学園~彼の目的その1~
第4話にして初めて主人公の名前を考えていなかったことに気づいた
星立ペテルディム学園高等部。
この世界では宇宙進出が盛んになっていることもあり、惑星間同士が外国、惑星内が国内といった具合の関係が構築されている。とはいっても当然住む地域によって気候などの関係から地球でいうところの白人・黒人などを始めとする様々な人種が存在し、それに合わせて大まかに国家が形成されている。
自国内で生涯を終える者も当然多数いるが、中には他国へ行ったり、はたまた別の惑星へと行くものも多い。
そんな中で、UAHの通う学校と言うのは大まかに2つに分けられる。
1つは国家によって運営される国立の学校。主に運営国の国民が通うもので、生徒の大半は同じ国の人間である。数もそれなりに多く、レベルといても学校ごとに多少の差はあれど最低限のレベルは保障されるものだ。
もう1つは惑星規模で運営される星立と呼ばれる学校。惑星内に複数国家があるとはいっても、太陽系規模でみた場合それは1つの組織だ。よって各惑星には惑星内の各国から選出された代表者からなる"惑星評議会"が設置されており、星立はその評議会によって運営されているものを指す。
星立学校は国立と違い、まず根本的に数が少ない。と言うか1つしかない。惑星によっては2つ以上あったりするらしいのだが、すくなくともオレのいる星では1つだ。そして星立は惑星規模での運営なので生徒の国籍が偏ることはない。また惑星を代表するという意味合いが多分に含まれるため国立に比べてレベルが文字通り段違いに高い。
星立ペテルディム学園高等部。
この星唯一の星立学校。星立は俺のような特待生を除き、基本的に通うには実力以外に莫大な学費が必要だ。理由は単純で、惑星規模で力を入れている分当然設備その他諸々もトップクラスであり、維持費が馬鹿にならないのだ。各国からの資金援助も相当なものだが、限度はある。
要するに何が言いたいのかというと……。
「ココドコー?」
はい、問答無用で迷子になった。さすがに金がかかっているだけのことはあって、まず敷地面積がおかしい。端から端まで移動するのにリニアモーター式の新幹線的なものが必要なレベルだ。しかも片道3時間。
次に建物がデカイ。そして多い。ついでに形が変。なまじ科学が発達しているせいで重力に逆らう装置、俗にアンチ・グラビティ・システムと呼ばれるものが開発されており、これのせいでちょっとオレの常識では理解不能な構造の建物が多数あり、それのせいで真下に地上が見えるのに降りる方法が一向に見つからないなんて自体が発生している。
さらに言うと内部構造も狂っている。これも脅威の科学力のなせる技なのだろうが、明らかに見た目よりも内部空間が広い。外観の5~6倍はある。これのせいで自分が今全体的にどの辺にいるのかがさっぱりわからなくなった。
「つかさっき2階にいて、そのまま横に移動してるはずなのにいつの間にか表示が4階になってるってどゆこと?」
ペテルディムはいわゆる全寮制の学校であり、オレのような新1年生は昨日から入寮が可能となっている。入学式自体は1週間後なのでオレは新入生としてはおそらく、だいぶ早い組になるのだろう。早いということはそれだけ人が少ないということであり、つまるところ同じ目的をもった人物との遭遇率が低いということだ。
要するに、外部で受ける資格試験とかでよくある「あ、この集団についていけば目的地に行けるな」っていうやつが使えない。人に聞こうにもここは街中ではなく学校の敷地内、それも校舎の中であり、また現状年度の変わり目で学校は長期休暇中であり、道を聞けるような人、というよりそもそも人が周辺にいない。
「まいったねこりゃ」
それからかれこれ3時間ほど校内をさ迷ったところでいい加減疲れたオレは、偶然見つけたカフェに入って一息ついていた。
カフェは太陽系中に店舗を展開している有名チェーン店で、カウンター席からボックス席等々なかなかの広さを誇っていた。
簡単な軽食と飲み物を頼んで外が見渡せるカウンター席に着くと、オレは片手でそれらをつまみつつデバイスを起動した。
このデバイスはUAHがUAを行使するのに必要な装置で、様々な形がある。1番多いのは指輪型、次いでネックレス型。その次がブレスレット型だ。もちろん他にも様々な形のものがあるが持ち運びの面でこの3つが特に人気がある。
なぜUAHがデバイスを必要とするのかと言うと、UAHは体内のオルディアを自力で体外に放出することができず、いくらオルディアを持っていようとも、どんなにコントロールに長けていても、デバイスを通さなければオルディアをUAとして体外に出せないのだ。
だがデバイスを通すと言っても、デバイスから直接能力が飛び出るわけではなく、自身のオルディアをデバイスを通して自分の周りに放出、それを操ることでUAとする。
