俺より遅れてゴールしたセレスは、俺よりもずっと汗をかいていた。

 もし10キロマラソンが本気じゃなかったとしたら、あんなに汗はかくまい。

 なら、セレスは体力に欠けていると見た。


「……ふっ……くっ!!」


 ブーメランが刀身に当たる瞬間、パチンコのようにブーメランを弾き返す。

 地味だが、体力は確実に削られていく。

 やるからには負けたくない。

 どんな事をしても勝つ!


「……はっ……やっ……うぐっ」


 瞬間、セレスのブーメランを握る手が緩んだように見えた。

 その隙を、刀身を大きく振り回して突く。

 ブーメランが宙を舞い、セレスの持つ武器がなくなる。


「俺の勝ちだぜ、セレス」


「……まだ」


 矛先を突きつけてもなお、セレスは余裕そうだった。

 その理由はすぐにわかった。

 だが、その時には既に遅く、ブーメランが俺の足を通り抜けていた。

 俺が呆気に取られていると、セレスは俺を押し倒して先程と逆の立場になる。


「私の勝ち、君翼?」


「なんで疑問系なんだ」


 ライフルモードにしてセレスに向けようと思ったが、それより速くセレスのブーメランが俺の首に当たる。


「負けた者は後でマラソン、10周!」


「うぇ!?」





















「あぁ~、もう駄目。死ぬ」


「死ぬなんて言うな。八月朔日はあと3周じゃないか」


 前半の10キロマラソン……いや、10キロ疾走が予想以上に体力を消耗していたらしく、模擬戦の敗者の追加マラソンは俺と千鶴は他の生徒達に比べて明らかに遅かった。

 しかし、同じ10周ならまだいい方だ。

 模擬戦の敗者は10周追加。その後にも色んな訓練をし、負けた数だけ1周ずつ追加されていった。

 俺がセレスに勝てたのは体力勝負だけ。

 千鶴は遥に一つも勝てなかったらしい。


「千鶴はあと4周なんたな」


「それを言うな。心が折れる」


 俺の前を走る千鶴の顔が青い。


「大丈夫か、千鶴?」


「少し疲れただけだ。心配しなくていい。あと4周くらい、走りきって見せる」


「強がるなって。顔が青いぞ」


 俺が肩に手をかけようとすると、千鶴にそれを叩かれてしまう。


「走りきると言った! ……ぁっ」


 しかし、声を張った瞬間に千鶴の体から力が抜けたように崩れ落ちた。

 俺はそれを見て、咄嗟に後ろから支えてやる。


「本当に大丈夫なのか?」


「走りきると……」


「はいはい。もう限界が来るまで走りきった、走りきった」


 俺に支えられても、それを振り払おうとする千鶴を抑える。


「経験が大事だって言うなら、その経験を積むためたけで体を壊しちゃ駄目だ」


「……八月朔日」


 限界突破、なんて言葉が浮かんでくる。

 でも、限界は越えられない物なんだ。

 今まで自分が限界だと思っていた所を越えられたら、そこは既に限界ではなくなっているという事。


「わかった。少し休もうか」


「走ってるのは俺達だけだからな、誰も咎めたりしないよ」


 そう言って俺達は水道のある場所へと向かう。

 だが、その途中で千鶴がフラフラとして、俺がその体を支える。

 足が棒になった、ってやつだ。


「すまない」


「気にすんな。ほら」


 俺は千鶴の前でしゃがんで背中を向ける。

 俺達がいる場所はグラウンドを挟んで、水道のある所の真逆の所だ。

 普通の高校のグラウンドならそこまで遠くないだろうが、ここのグラウンドは1周1キロだ。

 普通の二倍以上ある。


「心配するなっ、私は大丈夫……」


「俺の方がまだ限界は遠いし、目の前で膝を付く寸前の人を放っておけって方が無理な話だ」


「だ、だからと言ってだな」


「だから気にすんなって言ったろ?」


「そこに対しての『気にすんな』だったのか!?」


「両方だ。ほら、早く」


「~~~~っ!」


 俺が催促すると、千鶴は恐る恐る俺の背中に乗って来る。

 感想、……以外と軽い。


「お、重くないか?」


「別に重くねぇよ。でもバランスが悪いな、手を前に出せよ」


「いや、そしたら……」


 バランスを取りながら片手で千鶴の腕を掴み、俺の首にやる。

 すると観念したようで、もう片方の腕を自分から前に出してくる。


「汗だくなのは勘弁してくれな。お互いだし」


「そ、そんな事より。む、胸が」


「胸?」


「~~~~っ!!」


 少し首元を掴む力が強くなる。

 あぁ、胸……当たってるの?


