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蒼空のセレスティアブルー  作者: 稲木グラフィアス
第一章《One-eyed Wizard》
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第二話《Devil boy》(3)


「八月朔日っ、その話はいいだろう!」


「君翼、最低」


「君翼ぇ! 千鶴と何を話してたぁ!」


「何って、胸を…………っ!?」


 胸が小さいから揉んで大きくする、と言おうとした所で千鶴から『言うな』の念が来ていることがハッキリとわかった。


「胸を、何だ?」


「む、胸が……大きい方が好きか、小さい方が好きかって話、いてぇ!」


「八月朔日ぃ! お前と言う奴はぁ、何で気にしている事を言うんだぁ!」


 泣きながら千鶴が俺の事を叩いた後、胸ぐらを掴んで前後に揺らす。

 あぁ、やめろ。それ以上やると気持ち悪くなって……


「うえっぷ……」


「はっ……。大丈夫か、八月朔日!」


「気持ち悪ぃ」


 視界がぐるぐると回って、今にも吐きそうだ。


「何をやっている、お前達」


 と、俺達の騒ぎに気付いた荒垣先生が登場。


「どうした、八月朔日? 具合が悪いのか?」


 ゆっくりと頷いてみる。

 保健室行きてぇ。でもこれから魔宝具の訓練があるのになぁ。


「まだ大丈夫です。行けます」


「行けるって何処へだ? 天国か?」


「いつの間に俺は生と死の狭間にいたんですか」


「具合が悪いなら保健室に言った方がいい。ほら、立て」


「本当に大丈夫ですから」


 すくっ、と立ち上がって問題ない事を示す。

 さっき千鶴と話したばかりじゃないか。

 たかが気持ちが悪いだけで、魔宝具の訓練が受けられないなんて俺は嫌だ。


「そうか。でも、あんまり無理するんじゃないぞ?」


「はい、わかりました」


 そして、先生は俺の頭を軽く叩いて他の生徒の方に行ってしまう。

 その後すぐにセレスが駆け寄ってきた。


「本当に大丈夫? 顔が赤いよ?」


「なんて事ないさ」


 顔が赤いのはセレスが俺の背中に倒れ込んできたから。

 背中に柔らかい物が押し付けられていた。

 オブラートに包んで見たが、あまり意味無いな。

 『巨』とは言わないけど『貧』って訳でもないよな。

 ほどほどだけど、柔らかい事に代わりはない。


「ん、どうしたの。君翼?」


「こらっ」


 がつん、と千鶴に脳天を殴られる。

 わかってる。セレスの胸を見ていたのは悪かったと思っている。

 だが、何故千鶴が怒るんだ。


「君翼って、えっちだね」


「今度はセレス!?」


「君翼君ってえっちなの~?」


 む、このテンションは!?


「セレスちゃんだけでなく、チヅちゃんにまでなんて。手が早いね!」


「だから……、手なんて出してないっての」


 それにしても一晩しかたってないのに、随分と久しぶりな感じだ。


「遥、どこに行ってたんだ。着替えてから見当たらなくなってたが?」


 確かに千鶴の言う通りかもしれない。

 着替えに行く前から遥の姿を見ていなかった気がする。


「普通に授業に参加してたよ~? 皆より走るのが遅かったけどね!」


「の、わりには汗かいてないんだな」


「うん、歩いてたからね!」


 ちゃんと走れよ。


「私は元々体力あるからね。この程度の距離じゃジョギングレベルだよ!」


 凄いな。10キロのジョギングって。

 もしかしたら、千鶴よりも身体能力が高いんじゃないのか?


「それより私は魔宝具の方が気になっちゃって~」


 そう言えばそうだ。

 俺も早くやりたくて仕方がない。


「私が走ってたの結構後ろだったからもうすぐ終わると思うけど?」


「それでは皆集まれぇ!」


 遥が荒垣先生の方を振り返った瞬間、集合がかかる。


「お前達の中には知っている奴もいると思うが、来週にクラス対抗バトルロイヤルをする事になっている。毎年行われている行事で、生徒達の魔宝具の取り扱い基礎テストという面目だ。しかし、残念ながらクラス対抗と言っても、このバトルロイヤルは極めてアンフェアな行事だ。と言うのも、未分類型クラスの人数が極端に少ないからだ。だが諦めるな! やる前から諦めていたら、魔宝具の変化はないぞ!」


 その通りだ。

 負けしか見えない勝負なんて俺は嫌だね。

 千鶴は言っていた。

『未分類型クラスが優勝した事はまず無いそうだ』

 一度も無いとは言ってないじゃないか!