だがこのデバイス、何もオルディアを放出するだけが能というわけではない。デバイスは体内のオルディアに干渉し、それを体外に引き出す。つまりオルディアに直接干渉できるというわけだ。
この"オルディアに干渉する"という機能に目をつけた科学者が10年の歳月をかけて、これを研究発展させ、当初こそオルディア放出しか能のなかったデバイスを画期的な情報端末へと昇華させたのだ。
具体的に何がどうなったのかと言うと、まず使用者の視界に情報ウィンドウを表示できるようになった。いわゆる拡張現実技術である。これによってUAHはパソコンもケータイも持ち歩かなくてよくなった。他にもリアルタイムで言語を翻訳してくれたり等々、様々な便利機能が実装されている。
オレがデバイスを取り出したのも、ここへきて漸く「あ、学校のマップを参照すればいいんじゃね?」と気づいたからである。
普段魔法で済ませてるせいでデバイスの存在忘れてたとかそんなことは断じてない。ないと言ったらない。
「え~っと?これはどーやって使うんだべ?」
「右上のアイコンが校内地図のやつよ」
「おぉこれか。ありが……と?」
ナチュラルに入ったアドバイスに自然と返事を返したところでやっと違和感に気づく。
思わず振り返るとそこには栗色ショートヘアーの目を見張るような容姿の少女が立っていた。8月も終わりに入ってなお厳しい残暑のためか少女はノースリーブにホットパンツという涼しげな出で立ちで、こちらを覗き込むようにして見ている。
「隣座ってもいい?」
「あ、あぁ別にいいけど」
少女はオレがそう答えるや否や早々(はやばや)と隣に座った。
「君も新入生でしょ?」
「あぁ、なんで分った?」
制服を着ていればネクタイやらバッチやらで学年を判別することは可能だが、今日ここに着いたばかりのオレは当然制服など着ていない。そもそも制服を含めた荷物の大半は業者によってすでに寮の与えられた部屋に運び込まれているので、オレはまだ制服を着たことはない。
「さっきここに来る途中2回くらい君を見かけたんだ。在学生ならあんないかにも迷子ですみたいにフラフラ歩きはしないし、そもそも君キャリーバック引きずってるじゃない。今の時期この学校内でキャリーバック引きずってんのなんて新入生くらいだよ」
少女のもっともな話にそりゃそうだと納得したオレは改めて礼を言うことにする。ちなみにさっきから少女少女と言っているが、別に彼女はそんな幼い感じな訳ではなく、年齢的には今のオレと同じだろう。オレが少女と言ったのは単にオレが1000歳を超えているがゆえに回りの人間が皆若い子供に見えるというだけの話だ。
「ありがとな。オレはセイル・マグラル。お察しのとおりの新入生だ」
少女はオレの自己紹介に若干面食らった顔をした。まぁ大方予想はつく。今世のオレの容姿は黒髪に蒼い目というなんとも不思議な組み合わせだが、全体の感じとしては地球で言うアジア系の顔立ちなのだ。前世では完全に欧米人のような顔だったので、1000年ぶりの日本人顔になるわけだが、名前から分かるとおりオレの今世の生まれはアジア地域に該当する場所ではなく、どちらかと言えば欧米に該当する国に生まれた。
理由は簡単で、東から留学してきていた母親と、現地学生であった父親がくっついた結果オレが生まれたと言うだけの話。オレの容姿は母親譲りな訳だ。
そんな訳で、目の前の少女はオレの容姿と名前のギャップに驚いたのだろう。
「私はアリカ・エーストラント。君と同じ新入生よ。よろしくね」
やはり同い年だったかと思いつつ差し出された握手に応じる。
しかしこれは運がいい。そもそもオレがわざわざ早めに学園へやってきたのは友人を早期の段階で作るためだ。この学園の寮は1人1部屋なのでルームメイトなどの繋がりはあまり期待できない。なまじ中身が年を食っているだけに出来上がったグループの中に入る自信はない。そうなったら遠くから穏やかに見守るポジションになりかねない。というかなる。
ので、友人を作ろうと思って早めに動いた結果が現状な訳だ。そして目の前の彼女、アリカはこの閑散としている店内でわざわざ話しかけてきたところを見るに、向こうも人脈作り……は大げさにしてもオレと似たような意図を持っていることはほぼ間違いない。
オレは初日の昼にして早くも目標の第1歩をスムーズに踏み出すことに成功したのである。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
と言う訳でようやく4話です。しばらくは平穏な感じになりそうです。
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