「安心しろ、千鶴」


「何をだ?」


「分かんないから、うぐぇ!」


 首元を掴んでいた手は、突然俺の首を絞め始めた。

 何故だ。俺なりに気を使ったのに……。


「ギブギブ、千鶴!」


 首を絞められてから数秒、ようやく放してくれた。


「もう一度言ったら、もう放さないからな」


「なんでだよ」


「人の心を抉るような事を言うからだ」


 俺は気を使って言っただけなんですが……。

 千鶴に胸の話は厳禁なようだ。今後気をつけるとしよう。


「千鶴」


「ん、どうした?」


「千鶴は自分が魔法使いになれるって知った時、どう思った?」


 二人の間に会話が無く、気まずい空気を打破するために自分が思っていた事を訪ねる。


「私の家は剣道の道場だったからな。魔法なんて信じていなかった。しかし、突然道場に魔法使いが道場破りにやってきたのだ」


 千鶴が思い出しながら話をしている時、何故か背中にかかる重みが段々と重くなっていく気がした。


「道場の者は皆敗北。私の父もやられ、その魔法使いは私をこの学園に招待した。その後、父は私に何と言ったと思う?」


 魔法使いに、じゃなく千鶴に?


「行かせるものか、とか?」


「真逆だ。父は私に『絶対に魔法使いになって来い』と言った」


「送り出してくれた訳か」


 俺なんか高校受験に失敗して行く所が無かったから仕方なく入っただけだ。


「そう、だな」


「嬉しかったのか?」


「嬉しいも何も無い。私にとって、父の言葉は絶対だ。強さを追い求め、誰よりも上に行こうというのだ私の父の意思なのだ」


「…………」


 少しだけだが、背中にかかる重みの理由がわかった気がした。

 確信が持てないので、あまり詮索はしないでおこう。


「八月朔日はどう思ったんだ?」


「俺は馬鹿げてるって思ったよ。俺の母親が魔女だって知ったのは最近だし、俺の家に入学許可証が届いた時『魔法学園』なんて書いてあって、冗談かと思った」


 その時、千鶴が「ふふっ」と笑った。


「なんだ、案外八月朔日も普通な奴だったのだな」


「案外ってなんだよ」


「いや、私は道場の中でもそんなに強くなかったからな。剣の扱いだって一般人に比べて少し上なだけだ。私の肩書きなんて誇れる物がないんだ。それでも八月朔日は『魔女の息子』と誇れる物があるじゃないか」


「誇れるかどうかは知らないけど、息子だからって凄い訳じゃないだろ。事実、魔法の事なんて殆ど知らないんだ」


「それでも私はお前が羨ましかったんだ。私なんかの手が届かない所にいる筈のお前が。私だって、魔法の事なんて何も知らなかったんだ。同じ、なのかも知れないな」


 俺が思うに、千鶴は努力家なんだと思う。

 自分に才能がないから、才能のある人との差を努力で補おうとする。

 でも努力するあまり、体を壊す事もいとわない。

 それじゃあ駄目なんだ。

 無茶な事を努力でどうにかしようなんてできない。

 限界ってのはその先がないぎりぎりの境目。

 それ以上は行けない。だから……


「千鶴……俺、足が痛くなってきた…………」


「え、八月朔日?」


 千鶴を背負ったままその場で膝を付く。

 千鶴はすぐに降りてくれて、背中がすっと軽くなった。

 でも足が痛いのは治らない。

 俺の限界が近い事を示している。


「もう限界だな。先生には事情を話しておこう」


「ごめんな、千鶴」


「気にするな……今度は私がおんぶしようか?」


「いや、肩を貸してくれるだけでいいよ。さすがに俺じゃ重いだろ」


「…………そうか」


「ん?」


 今一瞬、千鶴の何かが変わったように見えた。

 千鶴の印象が少し明るくなったような?


「よし、早く帰って作戦会議だ!」


 そう言えばそんな話があったっけか。

 急がなくちゃならないな。セレス達が待っているだろう。


目次の下に『蒼空のセレスティアブルー』の表紙として、イラストを描きました!

読んで下さっている方は分かると思いますが、『セレスティア』です!

いやー、テスト勉強をする前で良かったです。

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