「でも先生。数が少ない方は、数が多い方に圧倒されてしまいますよ?」


 誰かがそう言うと、先生は「ふはははっ」と笑い出す。


「そこだ。そこなのだよ!」


「何がですか?」


「お前達の相手は二年生じゃない。同じ一年だ。だから魔宝具の取り扱いもド素人。なので、未分類型クラスはこれから対抗戦まで、魔宝具の取り扱い訓練を重点的に行うので、そのつもりで」


『えぇ~』


 全員が一斉に嫌そうな声を出す。

 何が不満だと言うんだ?

 他のクラスより数段上手くなれるのに。


「何でだ?」


「私に聞くな」


 千鶴も知らないか。


「セレスは?」


「何となくしか」


 セレスもだめ。


「しゅ……遥は?」


「皆、疲れたくないんだよ」


「おい、何で俺を飛ばした?」


「じゃあ、駿は?」


「え? ……わかんない」


「そう言うと思ったからだ」


「読心術だと!?」


 んなもんできねぇよ。

 と、心の中で呟きながら先生の話を聞く。


「という訳で、さっそくお前達には魔宝具を出してもらうぞ」


『はーい』


 皆、本当にやる気が出てないな。

 ……あれ、魔宝具ってどうやった出すんだ?


「どうした、八月朔日。魔宝具の出し方がわからないのか?」


「す、すいません」


「心の中で呼べ。お前の魔宝具を」


 心の中で呼べと言われてもな。

 えっと、来いっ……《変形型(チェンジタイプ)》!

 すると、掌から光の粒が溢れだし、瞬く間に武器の形を成す。


「ほぅ、これが《変形型》か……」


 先生が物珍しそうに、俺の魔宝具を眺める。


「何々、八月朔日の魔宝具?」


「え~、嘘~。見たい見た~い」


 と、回りの生徒達が集まってくる。


「なぁ、八月朔日。その魔宝具って銃の形にもなるんだろ? 見せてくれよ」


「おぅ、いいぜ」


 魔宝具を出すのも、心の中で呼んだんだ。

 《変形》だって、呼べばいいんじゃないか?


「《変形(チェンジ)》!」


 すると、魔宝具の長大な刀身が根本を中心にクルッと、回転して後ろ向きになり、刀身があった場所に銃身(バレル)が突き出す。


『おぉー』と、回りが感嘆の声をあげた。


 この《変形型》が俺の魔力の波長とやらを感知した結果だと言うなら、何か法則のような物があるのだろうか?


「ほら、お前達。さっさと準備をせんか!」


 先生が声をあげ、群がっていた生徒達が渋々と散っていく。


「ほぅ、それがお前の魔宝具か」


 後から千鶴が自分の魔宝具を担ぎながらやってくる。

 確か《蛇腹刀》だったか。

 刀身が普通の刀より長く、一見しただけではそれだけにしか見えない。


「ふむ、確かに異端者だと言われるだけの事はある」


「そう言う千鶴だってその刀、随分長いじゃないか」


「そんな事、魔宝具ではよくある事だ」


 他のを見た事は無いが、千鶴が言うのならそうなのだろう。


「君翼。見てっ」


「ん、セレスか」


 子供のように魔宝具を持って駆け寄ってくる。


「こらっ、ブーメランを振り回すな」


「あ、ごめん」


 恥ずかしそうにブーメランを振り上げるのをやめて、俺の様子を伺ってくる。


「よしよし」


 優しく頭を撫でてやると、「えへへ」笑うセレス。

 あれ、なんか変な視線を感じる。


「…………(じー)」


「な、なんだよ。千鶴」


「八月朔日は何だ。セレスティアの父親か? それとも飼い主か?」


「か、飼い主!?」


 相部屋になってからセレスが子猫に見えて仕方がなかったので、つい『飼い主』という言葉に過剰に反応してしまう。


「どうした、図星か?」


「そ、そんな事ねぇよ」


「飼い主……」


「お前もそこに反応するな、セレス!」


「わ、私は別に……それでも」


 最後の方が口ごもって聞こえなかったが、体を震わせている。

 怒鳴って怖がらせてしまったか?


「ほぅ……一晩でそこまで仲良くなれるとは。やはり何かあったのだな」


「またそれかよ。しつけぇな!」


「君翼ぇ!」


「うわっ、駿!?」


「やっぱり何かあったんだな!」


「地獄耳か、お前は!」 


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